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18 色々謎ですね


 心底そう思ったとき、エリオットが妙な顔をした。


「ポール、王太子はポール・デイヴィッドと名乗っていたんですか?」


「え、ええ」


「どんな人でしたか、見た目と言うか、雰囲気と言うかそういうところが知りたいんですが……」


 急に真剣な顔になったエリオットに、わたしは少し目を閉じてちゃんと思い出すことにした。少し薄暗がりの室内に、数人の豊満美女を侍らせていたあの顔と姿だ。


「長い、赤い髪をした格好いいひとでしたよ。髪色と同じ赤い礼服を着ていました。体格も良かったです」


 最初目にしたときはあまりの美男子ぶりにびっくりしたものだ。

 その後がひどかったけど。


「そうですか、何か言っていましたか?」


「まず最初に帰れって従者の方に突然言われて、理由を聞いていたら泣きついているご令嬢たちを乱暴に蹴飛ばしたんですよね。それからわたしに愛人になるなら置いてやってもいいんだぜ、みたいなことを言って来ました」


 あの出来事からそれほど時間は経っていないので簡単に思い出せる。

 思い出したくはないんですけどね。


「……それは、ひどいですね」


「ええまあ、その後やっぱり姉様と取り替えろって言われたんで、姉様の悪口をねつ造して言ったらやっぱり帰れって言われて、お金を投げられました。それをやるからここで起こったことは言うなって言われました」


「ひどい言い草ですね。僕がいたら殴ってます。顔が腫れるぐらいしないと、言っていいことと悪いことの区別がつかないんですね。許せませんよ」


 何だか怒ってくれている。

 エリオットがわたしのために、怒ってくれているのだ。その事実に、ちょっと気持ちがふわふわした。

 何だろう、こんなに嬉しいと思うことは久しぶりだ。


 思えばわたしのために怒ってくれるひとなんて、家族とかメイジーやボリスやチャドたちのような使用人たちくらいで、他にはいなかった。

 今まで話をした男性はすぐに姉の方に気が行ってしまい、わたしが困っていても手をさしのべてくれることさえなかった。


 そんなわたしのために……。


「どうして嬉しそうにしているんですか? ジェシー様はひどい目にあったっていうのに」


 怪訝そうなエリオット。わたしはどう答えたものか考えた。


「えっ、ええと、こ、このお菓子! このお菓子おいしそうだなあって。お話が終わったら、食べられるかなって思ってて……」


 苦しい。苦しすぎる良い訳だが、なんとなく本当の気持ちをさらけ出すのは嫌だったので笑いながら焼き菓子をとって一個口に入れる。バターの香ばしい香りが鼻腔いっぱいに広がり、食感はさくさくしていてとても美味しい。おいしいが、あんまり味がわからなかった。


「ああ、確かに長いこと話し込んでしまいましたな。アンダーソン公爵令嬢はそろそろ空腹なのですかな。私のところのコックは腕が良いので、どうぞお食事を楽しみにお待ちください」


「あ、ありがとうございます」


「ただ、この屋敷からは出られませんよう。見張りもつけておりますし、この国にとって重要な機密を知ってしまわれた訳ですからな。しばらくは、この国に滞在して頂くことになるでしょう」


 スタンリー将軍は笑顔でさらさらと教えてくれる。

 その言葉の内容に、メイジーが険しい顔になった。


「では、どの程度の期間になるのかお教え頂きたいのですが?」


「この問題が片付くまでです。何、殿下の恩人である以上、丁重にもてなしをさせて頂きますとも。見張りつきならば外出も構いませんが、危険でしょう」


「この問題……?」


「王位継承権問題についてですよ、アンダーソン嬢」


 にこやかに答えてくれたスタンリー将軍だったが、その返答にわたしは目の前が真っ暗になった気がした。

 それって、場合によっては何年もってことになるんじゃないだろうか。


「公爵家への連絡は可能でしょうか?」


「もちろん。我々が責任を持って手紙などは届けましょう。先ほども言いましたが、どうやら殿下はアンダーソン嬢をとても気に入っておいでのようだ。

 しばらくここで、ゆっくりされるといい」


「と言うことは、状況もお教え頂ける、と?」


「当然でしょうな。巻き込んでしまったのですから、お答え出来ることならなんなりとお答えしますとも」


 お答えできることなら、という言い方が引っ掛かる。

 メイジーも同じことを思ったらしいが、それ以上は口にしなかった。無駄だということがわかっているのだろう。


「分かりました。では、部屋などはすぐにご用意頂けるのでしょうか?」


「ええ。本日中には必ず。しばし、ここでご歓談を。私はコックと話をして参りますので、後ほどお会いしましょう」


 では失礼、と言ってスタンリー将軍は退室していった。


「あの、ごめんなさい。僕のせいですよね」


「ううん、そうじゃないから。気に病まないでね、ええと、殿下って呼んだ方がいいのかな?」


「止めてください。お願いします……これまで通り名前で呼んでください。メイジーさんも、チャドさんもですからね!」


「わかったわ、じゃあわたしのこともジェシーでいいよ」


「えっ、でも……」


 戸惑うエリオットに、わたしは笑顔で言った。


「もう身分の差みたいなものはなくなった訳だもの、むしろ貴方の方が上なのよ。だったらそう呼んで、ね?」


「は、はい……」


 少し顔を赤くしたエリオットが可愛い。

 あまりの可愛さについつい表情筋が崩れ去っていくような気がする。すると、メイジーがあることに気づいた。


「あの、今まで忘れていたのですが……ボリスはどこでしょう?」


「えっ!」


 驚いて周囲を見てみると、確かにいない。そういえば様子を見てくると言って馬車を離れて以降目にしていない気がする。わたしは少し青くなった。


「うそ、ちょっ、探さないと!」


 わたしは慌てて見張りをしていた警備隊員に事情を説明し、ウチの護衛がいないんですけど、探してもらえませんかと頼み込んだ。


 結果、すんなりと了承してもらい、しばらくしてから戻って来たボリスがちょっと半泣きだったことだけここに記しておく。



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