第26話:微細なる小宇宙 ―縫の鋼糸と、七の刃『輪廻』の胎動―
縫が小籠包を作り始めた。
指先が動くたびに、空中の生地が形を変えた。糸が見えなかった。しかし生地は自分では動かないはずの方向に動いた。餡を包む皺が、一つずつ正確に折られていった。
リンが蓮の袖を引いた。
「あの小籠包、冷たい匂いがする。計算の匂い。……命が中に閉じ込められてる感じ」
蓮は縫の手元を見た。
できあがった小籠包は美しかった。皺の数が全部同じだった。大きさが全部同じだった。蒸し器に並べると、完璧に整列した。
縫が言った。
「糸を通すと、皮の中の圧力が均一になる。肉汁が逃げない。温度が均一に伝わる。……完璧な小籠包とは、計算の結果だ」
「美しいな」と健が言った。
「そうだろう」
「でも食べたくない」
縫が健を見た。
「なぜ」
「完璧すぎるものは、近づきたくない気持ちになる」
蓮は食材を確認した。
蟹のみそと身があった。健が昨夜煮出した鶏の煮こごりがあった。皮の材料があった。
小籠包を作るつもりだった。しかし縫のやり方とは違う方法で。
健が蒸し器の準備を始めていた。
蓮が気づいた時には、健がすでに火の調整をしていた。
「何をしている」
「蒸し器の蒸気の出方を変える。一定の強さじゃなくて、少し波を作った方がいいと思って」
「なぜ」
「広州の粥で学んだ。対流が一定だと、素材への熱の入り方が均一すぎる。少し変化があった方が、素材が反応する」
蓮はうなずいた。
「続けてくれ」
皮を作った。
生地を伸ばした。薄くした。輪廻で皮を整えた。この包丁を使うと、皮に触れた感触が細かく伝わった。どこが厚くてどこが薄いかが、刃を通じてわかった。
リンが鼻を動かした。
「蟹のみそ、今が一番匂いが強い。混ぜるタイミングを逃さないで」
「今か」
「今」
蓮は蟹のみそと身を煮こごりと合わせた。熱を加えた瞬間、蟹の香りが変わった。生の状態から、熱を受けて開いていく香りだった。
「もう少し」とリンが言った。「まだ開いてる途中」
蓮は火を保った。
「今」
火を止めた。
餡の香りが、一つの方向に定まった。
包み始めた。
皺を折った。縫のような完璧な等間隔ではなかった。少し不揃いだった。しかしその不揃いさは、餡の形に合わせた結果だった。餡の量が場所によって少し違ったから、皮の包み方も少し違った。
縫が見ていた。
「不揃いだな」
「そうだ」
「均一でない小籠包は、品質が安定しない」
「人間が食べるものだから、少しくらい違っていていい」
蒸し器に入れた。
健が蒸気の調整をした。一定ではなく、少し波がある蒸し方だった。
縫の小籠包が先に出た。
審査員が食べた。
表情が変わった。驚きの顔だった。しかしその後、目の焦点が薄くなった。咀嚼の動きが機械的になった。
リンが蓮に小声で言った。
「あの人、縫の糸に引っかかってる。食べた後から、糸の匂いがする」
蓮の小籠包が出た。
審査員が箸を取った。
皮を割った瞬間、肉汁が出た。
一滴ではなかった。煮こごりが熱で溶けて、蟹のみそと混ざり合った液体が、皮の中に満ちていた。それが一度に口の中に入った。
審査員が止まった。
縫の小籠包を食べた後の機械的な動きが、止まった。
目の焦点が戻った。
「……熱い」
普通の声だった。
「蟹の味がする。……煮こごりが溶けて……」
審査員は皿の上の小籠包を見た。不揃いだった。完璧な形ではなかった。しかしもう一つ手を伸ばした。
縫が蓮を見ていた。
しばらく何も言わなかった。
それから小籠包を一つ手に取った。食べた。
縫の指先が、少し緩んだ。
「……師匠が食べていた蟹の匂いがする」
昨日言っていた言葉と同じだった。
「師匠が作っていたのか」と蓮が聞いた。
「いや。師匠は食べる専門だった。……毎年、この季節になると上海蟹を買ってきて、自分で蒸して食べていた。不揃いな蟹でも気にしなかった。大きいのも小さいのも全部買ってきて、一緒に蒸していた」
「それが好きだったのか」
「好きだったのだと思う。今になってわかる」
縫は指抜きを外した。
厨房から出てきた料理人たちの動きが変わった。機械的な滑らかさが消えた。一人が首を振った。別の一人が自分の手を見た。
「絲王様には報告する。お前たちが陽澄湖まで来るなら、本人が相手をするだろう」
縫は小籠包の皿を持ったまま、厨房の奥に消えた。
店の中に、蟹の香りが残っていた。
健が片付けを始めた。
リンが蒸し器を覗いた。
「まだ残ってる」
「食べるか」と蓮が言った。
「食べる」
三人で残った小籠包を食べた。不揃いだった。大きさが違った。しかし健が「これの方が、食べるごとに違う味がして面白い」と言った。
窓の外に上海の夜があった。
陽澄湖はここから遠くなかった。




