表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/2

[第1話]バラ畑で迷子になりました!

 殺戮少女は、もう戻れなかった。

 超能力者を撲滅し、平和な世界を創る。

 もう誰も、苦しまなくていいように。


 だから、今日来た家族も、もちろん殺す。

 超能力者の、『レオネード財閥』の一家。

 どんな”幸せ”を見せつけられようが、引き返すつもりはない。


 薔薇を優しく撫でた後、少女はその一歩を踏み出した。


      *


 レオネード令介(れいすけ)は、赤いバラ畑に立ち尽くしていた。

 目を見開いたまま、蝋人形のように固まっていた。

 自分を包み込む薔薇々々の一つ一つが、美しすぎたのだ──。


 令介はもう一度、深く息を吸った。

 息を吐く頃には、その肩に手が置かれていた。

「──大丈夫ですか?」

「え……」

 振り返れば初めて、薔薇以外のものを見た。

「ずっと立ち止まっていましたので。……あの、本当に大丈夫ですか? 汗、凄いですよ……?」

 呆然と彼女を見つめてしまった。

 黒いセーラー服。先っぽが極端に跳ねた黒髪おかっぱ。赤紫色に輝く瞳。若干濡れた顔……。

「それは、あなたもじゃないですか……?」

 令介がまだ息を切らしながら尋ねると、少女は口角を上げた。

「……気づいちゃいました? 私も、ここまで走ってきたんです」

「なんだか、走りたくなるんですよね。ここ」

 令介が同調を示すと、少女は「やっぱり」と言うように笑った。

「……このバラ畑、素敵でしょ?」

「えぇ。ちょっと怖いくらいですね」

 令介も笑い、やがて二人は薔薇の中を歩き出した。

「……それにしても、本当に綺麗ですね。生まれて初めてです、こんなにたくさんバラ見たのは」

「そうですね。……私も、初めて見た時の感動は……まだ忘れてません……。父と、今と同じように歩いていました」

 令介が、(うつむ)いた彼女の顔を覗き込む。

「……楽しかったですか? お父さんと歩くの」

 少女はチラッと彼を見て、また顔を上げた。そしてただ正面を向き、遠くを見るような目を放つ。

 令介は慌てて言葉を付け足そうとしたが、その前に少女が笑いかける。

「お気遣いなさらなくても、大丈夫ですよ。私、今、あなたと歩けてすごく楽しいです」

 無垢であり、美しい笑顔だった。

「さ、あそこのベンチで、少し休みましょ?」

 彼女が指を指した先を見る。少しだけバラ畑が開けたところに、茶色いベンチがあった。

 近づいて見てみると、少し色の抜けた、傷だらけのベンチだった。

 令介は、座るよう少女に促される。

「……それじゃぁ、失礼します」

 腰を下ろした、その瞬間。

「……さようなら」

 彼は食べられた。

 ベンチの背後から現れた、巨大な食人植物。

 上からかぶりつき、口を重く閉じた。

 頭部を上げては、バリバリボリボリとベンチやら、肉やら骨やらをかみ砕く音を立てる。


 その少女は、令介を食人植物に食わせた。

「……一人目」

 そう呟く。

「……中古の生物兵器でこの有様。大したことなさそうね、天下の『レオネード財閥』も……!」

 不気味な笑みを浮かべ、ひたすら噛み砕き続ける植物を見上げる。

「この調子なら、こいつの超能力も不発で──」

 瞬間どこからか、破壊光線が植物を貫いた。

「……へ?」

 直後、爆風が巻き起こり、広大なバラ畑全体を揺らした。

「な、なんで……!?」

 少女は風に大きく吹き飛ばされると、バラ畑の中に落下していった。


「──おーい令介ー。大丈夫か?」

 さややかな風の音と、父の声で目が覚めた。

「……ん……。……あれ、俺、何してたんだっけ……?」

 令介は目覚めると、父、優介(ゆうすけ)の顔を見る。

「……ん-、ヤバい植物に食べられてたんだがー、父さんが破壊光線で助けた」

 優介は頭をかきながら説明した。相変わらずの、呑気な声色で。

「……はぁ?」

 令介は目を擦り、辺りを見回す。

 数多のバラの花びらが散乱しており、閑静な美しさがどこにもない。

「……あぁ、そうだ。さっきまで迷子になってて……」

 そこまで言いかけて、令介はハッとする。

「……あの女の子は!? あの子も食べられたんじゃ!?」

 令介は慌てて辺りを見回す。その顔にあるのは、純粋に”心配する”気持ちのみだった。

 最後の彼女の言葉など、とっくに忘れていた。令介はそれほどまでに純粋で、親切な人間だった。

「え? 近くに人が……?」

 優介の顔色も変わった時、彼らの背後に少女が立つ。

「──今度こそ、さようなら」

 二人が振り返る間もなく、両手のナイフを首に刺そうとした。

 これで本当に終わり。

 少女は勝利を確信した。


      *


「──で、なんであんなことになってるんだ……?」

 殺し屋の木蓮(もくれん)が、困惑しながら尋ねる。

 少女はムスッとした表情のまま、バラ畑を仲睦まじげに迷う二人を見下ろしていた。


 風の吹き抜ける展望台。バラ畑を見下ろすために帰ってきた少女を、木蓮が出迎えた。

 そして、少女はようやく口を開く。

「……息子の方に、普通にナイフ掴まれた。……そんで、『これで薔薇を切り裂いて歩くんですね!』とか父親が言って畑荒らされそうになったから、ナイフ奪って逃げてきた……」

 少女は柵をガン、ガンと蹴っていた。

 木蓮は古びた双眼鏡を撫でながら、「……そうか」と返す。

「……っていうか、なんなのよあの息子……! なんでバリバリボリボリされて生きてんの!?」

 感情的に声を上げる少女。木蓮は「まぁまぁ」となだめる。

「超能力者ってのは、もともと頑丈なんだ。それが奴の”身体強化”の能力と交差した。確実に潰さなかったのが、まぁ、お前の落ち度だな」

 冷静に、淡々と指摘され、少女はさらに不機嫌になる。

 すると木蓮は少々表情を緩め、励ますように言った。

「まぁそれでも、お前の計画はこっからだろ。『超能力者抹殺計画』は」

「……それはもちろん、そうよ。絶対に殺す。こんなんじゃ諦めないわ。薔薇薔薇薔薇子(ばらばらばらこ)は」

 少女、薔薇薔薇薔薇子は木蓮に向き直り、鋭い目で言い放った。

 棘のような美しさを持つ彼女を、木蓮はしばらくじっと見つめていた。

「……やめたら? その芸名」

「芸名じゃない!」


 ──ここは孤島のリゾートホテル「黒薔薇リゾート」。

 オーナーの薔薇薔薇薔薇子はレオネード一家を葬るため、彼らを招待した。

 薔薇の結界で覆われた、この島に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ