表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうしても憎いあなたへ  作者: 佐藤つかさ
第一章
14/104

2-4

 その日、イオリは落ち込んでいた。

 目が覚めたユータスと話した朝から医療勤務に戻り、今はもう日が沈みつつあった。

 理由はなんて事のない、些細なミス。

 

 羊皮紙に書き留めておいた薬の量を間違えたのだ。

 事前に気付けたし、めったに使わない薬だったこともあってお咎めは無しで済んだ。


 でももしも命に係わる薬だったとしたら?

 もしも服用する薬だったとしたら?

 誰から命を落としたとしたら?

 そのとがを自分は追うことができるか?

 もちろんできるわけがない。

 当然、この施療院を統括するイレーネ・グラッツィアが背負うことになるだろう。

 ひいてはこの施療院の看板に傷をつけることになる。

 その原因は全部、イオリにある。

 

 無論、すべては“もしも”の話でしかない。

 でも起こりうることなのだ。

 

 生きていることが怖い。

 陽が昇るたびに、自分がどこまでやれるかわからなくて思い悩む。

 陽が沈むたびに、自分がやったことは正しかったのかと思い悩む。

 水を吸った真綿のように、首にまとわりつくそれは日々イオリの喉を締め付ける。

 

 医師になりたいと願った夢が、今はイオリの心を苛んでいる。

 自分が進んでいる道は、間違っているのではないのかと。

 

 分からない。

 わからない。

 

 それでも人はたったひとつのことしかできないのだ。

 生きるしか。

 

 

「…………」  

 抱えているトレイから立っているのは湯気と温かい香り。

 そろそろユータスも退屈しているだろうし、いいものでも食べさせようと肉をたっぷり乗せたシチューをよそってきたのだ。

 こう見えてイオリも人並みに料理はできるし、施療院に通ってから療養食もよく作っている。

 ちなみにユータスは駄目だ。彼が厨房に入る姿など想像もできない。料理をするくらいなら一食や二食抜くことを選ぶだろう。

 

 感謝は期待できないけれど、食べるくらいはするだろう。

 それが大きな間違いだと気づくのはすぐ後だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ