表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/68

48 バトルロイヤル2

 突然ですが、爆破解体の映像を見たことは御座いますか?

 日本ではまず行われませんが、爆発物を用いた建築物の解体は海外では時折実施されているそうです。


 わたくしが見たのは百メートル超のビルの爆破動画でした。

 ビルの根元が爆破されると、後はもう一直線です。途中でつっかえると言うこともなく、そのままストンと崩落します。

 巨大な構造体が一瞬にして粉塵と化す光景には得も言われぬ爽快感が御座いました。


 さて、話を本題に戻しましょう。

 このダンジョンのシンボルとも言える数百メートル級の電波塔が、爆破解体さながらに崩落いたしました。

 骨組みの全てが割り箸にでも変わってしまったかのように、一切の突っかかりなく、真っすぐに。


「残りプレイヤーは……十人ですか。いきなり三人も減りましたわね」

「崩落に巻き込まれたと考えるのが妥当」


 電波塔の下や、展望デッキなどに居たのでしょう。

 強固な鉄骨で組まれた電波塔を傾かせずストンと崩すのは物理的に困難な筈ですが、何かカラクリがあるのかもしれませんね。


 まあしかし、真の問題はそのようなことではなく。


「それを成せる規模のスキルの使い手が居る、ということですわね」

「ランク四……」


 イベント優勝に向けてわたくしもユウさんも必死に鍛錬に励みましたが、ランク三からの脱却は叶いませんでした。

 【ランク3.90】には届いたのですが、そこからの進みが牛歩でして。


 ですが他の全員がそうであるとは限りません。

 わたくし達より先に始めたプレイヤーが居るかもしれませんし、成長が速いプレイヤーも居るかもしれません。


 ランク四以上が参戦している想定はずっと行なってきました。

 とはいえこう実際にその力を示されると畏怖を感じざるを得ませんね。


「作戦会議中に悪いにゃんけど、ここで運営からお知らせにゃん。プレイヤーが規定数を下回ったからマップを縮小していくにゃん。この場所は一分以内に飲み込まれるから中心部方面に向かうべきにゃん」

「なかなか嫌なタイミングで言ってくださりますわね」


 あんなのが居る危険地帯に自分から飛び込むのは……少々昂りますね。

 優勝からは遠のきそうですが。


「でも、ジッとしてても負けるだけ」

「ですわね」


 後ろを振り向きます。

 ダンジョンの終端である灰色のベールがゆっくりとこちらに迫って来ていました。


 普通のダンジョンであればベールに触れても現実世界に戻されるだけです。

 しかしバトルロイヤル中でのそれは脱落という扱いになります。

 中央部に近づく必要がありました。


 ──ォォォオオオオンンッ


 その時、またも空気が震えました。

 建物同士の隙間から、中央部のビルが崩落するのが見えます。


 崩落はその後も連続し、どうやらそれは東の方へと向かっているようでした。

 移動しながら戦闘を行っているのでしょうか。


「どうなさいますか? ビル爆破犯(仮)(かっこかり)は東部へ移動しているようですが、わたくし達は西部へ?」

「……他の参加者が同じことを考えてたら鉢合わせになる。安全なのはランク四の近く。場外負けしない程度に距離を取ろう」

「分かりましたわ」


 欲を言えば交戦時のために破壊手段を見ておきたかったのですが、このイベントでは彼女の判断に従うという取り決めでした。

 わたくしは勝利よりも興味を優先させかねませんから。

 今回も、余計なリスクを侵すより慎重策の方が良いかもしれませんしね。


 それから細い道を選んで近づいて行き、少ししたところで気配を察知しました。

 ユウさんも気付いたようで、目線を合わせてこくりと頷きます。

 いつ先制攻撃が飛んできても良いように警戒しながら接近しますが、最初に掛けられたのは声でした。


「こっから先には行かん方がええで。阿呆が暴れとるからな」


 路地裏の角から姿を現したのは、高校生くらいの少年でした。

 片手には何の変哲もない木の棍棒を持っていて、背中にはバックパッカーが背負うような大きなリュックがあります。


「これはこれはご親切に有難う御座います。……単刀直入にお聞きしますが、何が目的でしょうか?」

「そない警戒せんでもええで。ジブンも言うた通りただの親切や」

「あら、そうでしたか」

「……これはバトルロイヤル。姿を見せればどうなるかは、分かるはず」

「ま、そうなるわね。ええで、ワシの方もほとんどやること終わっとるし」

「やること、ですか?」


 答える義理はないはずですが、少年は気前よく話をしてくださります。

 一応話を聞いてはみますが、時間稼ぎである可能性も視野に入れた方がよいでしょう。


「せや、ワシらが参加したんは監督のためや。運営の対策だけやと抜け道があるかもしれんし、何かしら悪事を働く奴が居らんか手分けして見張っとった」


 やけどと彼は言葉を続けます。


「イベントもぼちぼち大詰めや。ワシらが見回っとった範囲にヤバそうなプレイヤーはおらんかったし、もしも脱落しても構わへんやろって思うて出て来たんや。そっちが掛かって来るんならワシも相手になるで」

「……とのことですが、どうなさいますユウさん?」

「当然、倒す」

「ですわよねッ」


 本当にあちらに仲間が居るのでしたら、合流される前に数を減らしておくべきです。


「【チャージランページ】!」

「<アクアタクト>」


 わたくしが飛び出すと同時に相手も動いておりました。

 リュックから大量の水が溢れ出し彼の前で壁となります。


 しかし既に間合いまであと一歩。

 水壁ごと貫くという気概で地を踏みしめ、全力で刺突する刹那──水壁が黄金へと変わりました。


「【ゴールドシフト】」

「ごっ!?」


 突進の勢いが災いし壁に正面衝突します。<護身結界>が大きく削れる感覚がありました。

 壁はすぐに水に戻り、わたくしの視界に入ったのは数メートル後退した位置で投球姿勢に入っている少年。


 これは不味い、と思いハルバードを構えようとしますが、


「あら?」


 意外な重さにバランスを崩します。

 見れば、ハルバードが半ばまで黄金に変わっておりました。


 そしてその一瞬が命取り。

 少年の手を離れる直前で野球ボールは黄金へと変わり、隙を晒したわたくしへと一直線に飛びます。


「危ないっ」

「ユウさん!」


 重い金属音を響かせ短剣がボールを弾きました。

 間一髪、しかしながら被害は甚大です。


「重い。これは……」

「恐らくは黄金化の能力でしょう。それも伝染型の」


 ユウさんの短剣もハルバード同様、黄金に侵食されておりました。


「【ダスクキル】……駄目。解除できない」

「それはそれは、難敵ですわね」

「どないする? 今ならワシも退いてもええで」

「御冗談を。ここからが面白いのでしょうに!」


 わたくしの能力値は筋力値が秀でています。

 重心がズレたと意識さえしていれば、半黄金ハルバードでも支障はほとんどありません。


 あちらもダメ元での打診だったようで、残念がる様子もなく戦闘の構えを取っています。

 お互い、その場で相手の隙を伺う時間がしばし続き、わたくしとユウさんは同時に顔を(しか)めました。

 最初、それが敵の増援であると考えたからです。


 しかし少年が焦ったような表情を浮かべたことでそれが誤解だと気付きました。


「なっ、さすがに三人目はキツ──」

「──獣真流体術・豹刈(ひょうがり)


 それは肉食獣の如き瞬発でこの場に現れました。

 少年の立つ場所の右手側の通路から飛び込んで来たその男性は、少年に足払いを仕掛けました。


 疾駆の運動エネルギーを一切損なわない、淀みのない体術。

 少年も逃れようとしたようでしたが、わたくし達へ意識が向いていたのもあり、僅かに回避が間に合わず足払いを受けます。


 男性の足には<魔刃>の刃が生えており、それが<護身結界>を一撃で軌り捨てました。

 小さな光と共に少年が消え、わたくし達の武器の黄金化が解けます。

 しかし、状況が好転したとはけして言えません。


「これで首級は三つ目、そんであと二つ追加かぁ。ハハッ、最多キル賞が見えて来たなァ!」


 闖入者である男性は、極めて好戦的な視線でわたくし達を捉えているのですから。



 今回より五日に一回の更新となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ