クラが襲撃を受けた時の事を思い出し、戦いの重要なヒントになるかも知れない…推理した俺は褒められたがクラにも俺の秘密が漏れてしまう予感。
トレーニングが終わり、俺達はシャワーを浴びて暖炉の間でコーヒーを飲み暫くおしゃべりをした後でそれぞれの寝室に戻った。
カーテンを開けて外を見ると雨が降っている。
ぽつぽつと窓ガラスに当たる雨滴を見ながら明日は晴れると良いなと思いながらカーテンを閉めて俺はベッドにもぐりこんだ。
「起きろ!
起きんか!へなちょこ野郎がぁ!」
毎度のように四郎に叩き起こされた。
玄関ホールに行くとやはりトイレは済ませたか水を飲めと言われた。
真鈴、ジンコと蔵前君、いや、クラも並んでいる。
「いいか!今日は雨も降っているし足場も悪いだろうが、作戦時われ達は徒歩で突入地点に行く事になっている!
雨でも決行の場合、絶好のトレーニングになるだろう!
今日から作戦時と同じ装備を着けて行くぞ!
サブマシンガンもピストルもすぐに撃てるようにしておけ!
勿論コンバットロードにしておけよ!
帰ってきたら銃の点検をする!
泥が詰まって撃てないようなへまをしたらスクワットが2倍になるからな!」
俺達は雨の中、裏庭で準備体操をして装備を身につけてクロスカントリーに出た。
クラも中々訓練を積んでいるようで怪我をした左手を庇いながらも俺達についてきた。
いつもより起伏が多く藪の中を突っ切る様なハードなコースだった。
屋敷に戻り、コースと所要時間の申告をしてサブマシンガンとピストルの点検を受け、スクワットをした。
誰も倍のスクワットをしないで済んで俺達は胸を撫で下ろし朝食を食べた。
そして時折雨が降る中、土手に立て掛けたターゲットに対しての射撃練習を始める事になった。
「いいか!雨の中で作戦決行が決まり、突入口まで樹海を突っ切り、辿り着くまでに敵が待ち構えて迎撃をしてくるかも知れないのだ!
気を抜かずに撃てよ!」
射撃練習後は屋敷に戻り、雨の中で撃った銃の手入れをした。
「あ~いつもよりハードだわ。
でも生き残るためにはしょうがないね。」
真鈴が手入れを終えて組み上がったピストルのスライドを動かして異音が無いか、滑らかに動くかチェックしながらぼやいた。
その後俺達は屋根裏でナイフトレーニングをしたが戦闘時の装備を付けたたままで行った。
サブマシンガンとピストル、予備の弾倉、スプレー缶、マグライト、そして暗視装置とガスマスクを入れたポウチを体に括り付け水筒までつけて、更に俺ははなちゃんを入れたリュックを背負ってのナイフ訓練はきつかった。
時折四郎が『マシンガン!」とか『ピストル!』と叫ぶと俺達は屋根裏の一方の壁に積み上げたレンガの前のターゲットを指定された銃で素早く撃たなければならないし、四郎が『ガス!』と叫ぶとナイフで相手を警戒しながらも素早くガスマスクを装着して、正しく装着しているか四郎からチェックを受けた。
トレーニングが終わると12時を過ぎていた。
四郎が昼食の準備をしている間、真鈴とジンコが作戦の時に俺が背負いはなちゃんが入るリュックに防弾パッドを縫い付けていた。
更にリュックの裏にはポケットを作りセラミックの防弾プレートを何枚か入れた。
「よし出来た彩斗、はなちゃんをリュックに入れて背負ってみてよ。」
ジンコに言われて俺ははなちゃん入りのリュックを背負った。
「どう?動ける?
私達の中でははなちゃんが一番無防備だからね。」
「大丈夫、体にフィットしてるし重くないよ。
行けそうだな。」
「今回わらわは音の壁を張る必要が無いからの。
見えない壁でお前たちを守れるし、悪鬼どもの捜索にも力を貸せるじゃの!」
はなちゃんの捜索能力が買われて俺とはなちゃんのコンビは突入時の先鋒グループに組み入れられている。
ワイバーンが2グループに分かれるまでは俺の左右を四郎と明石が固めてくれることになっているので心強い。
「もしも敵に凄い奴がいたらカタストロヒーの出番じゃの。
あれから練習したから自信があるじゃの。」
「はなちゃん、何回練習したの?」
「お…5回…いや…4回じゃの。」
真鈴がため息をついた。
「彩斗が出かけている時とか何回か練習したんだよ。
まぁ、最初の時の様な凄い事にならなかったけどね…まぁ、進歩してるかな?」
ジンコが相槌を打った。
「そうそう、最初の時みたいにはならなかったけど、やはりあれをするには私達は避難して距離をとった方が良いわね、それにはなちゃんはかなり集中するからカタストロフィーを使った後は2時間くらい、時によっては3時間は気絶する事も有るからね~。」
「…うん…それは…最終兵器と言う事だね…。」
しかし地下で俺達が極めて状況が悪くなった時、はなちゃんはゲームチェンジャーになるかも知れない。
俺達が黙り込んでいる間にもクラは大きな鏡の前でサブマシンガンやピストルの射撃姿勢をとったり、サブマシンガンから手を放して素早くマチェットを抜く練習を重ねていた。
少し入れ込み過ぎだと言おうと思ったが、クラは襲撃を受けてヤクルスのメンバー、そして両親を殺されているのだ。
仕方ない事かも知れない。
「ねえ、クラ…襲撃された時の事を聞いても良いかな?
辛かったら無理しないで良いよ。」
ジンコが声を掛けるとクラはトレーニングを止め、汗を拭きながら椅子に座ると冷めたコーヒーを飲んだ。
「私たちの戦いの参考に聞かせてくれればと思ったんだけど…。」
真鈴がおずおずと言った。
クラは俺達を見て話し始めた。
「奴らはとても統制が取れていましたね。
人間のメンバーでも動きが俊敏です。
気が付いたら僕らヤクルスが突然現れた奴らのど真ん中で囲まれてしまったんです…。」
「それでヤクルスがほぼ全滅に…。」
真鈴が言い、クラは俯いた。
「あ!今になって思いだしたんですけど、ただ何と言うか…。」
クラは言葉を切り考え込んだ。
「どうもうまく言えないんですけど…何と言うか…操られていると言うか…人間メンバーのすぐ後ろにでかい悪鬼がいて、それと繋がっているような気がしました。
カスカベルの戦士が後ろから大きな悪鬼を倒した時に、周りの人間メンバーが少し動揺して動きが鈍くなった気がしたんですよ。
それで俺達も何人かの人間メンバーを倒せてそれで俺ともう一人が突破口を作って何とか包囲から抜け出れたんです。
奴らは何と言うか、兵隊蟻に従う働きアリのような感じですかね。
人間でも悪鬼でもなく、昆虫の集団と戦ったような気分でした。」
「…なるほど、蟻ね…そう言えばあの地下は蟻の巣みたいな印象があったわ。」
ジンコが顎に手を当てて考え込んだ。
「女王蟻みたいな奴がいて全てをコントロールしているのかもね。
教祖みたいな奴がいて他の奴らが盲目的に従うとかね…。」
「ジンコ、そいつを倒せば奴らも動揺して弱くなるとか…。」
「それもあるかもね真鈴。
なんか怪しい宗教の洗脳みたいなことをしているグループかもね。」
真鈴とジンコの会話を聞いていて俺は何年も前にとんでもない犯罪を犯した狂った新興宗教団体を思い出した。
そう言えば狂った新興宗教の奴らの根城はあの樹海からとても近い。
「そうか、上手く行くかどうか判らないけど、近くにいるでかい奴を優先的に倒してゆく戦法は有効かもね。
もしもクラが言うような集団だったら、俺が奴らの立場なら、操った働きアリの連中を使い捨てにして損害を考えずに大勢で攻撃させて敵を混乱させている時にでかい奴が敵を有効に倒すと言う戦法をとるよ。」
「確かに彩斗の推理通りよ!
私でもそう言う戦法をとるわ!」
ジンコが感心した声を上げた。
「うむ、彩斗、良い事を言ったな。
見事な推理だと思うぞ、われがリリーに連絡を取って知らせて置こう。
戦いのヒントになるかも知れん。」
いつの間にか俺達に新しいコーヒーを持って来ていた四郎が言った。
「思い出すのが遅くてすみません。」
「クラ、重要なヒントを貰ったかも知れんじゃの。
気にするなじゃの。」
はなちゃんがクラに声を掛けた。
「彩斗、10回野郎になってないのにやるわねぇ~!」
「そうね彩斗、顔面鷲掴み…ゴホン!さすがワイバーンリーダーね~!」
真鈴とジンコが笑いながらも俺を褒めてくれた。
「あの…10回野郎とか顔面鷲掴み…とかって何ですか?」
クラが不思議そうに尋ねた。
「あ、クラ、生きて帰ってきたら教えてあげる~!」
「きゃはは!そうね!」
「それが聞きたければ生き残る事じゃの!」
真鈴とジンコとはなちゃんが笑い転げた。
…やれやれ。
「明石達が来たじゃの。」
はなちゃんが言い、しばらくすると入り口ゲート前に護衛のセダンに前後を挟まれた明石のレガシーが止まっているのがモニターに映った。
ゲートを開けると明石と護衛が入って来た。
司と忍は護衛にすっかり懐いているようで安心した。
明石にさっきクラが言った事を教えると、やはりそれはリリーに知らせておいた方が良いとの意見になった。
「彩斗、やるじゃないか。
もう10回は突破したんじゃないか?」
明石が俺の肩を叩いて褒めてくれた。
「景行、まだ9回どまりだよ~!」
真鈴が笑いながら言った。
「なんだそうか。
それは大仕事が終わった時の楽しみにするんだな。」
明石が笑顔で答え、俺達は昼食をとる事になった。
皆が昼食をとりながらも時々窓から外の景色を見ていた。
雨が思い出したように曇り空から降って来ていた。
やはりみんなは雨の中樹海を進むのは嫌なんだなと俺は思った。
突入する前に余分な苦労はしたくないのが正直なところだ。
食後、司と忍の発案でテルテル坊主を作る事になって、みんなで色々な大きさのテルテル坊主を作り、軒にぶら下げた。
そして四郎がリリーに連絡を取り、クラが言っていた印象と俺なりの推理を伝えた。
リリーはそれは重要なヒントになるかもと喜んでいたそうだ。
そして明石夫婦も交えて午後のトレーニングを始めた。
司と忍は護衛が面倒を見ていてくれていた。
続く




