47 バトルロイヤル1
『じゃあ健闘を祈ってる』
「ええ、北西部で落ち合いましょう」
その言葉を最後にユウさんとの通話を切りました。
バトルロイヤル開始直前のことです。
通常のダンジョンと異なり、バトルロイヤルではフレンド同士でも別地点からのスタートとなります。
初期配置は完全にランダムなので、イベントの開始前に集合場所を決めておく必要があるのです。
なお、ダンジョン内でも磁石はなぜか使えます。
川も流れますし空気が淀んでもいません。
四方を灰色のベールに囲われた閉鎖空間ですのに不可思議なことです。
「三、二、一……転送開始にゃん」
「ばっちこいですわ」
視界にダンジョンの景色が飛び込み、わたくしは目を見開きます。
「ここは……ダンジョンなのですか……?」
『にゃん。ちゃんとイベントダンジョンだにゃん』
わたくしが立っていたのは壁一面を覆う窓の手前。
そこから望める空は、たしかに平板な灰色に覆われていました。ダンジョンであることに間違いは御座いません。
が、空の下に広がる街並みは、見慣れた現代都市そのもの。
恐らくビルの十階くらいであるここからは街の様子がよく見えます。
高層ビルの森の中に幅広な車道が張り巡らされたその光景は、ダンジョンの中においては他の如何なるファンタジー地形よりも異質に感じられました。
「これ程の街に人ひとり見当たらないのは薄ら寒いものがありますが……これも一興ですわね。それに実際は二十二人もプレイヤーが居りますし」
ダンクエのイベント用画面に視線を落とすと「参加者 22/22人」と表示されておりました。
泥仕合にならないよう、このイベントではいくつかの特別措置を取ると事前説明で聞きました。これもその一環です。
わたくしとユウさんを除いた二十人のライバルに後れを取らないためにも、早く合流地点に向かいましょう。
「フロアの中央は……ちょうどあの電波塔の辺りですね」
高層建築の群れの中でさえ嚢中の錐を体現する超高層電波塔。それをランドマークに移動を開始します。
スマホの方位磁石で方角も確認済み。ここは南西部のようですので、目指すは北。つまり、目の前にある窓の向こう側です。
「えいっ」
バリ゛ィンッ!
分厚い強化ガラスをハルバードで粉砕し、ガラスの破片と共に外へと躍り出ます。
<空歩>で適度に減速しつつ着地。そして間髪入れず車道のど真ん中を爆走します。
隠密行動というバトロワゲームの定石を知らないかのような暴挙ですが、<隠密>がないわたくしは、無理にコソコソするより突っ走った方が安全と判断しました。
<隠密>使いに一方的に補足されても、振り切ってしまえば良いのです。
明かりのない信号機をいくつか過ぎ去り、スクランブル交差点が見えて来たその時。
右の道路から人影が現れました。
一拍遅れて<索敵>が生物の気配を捉えます。
あちらもわたくしに気付いたのか、ギョッとした顔をこちらに向けます。
ですがわたくしは既にトップスピード。
この距離なら一呼吸の間に肉迫できます。
「ちょ待っ」
「<魔刃>!」
「桂馬っ」
ハルバードが彼の右脚を刈り取る寸前、その姿が掻き消えました。そして三、四歩ほど離れた位置に現れます。
転移能力でしょうか。
わたくしは<空歩>で急ブレーキを掛けます。
「あっぶな~! いやっ、いくらバトロワだからってオネーサン容赦なさ過ぎっしょ!」
「そちらも中々やるようですわね。ですが次は当てますよ」
「怖ぁ、お喋りとかしないパティーン?」
染め残しの目立つ金髪をした男性プレイヤーは軽口を叩きつつも、わたくしの動き出しを見逃すまいと目を光らせています。
先程の突進を見れば脚力値を警戒するのは自明。
「──」
右脚を引き重心を落とし駆け出す、と見せかけてハルバードで路面をゴルフのようにスイング。
アスファルトが散弾となぅて彼を襲います。
「っ、歩!」
彼はバックステップしつつ木製の兵隊を召喚。散弾への盾とし、直後、兵隊が撥ね飛びます。
【チャージランページ】でスタートを切ったわたくしと衝突したのです。
「速すぎねぇっ!?」
「それが取り柄ですので!」
「金!」
凶刃が届く直前、黄金の光が具足となって彼を包み込みました。
そして薄紙の如く切り裂かれました。
出し惜しみは無しと【チャージランページ】の防御無視を発動した結果です。
「勝ち、ですわね」
具足を破ると同時、彼は消えました。
最初に使われた転移能力ではありません。あの時あった【魔力】の弾ける反応がありませんでしたし、今回は消える直前にピカッと発光していました。
「うふ、対人戦というのも中々どうして楽しいものですわね」
部活を辞めて久しく忘れていた勝利の味を噛み締めます。
昂揚のままにハルバードをぐるんと回し、先の戦闘を振り返ります。
転移、召喚、具足作成。いずれも先天スキルか魔術スキルでしょう。道具を使っていた様子はありませんでしたしマジックアイテムの可能性は除外できます。
転移を一度しか使わなかったのは何か制限があったのでしょうか。
今ある情報では考察には限界がありますね。
「しかしそれでも速攻は有効でしたわね」
対人戦に向けてわたくしも戦術を練りました。
それが速攻戦術。相手に考える暇を与えず攻めて攻めて攻め立てて押し切る、というものです。
相性もあるかと思いますが、実戦で有効性が確かめられたのは大きな収穫でしょう。
「さあ! 目指すは二十二人の頂点ですわ!」
ユウさんの欲している治療薬を得るためにも、わたくしは意気込み新たに駆け出しました。
「ようやく見つけた」
「あら、ユウさん……そちらも激戦だったみたいですわね」
無人の都市の北西部をぶらつくことしばらく。<索敵>を頼りにパートナーと合流を果たしました。
しかし彼女の短剣の刃には、遠目にも見て取れる大きさの欠けがあります。
イベント中はダンクエの機能も制限されるので、イベント終了までは修復することは出来ません。
【魔力】回復薬も持ち込める数に限りがあるので、【魔力】消費の激しいスキルは慎重に使う必要があります。
「残りは十三人ですわね。不吉な数字です」
「でも、まだ半分以上居る。もう少し隠れてよう」
「それが最善でしょうね」
『マップ縮小』が始まるまではこちらで待機です。
「今の内にこれまでの情報交換を致しましょう。わたくしが矛を交えた殿方は──」
「何……あれ?」
目を丸くしたユウさんの視線を辿って振り返ります。
ですが彼女が居なくともわたくしはすぐにそれに気付いていたことでしょう。
何故ならば。
──街中央部に聳える超巨大電波塔が、無残にも崩落する音がわたくし達の元まで轟いたからです。




