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第一話 内臓ズルズルの絶望から始まるって、初期設定の激痛で脳が焼き切れそうなのだが?

はじめまして。あるいはこんにちは。

作者のあさろう豆腐は崩れやすいです。


本作は、裏切られて世界の底へと突き落とされた主人公が、とんでもない能力を手に入れて爆速で成り上がる「復讐・無双ファンタジー」です。


序盤は少し痛々しい描写もありますが、後半からは一気にブレーキの壊れたインフレ無双が始まりますので、ぜひ最後まで楽しんでいってください!


「アルゴル・クレスト、天職鑑定の結果を言い渡す…………固有スキルなし、魔力ランク最小。天職【世界のクズ】」


「……は?」


 大聖堂に、鑑定士の冷酷な声が響き渡った。


 その瞬間、俺の頭の中に、不気味な黒い五つの文字が焼き付けられた。


「ただの無能ならまだしも、神からクズの天職を授かるなど、我がクレスト家の恥さらしだ。今すぐ処分しろ!」


 実の父親が冷たく言い放つ。

 次の瞬間、かつて俺を「自慢の弟」と呼んでいた実の兄が、迷いなく剣を抜いた。


「すまんな、リオ。一族の泥を払うためだ。死んでくれ」


 白刃が閃き、俺の左腕が肩口から綺麗に切り落とされた。

 ドクドクと溢れ出る大量の鮮血。遅れてやってくる、脳が焼き切れるような激痛。


「がはっ、あ、あぁぁぁあああッッ!?」


 悲鳴を上げる俺を、兄は容赦なく大聖堂の奥地にある、最凶の未踏破ダンジョン【深淵の奈落】へと繋がる暗黒の穴へ蹴り落した。


 どれだけ落下しただろうか。

 途中の岩盤に激しく激突し、生々しい肉の破裂音が暗黒に響く。

 ドシャリと最下層の泥水に叩きつけられた時、俺の身体はすでに「人間」の形を保っていなかった。


「ガ、ハッ……、あ、が…………ッ!?」


 口から溢れ出すのは、大量のどす黒い血の塊。

 見下ろすと、衝撃で避けた腹部から、ドロドロとした自分の内臓が地面にこぼれ落ちていた。

 下半身の感覚は完全に消失している。

 骨盤から下が完全に粉砕され、ピクリともきのうしない。

 かろうじて繋がっている上半身だけで、俺は血の海の中に転がっていた。


 死ぬ。一秒ごとに命の灯が消えていくのが分かる。

 魔力ランク最小の俺には、自分を癒やす魔術なんてない。

 だが、アイツらをこの手で絶望の底に引きずり下ろすまでは、俺は死んでも死にきれない……ッ!


「あ、あぁぁぁあああッッ!!」


 狂気的な執念だけで、俺は残された右腕を泥に突き立てた。

 機能しない下半身とこぼれ出た内臓を引きずりながら、ずるずると、ただ前へと這い進む。

 視界が失血で白く染まる中、俺の上半身は、ダンジョンの岩肌へと激突した。


            ◇ ◇ ◇


 バアアン、と激しい音を立て眼前の岩盤が二つに割れる。

 倒れ込むようにその隙間へ倒れ込んだ瞬間、背後で再び岩が噛み合い、退路は閉ざされた。


 ……進むしかない。


 脳が焼き切れるような激痛が走る中、俺は必死に右腕を動かし続ける。


 やがて俺の右手が、青く光る謎の盤面に触れた。


『――認証成功:現代言語の適格者を確認。緊急治療プロセスを開始――』


 耳の奥で、頭を直接揺らすような無機質な音声が響いた瞬間、俺の身体が内側から沸き立った。


「が、あ、あぁッッ!?」


 聖なる光の治癒なんて生ぬるいものじゃない。

 床にこぼれ落ちていた内臓が、まるで生き物のようにずるずると音を立てて腹の裂け目へと自ら這い戻っていく。

 メキメキ、と潰れた骨盤が強制的に噛み合い、切り落とされた左腕の断面からドロドロとした肉芽が噴き出して、一瞬で元の腕の形を成した。


 細胞が沸騰するような強烈な熱と激痛。

 だが、治療が終わると同時に、その痛みは嘘のように消え去った。


 俺はゆっくりと立ち上がり、新しく生えた左腕を握りしめる。

 身体は完全に元通りになった。

 魔力が増えたわけでも、最強の力を得たわけでもない。

 ただの、元の無能の身体だ。


 だけど――


「……生きてる。俺、本当に生きてるんだな……!」


 ついさっきまで肉体も精神もドロドロにすり潰され、死の寸前だった。

 それが今、五体満足で呼吸をしている。

 五感を通じて脳に伝わる「生きている」という自室が、涙が出そうな程、狂おしい程に嬉しかった。


 生き延びた。あいつらを見返すチャンスを、俺は掴み取ったんだ。


 興奮を落ち着かせながら部屋を見渡すと、冷たい鉄の机の上に、何冊もの古い本が大量に詰まれているのが目に入った。


「なんだ、これ? 魔導書か……?」


 俺は吸い寄せられるように近づき、その本を手に取る。


『神聖古代文字の解読方法と正体、種類、特性 全集 第一巻』


 全身に鳥肌が立った。

 今まで人類が何百万年とかけて解けなかった【神聖古代文字】の正体――。


 その答えが、ここにある。

 俺は地獄の底にいることも、全身の肉体が再生したばかりだということも忘れ、ただ狂ったように、貪るようにページをめくり続ける。


 教本に記されていたのは、異世界の言語の仕組み。

 【神聖古代文字】とは、異世界の言語のことだったのだ。


 名詞、動詞、副詞、形容詞、その他諸々の法則――。

 文字が脳に吸い込まれるように染み込んでいく。


 数時間、あるいは数日だったかもしれない。

 寝食を忘れ、机にあった莫大な量の教本を読み『異世界の全ての言語の仕組み』を完全に学び終えたその時――。

 

 俺の脳裏に、まるで天啓の如き閃きが(はし)った。


「【世界のクズ】を異世界の言語に翻訳するなら、英語のscum(スカム)、フランス語のordure(オルデュール)、ドイツ語のabschaum(アプシャウム)、スペイン語のescoria(エスコリア)……古代英語のorts(オーツ)か! これを並べ替えたら、rots(ロッツ)、英語で「死に絶える」を意味する言葉になる!」


 その瞬間、部屋の空気が一変した。

 青く清涼だったはずの認証盤の光が、どす黒い紫色の魔力へと変色し、部屋全体に死臭のような悍ましいプレッシャーが吹き荒れる。


『――真・天職の解放、【世界のクズ】が再定義され【世界を腐絶せし者】へと変換――』 


 脳裏に響く無機質な声は、先ほどとは明らかに異なり、世界そのものが怯えているかのように低く震えていた。


「はは……ハハハハハ!」


 腹の底から笑いと共に膨大なまでの魔力が込み上げて止まらなかった。

 手のひらから迸るのは、万物を崩壊させる紫黒色の閃光。


「これなら、アイツらに復讐できる……」


 だが、今のままでは俺は未熟だ。

 ……ちょうどいい。

 ここ【深淵の奈落】の最凶になって、やり返してやる。


 決意を胸に、俺はゆっくりと踵を返した。

 今度は己の足で一歩一歩確実に閉ざされた岩盤へと歩を進める。

 そこに『恐怖』なんてものは存在しなかった。

 在るのは、『復讐心』と『昂揚心』だけ。


 薄笑いを浮かべながら、俺は新しく映えた左手で岩盤を撫でた。


「やってやるさ、俺はアイツらに絶対に復讐する」


 刹那、強固な巨岩が俺の手のひらが触れた中心から同心円状に静かに崩れていく。

 原子の結合を失い、ただのサラサラとした砂へと岩の壁。


 壁の向こうに広がるのは、静寂と、どこまでも続く底知れない暗闇。

 ここは人類未踏破ダンジョンの最深部――【深淵の奈落】。


 静寂のあまりの不気味さに、ゴクリ、と唾を飲み込む。


 ズチュウウゥ……、ぐちゃ、と、暗闇の奥からひどく生々しい肉の咀嚼音が響いてきた。


 目を凝らすと、そこには地上なら一夜で一国を滅ぼす災厄級の魔獣【冥府の黒獅子】がいた。

 漆黒の毛並みを血に染め、先程捕らえたであろう別の魔獣の肉塊に、その凶悪な牙を突き立てている。

 バリバリと骨をかみ砕く鈍い音が響き、引きちぎられた内臓から赤黒い血が床へドロドロと溢れ出す。黒獅子は血みどろの顎で、むしり取った生の肉をずるりと喉の奥へ流し込み、歓喜に濡れた低い唸り声をあげていた。


 見る者すべてを失神させる、奈落の地獄絵図。


「ふ、ふふふ……」


 だが、その残虐な光景を前に、俺の口元は自然と吊り上がっていた。

 腹の底から湧き上がる衝動を抑えきれず、狂喜すら孕んだ不敵な笑みを、その血生臭い暗闇へと投げかける。


「いい喰いっぷりだ。お前が強いなら、それだけ俺の『糧』としても上等っていうことだからな」


 俺の嘲笑を浴び、黒獅子がぴたりと食事を止めた。

 血の滴る顎を上げ、飢えた瞳で俺という「新たな獲物」を睨み付ける。


「グルアアアアッ!」


 大口を開け、千切れた肉片を撒き散らしながら、音をも置き去りにして飛びかかってくる巨獣。

 その牙が俺の首元に届くより早く、俺は無造作に右手を突き出した。


 触れる。それだけで十分だった。


 ズズッ、と嫌な音が響く。

 魔獣の強靭な牙が、皮膚が、骨が、俺の手に触れた瞬間、凄まじい速度で灰褐色に変色し、ボロボロの塵となって霧散していく。

 生物の『生』の意義を奪い、強制的に完全なる『腐敗=死』へと至らせる最凶の技。


「ガ、ル……っ!?」


 鳴き声さえ途切れ、巨獣は悲鳴を上げる暇もなく、その巨体を全てがサラサラとした砂となって床に崩れ落ちた。

 後に残ったのは、莫大な経験値の奔流だけだ。


『――個体名【冥府の黒獅子】の死を確認。経験値を獲得。レベルが上昇:Lv.1→Lv.26――』


 頭の中に響く無機質なアナウンス。

 一撃。

 たった一撃で、世界のパワーバランスを崩壊させるような跳ね上がり方だ。


「はは……本当に、最凶になれる」


 視線の先、奈落の更に奥底から、俺の放った波動の気配を察知した無数の魔獣たちの赤い眼光が、一斉に光るのが見えた。

 この未踏破領域の全てが、俺の敵であり、同時に至高の『餌』だった。


「いいぞ、もっと来い。そして俺の糧となれ」


 俺は更に奈落の奥へと歩を進める。


 バサァッ! と、突進してきた突進してきた双頭の巨大蝙蝠が、俺の放った見えない波動の障壁に触れただけで、空中でそのまま砂の塵へと変わる。


『――個体名【暗黒の天鼠】の死を確認。レベルが上昇:Lv.26→Lv.45――』


 迫り来る死霊の群れが、俺の手から放たれる空間の歪みに巻き込まれ、存在そのものを消し飛ばされる。


『――個体名【深淵の活死人】を五十八体、個体名【深淵の白骨兵】を七十八体、個体名【煉獄のグール】を二十九体、個体名【漆黒のグール】を十九体、個体名【深淵の首無騎士】を十七体、個体名【混沌の亡霊】を五十三体の死を確認。レベルが上昇:Lv.45→Lv.190――』


 孤独な暗闇の中、悲鳴、崩壊、そして圧倒的な進化だけが繰り返される。

 灰と塵に染まった両手を見つめ、俺は暗闇の奥へ向かって低く笑う。


 アイツらに教えてやるよ。

 この深淵から這い上がってくるのが、本当の『絶望』だってことを。

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