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商業都市ティル・ナ・ノーグ。
四方を高い壁で囲い、モンスターの脅威や戦争とはしばらく無縁となった街にとって、もっとも高い死亡率は何か?
答えは疫病である。
何年かに一度引き起こされる大感染。
もしくはちょっとした怪我や、朽ちかけた肉体のメンテにも対応できる総合医療施設。
それがグラッツィア施療院。
最先端医療と腕の良い医師スタッフが常駐し、いついかなる時にも駆けつける、医療のスペシャリストたち。
イオリ・ミヤモトもまたそこの門徒となるべく敷居を跨いだ一人である。
とはいえ、常日頃感染者が出るわけもなく、普段は次の死因と戦っている。
仕事中の事故である。
平和であることの証と言えなくはないが、それで腕を切断したとあっては笑えない。
だからこそ白花からはるばる遠征してきたイオリ・ミヤモトは医者として、町の人々看取っているのだ。
悲しいかな、最近はたった一人にその情熱は注がれつつあった。
ユータス・アルテニカその人である。
「……ところでイオリさん。ちょっといいですか?」
そのユータスが話しかけてくる。
ちなみに敬語なのは、気まずさを感じているゆえである。
「何?」
「オレの腕につながってる管、何?」
「ああ、輸血。貧血気味だったから」
無理やりつながれた管を見ながら、ユータスがいぶかしげに目を細める。
「輸血にしては中身透き通ってないか?」
「生理食塩水。本物の血はゴルディさんたちに全部取られた」
「親方も全滅か……」
親方ことゴルディ・アルテニカ。
このティル・ナ・ノーグにおいても五本の指に入る細工職人であり巨匠の名をほしいままにしている。
我こそはと弟子入りを志願する若者がこぞったものだが、今現在残っているのはわずか七人ばかり。しかもそのうち二人は実の息子。そして遠縁であるユータスだ。
巨匠といえば聞こえはいいが、人生の大半を仕事にささげたド変態である。
そんなド変態が作るもの一つ一つに価値があり、おそらく生涯かけて作るであろう物をすべて金に換算すれば、口にするのも嫌な額に膨れ上がることは間違いない。
しかしてゴルディ・アルテニカは極度の人間嫌いであった。
五十路を超えていながら、嫌なものは嫌と我を通すところは、良くも悪くも職人気質であるといえた。
で、その変態と同じ血筋のユータスはというと。
「ユータ。欲しいものある? おかゆ? 果物?」
「金属ヤスリ」
「仕事すんな」
病的なまでの仕事中毒者であった。




