ジンコの疑問が晴れて俺もすっきりした…女子会か良いな~、何をあんなに楽しそうに爆笑していたんだろうか?
「あ~面白かった!
これでこのおもちゃも俺の物だな。」
明石がニコニコしながらソファに座った。
敗者組はまだ敗者席でうじうじしていた。
そしてジンコはテーブルの身分証を見つめて複雑な顔でいた。
「どうしたジンコ?
俺が警視だとやばいかな?」
明石は四郎の身分証を手に取り、ジンコに尋ねた。
「ううん、私が思うのはもっと別な事よ。」
「別の事?」
俺が尋ねるとジンコはテーブルの自分の身分証を手に取った。
「彩斗、違うわ。
私も警視なんて階級と身分証を貰って初めは浮かれた気分だったの。
なんか私達の活動を国が認めてくれたなんて感じでね。」
「何か不都合があるかジンコ?」
四郎が明石から身分証を取り返して自分の写真の写り具合をチェックしていた。
「あのさ、階級を与えられると言う事はね。
それが最高位の階級でない限りその組織の上位の者の命令に従わなきゃいけないと言う事なのよ。
警視や警視正と言ってもその上には警視長とか、警察庁長官、そして内閣総理大臣の命令に従わなければならないと言う事になるのよ。
なんか、体よく私達が日本政府に取り込まれた感じがしないでもないのよね。」
「うん、成る程、ジンコのもやもやした気分ももっともだな。
俺にもその気持ちは判るぞ。
だがな、ジンコ、その警視の階級と身分証を貰った時に君は何か、誓約書のようなものを書いたか?」
「…いや、何も書いていないわ。」
「それなら口頭でもなにか。警察庁とかに忠誠を誓うとか命令に従うとか宣言したか?」
「…いや、何も宣言しなかったし、身分証の受け取りのような書類にも何もサインとかしなかったし、警視になってお給料がいくらなんて何も正式っぽい事は無かったわね。」
明石が笑顔になった。
「ほら、そういう事だ。
はなちゃんは岩井テレサの思いも読んでいる筈だ。
聞いてみたら良いぞ。」
ジンコがはなちゃんを抱き上げた。
「はなちゃん、岩井テレサはこの身分証の事とかどう思っていたんだろう?」
「きゃはは、ジンコ、ジンコもあの会場にいたじゃの。
あのお偉いと思われる『方々』への岩井テレサの態度はどうだったかの?」
ジンコが考え込んで答えた。
「私の直感だけど、岩井テレサは失礼が無い程度の応対をしながら、極めて事務的に処理してたわね。
あの長官たちを見ていて、大した連中じゃないと思ってたと思うわ。」
「その通りじゃのジンコ。
確かにあの連中はジンコが最初に言った通り、わらわ達に階級を与えて己らの組織に取り込んでやろうとな、この重大事態を利用して岩井テレサや、敢えて岩井テレサが名を言わなかった対立する組織を何とか指揮下に入れようとさもしい小役人のような事を考えておったじゃの。」
「やっぱり…」
「じゃが、岩井テレサの方が一枚も、いや、何枚も上じゃったようじゃの。
身分証を渡す時になにがしかの宣誓手続き、階級にふさわしい給料の支払いなどをあの連中は要求したが、岩井テレサはあくまでも事態終息の為にスムーズに行動できるように身分証と階級を使うのだから、それに付随する一切の手続きは拒否したのじゃの。
岩井テレサはあの連中の指揮下に入る訳では無いのでそれなら階級など結構ですと言ったじゃの。
最後は奴らが折れてな、お願いですから階級と身分証を受け取ってくださいと言うところまで持って行ったじゃの。
じゃから、警察の階級の事や身分証の事など岩井テレサから特別に説明など無かったし、まるでおまけ扱いじゃったじゃの。」
「うむ、さすが岩井テレサだな。」
「な、ジンコそういう訳だ。
この身分証はあくまで俺達がスムーズに動いてあの謎の集団をせん滅するための道具に過ぎないんだよ。
あちらの方からどうぞお使いくださいと渡した物さ。
変な義理とか感じる必要は無いし、もしも、警察でジンコより上の階級の者がジンコに命令してもそれは無視して構わないと言う事だ。」
明石がへらへらしながら言った。
「うむ、その通りだな景行、ジンコ、われでも未だにわれに命令を下せるのはポール様とこのワイバーンのリーダーである彩斗、そして今ここにいる仲間達だけであると思っているぞ。
まぁ、リリーは恋人で別の次元の存在だが、岩井テレサでも対等の同盟を組んだ組織のボスと言うだけの事だからな。
別の組織からいわれのない命令を受ける事は無いぞ。
今はワイバーンと時限的に指揮下に入ったリリーのスコルピオだけの指示に従えば良いと思うぞ。」
「うん、そうか。
なるほどそうよね。
ありがとう、景行、四郎、はなちゃん。
すっきりしたわ。」
ジンコが笑顔で答えた。
なるほど、俺もジンコほどでは無いが何かもやもやした物が心にあったが、明石とはなちゃん、四郎の説明を聞いてすっきりした。
俺達ワイバーンは独立独歩の組織なんだ。
同盟を組んだ組織はあるが、どこかの組織の一員になった訳では無い。
「でも、景行はそのつまらない身分証を手に入れて随分嬉しそうだよね。」
「あっはっは!
彩斗、まぁこれは言ってみれば昔の官位みたいな物だと思うぞ。
俺の親父様も従五位左近将監の官位を貰った時はこんなものは屁のツッパリにもならんがな、とか言いながら嬉しそうでお祝いもしたからな。
名誉職だしな。
まぁ、その程度のものだよ。」
明石は敗者席に向かった言った。
「君らも今の話は聞いただろう?
だからそんなに落ち込まずにこっちに来てお土産のお菓子を食べろよ。」
敗者席で黄昏ていた敗者達がのろのろと立ち上がりソファに来て座ると、お菓子を食べ始めた。
「喜朗おじ…さっきはくそ変態ヲタ親父とか言ってごめんね。
加奈にとっては大事な育ての親だよ。
大好きだから。
ごめんなさい。」
「良いんだよ加奈、俺こそ大人げないな。
確かに景行やはなちゃんが言う通り、ただの面白いおもちゃのようなものだしな。
圭子さんごめんな『がきでか』とか司や忍に教育上良くなさそうなコミックはもう少し取りにくい所に置くよ。」
「あら、喜朗おじ、良いのよ。
今度から私ももっとしっかり娘達を見るからさ。」
「加奈、ケツの穴に紙の棒を突き刺そうになってごめんね。
加奈は顔が可愛いし腹黒じゃ無いよ。」
「真鈴、わたしこそごめんね。
真鈴は彩斗が真鈴のブーツの臭い嗅いだのとかと違ってわざと加奈のケツの穴に棒を突き刺そうとした訳じゃ無かったもんね。
真鈴の足は普通の臭さだし、真鈴も結構可愛いよ。」
「皆仲良し!んが!」
「みんな、アフリカ象が好き!」
皆が笑い、ワイバーンに平和が戻った。
はぁ、途中なんか聞き捨てならない発言があったような気がしたが皆が元に戻って本当に良かった。
先ほどのじゃんけん大会前後の雰囲気とは大違いだった。
その後俺達は屋根裏で四郎や明石、喜朗おじや圭子さん達も参加してナイフトレーニングをし、明日の朝のトレーニング後、ガレージ地下でピストルの練習をする事になり、それぞれの部屋で寝る事になった。
俺がベッドに入ってから少し経つと真鈴とジンコとはなちゃんの部屋から何やら笑い騒ぐ声が聞こえた。
そしてバタンとドアが開く音がして真鈴が加奈!加奈~!と言いながら屋根裏の加奈の部屋に走って行った。
暫くして加奈と真鈴が笑いながら階段を降りて来て、また別のドアが開く音がして圭子さんの声が聞こえた。
「なに~?
もう夜よ~。」
「あ、圭子さんもちょっと来てよ面白いんだから!」
「え?なになに?」
そして加奈と圭子さんも真鈴とジンコとはなちゃんの部屋に入り、しばらくすると女性たちの大笑いする声が聞こえて来た。
やれやれ女子会か、楽しそうで良いなと思いながら俺は眠りについた。
『親友の女性同士の間では、愛し合う男女以上に秘密は保てない。』
by翌日の吉岡彩斗。
続く