第23話:冥府の饗宴 ―究極の変異毒と、黒きフカヒレの囁き―
三戦目が始まった。
お題は「命の輪廻」だった。
宗は調理台の前に立っていた。最初から何かを取り出すのではなく、台の上に置いてあったものを確かめるように触れてから、蓮を見た。
「二戦、お前たちのやり方を見た」
「そうか」
「水と触覚と。……どちらも、素材を生かす方向だった」
「それ以外に知らない」
「そうか」
宗は台の上のものを持ち上げた。
ガラスの器だった。中に透明な液体が入っていた。
リンが蓮の袖を引いた。
「……変だ」
「何が」
「あの器の中、匂いがない。完全に無臭。でも……」
リンは言葉を止めた。
「でも」
「スタジアムの食材の匂いが、薄くなってきてる。あの器が開いてから、少しずつ薄くなってる」
蓮は調理台の上の食材を手に取った。
鶏肉だった。昨日まで新鮮だった。しかし触れると、張りが変わっていた。表面の感触が違った。
「空蝉を出した方がいいか」とリンに聞いた。
「わからない。匂いがないから、どこに何があるかわからない」
宗がバルブを開いた。
透明な何かが器から出た。見えなかった。しかし空気が変わった。
健が蓮に言った。
「蓮、この匂い……」
「何が」
「毒の中に、何か知ってる匂いが混じってる。薄いけど確かにある」
リンが顔を上げた。
「私にも、少しだけわかる。……粥の匂いだ」
健の手が止まった。
「……親父の粥か」
「そう。米と水だけの、きれいな匂い。でもその周りが全部、腐ってる」
健は宗を見た。
「……お前、親父のレシピを持っているのか」
宗は答えなかった。笑っていた。
「広州で一番純粋な粥を、毒の基材に使った。純粋なものほど、毒を運ぶ器になる。……お前の父親の粥は、そういう意味では最高の素材だった」
健は動かなかった。
しかし蓮は健の手が固くなっているのを見た。
宗が黒いフカヒレを取り出した。
透明な液体を振りかけた。フカヒレの色が変わった。紫がかった黒になった。
それを鍋に入れた。
香りが来た。旨みの香りだった。しかし底に別のものがあった。甘い、思考を止めようとする香りだった。これまでの毒とは別の種類だった。食べたいという気持ちと、眠りたいという気持ちが一緒に来る香りだった。
観客の一人が立ち上がった。皿の方に向かって歩き始めた。止める様子がなかった。
蓮は包丁袋を開けた。
六本を出した。
まな板の上に並べた。
破軍。素材の真実を出すための包丁。翠景楼での最初の一戦で使った。
流星。清湯の掃湯に使った。陳と一緒に神崎のスープに対抗した夜のことを思い出した。
氷心。広州で初めて使った。劉の鹹魚チャーハンの前に、毒の確認に使った。
爆炎。厦門でラオと対峙した時に初めて握った。熱い包丁だった。
水龍。真珠江の流れを読んだ。貯水施設で毒の流れと清水の流れを分けた。
空蝉。闇の中で触覚を研ぎ澄ました。昨日、使ったばかりだった。
六本を順番に手に取った。それぞれの重さが手に残っていた。
コンロに火をつけた。
しかし火の色が変わった。
橙色の炎が、少しずつ黒みを帯びていった。宗の毒が空気を通じて火にまで届いていた。黒くなった炎では、食材に正常な熱が入らない。
蓮は水龍で水を確かめた。
水の流れが乱れていた。毒が水にも入り込んでいた。
氷心で食材に触れた。
表面の感触が昨日と違った。毒が食材の外側を変えていた。
六本を使って対処しようとしていた。しかしどの包丁でも、宗の毒の根元には届かなかった。火が黒い。水が乱れている。食材の表面が変わっている。それぞれを個別に対処していては追いつかなかった。
観客がさらに動き始めた。
健が蓮を見た。
「どうする」
「六本では足りない」
蓮は包丁袋を見た。
最奥に、まだ触れていない場所があった。
今まで一度も開けていなかった場所だった。母の手帳にも、七本目については何も書いていなかった。名前だけが、袋の外側に刻んであった。
蓮の手が、そこに伸びた。




