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66.変幻の指し手、ミオの妙技!

 棘上の翼を広げることなく脚力のみで彼我の距離を詰めたレギテウ。そうして獲物である腕から刃を生やした人型ユニットへと牙を剥いた、その瞬間。


「ダメダメ。殺るなら《スイムリーパー》じゃなくてこっちにしてよね──《メロウキャンディス》でガード!」


 そこに割り込んでくる、色鮮やかな飴玉のような見た目をした守護者ユニット。《スイムリーパー》の代わりに狼の牙を受けたキャンディスは一瞬も持ち堪えることなく砕け散った。


「【守護】持ちを撃破! ……とは喜べないよね。ダイレクトアタックもできたのにそうはせず、【好戦】の能力を活かして《スイムリーパー》を狙ったその理由は明白だ。だからボクだってそれを許すはずがない──さあどうするのさアキラ。せっかく呼び出した《ビースト・ガール》に君はなんて命じる?」


「…………」


 《ビースト・ガール》は【疾駆】を持つ。ダイレクトアタックできるのは彼女も同じだ──が、しかし。ここでアタックして疲労レストしてしまえば、それは敵からのアタックに無防備になることを意味する。ミオの場にはガールと互角のパワーを持つ《スイムリーパー》がいるのだからターンを明け渡した後にどうなるかはそれこそ明白である。故により高パワーのレギテウでリーパーの排除を目論んだわけだが、それを察したミオはしっかりと防いできた。よってここでアキラは選択を迫られる。


 次のターンでやられることを覚悟してでもライフコアをひとつ奪うか。それとも《ビースト・ガール》を守るために行動可能な彼女に何もさせないか。けれどそうしたところで必ずしも相手ターンを生き延びられるという保証なとなく、かと言ってアキラの場には守護者ユニットもいないため突っ込ませれば死は確実。


 この難しい、というよりもどちらにも等しく高いリスクがある二者択一を前にアキラが下した決断は。


「──やれ、《ビースト・ガール》! ミオへダイレクトアタックだ!」


「あはっ、そっちを選ぶんだね……ウッ!」


 跳躍、からの攻撃。ダイナミックに振るわれた爪の一撃でまたミオのライフコアが削られた。これで彼の残りライフは三。そろそろ身の守りに重点を置かねばならないラインとなったが、それでもミオの余裕は消えず。


「クイックチェックだ。──お、ラッキー。クイックユニットを引いたから無コストで召喚するね。おいで、《スコードロン》!」


 《スコードロン》

 コスト4 パワー1000 QC


「……! そっちも引き運がいいじゃないか」


 パタパタと無数にあるヒレのような部位を忙しくなく動かす機械魚。その登場にアキラが苦笑混じりにそう言えば、「そうでもないさ」とミオも笑みを返す。


「こんなのは確率だよ、確率。ボクもクイックカードはそこそこ投入しているんだから、そうやって攻め込めばそりゃあ一枚や二枚は飛び出すってものでしょ。ま、とはいえ。こいつがアキラにとって最高にアンラッキーだってのは事実だけどね──《スコードロン》の登場時効果を発動! 自分と相手のユニットを一体ずつ、手札・・! その対象を選ぶのはボクだ!」


「バウンス効果だって……!?」


 バウンスとは一般的にユニットを手札へ戻す行為のことを指す。破壊を介さずにユニットを退かせられるという点では墓地送りと類似するものだが、しかしバウンスは場合によって墓地送り以上にプレイヤーを苦しめる除去方法にもなり得る。墓地の活用が得意な黒陣営は言わずもがな、その他の陣営であってももう一度召喚しなおさなければならないという明確なテンポロスは歓迎できたものではないからだ。


 手札に戻るユニットが余程に有益な登場時効果でも持っているなら話も別だが、しかしバウンス対象を相手に選ばれるのでは大方のシチュエーションにおいてそんな都合のいい事態は起こり得ないと見做していい。中でも今回のレギテウのように、多大な犠牲を支払って呼び出したユニットが手札に戻された場合はまさに惨憺としか表現のしようがないが──敵側のミオからすればそれは絶好の狙い目となり、見逃す理由がない。


「君の場からは《バーンビースト・レギテウ》、ボクの場からは《アローン・ボディ》を対象に指定する。さあさ手札にお帰りよ!」


「く……!」


 ボウン、とカードに戻ってしまったレギテウ。それはミオのアローンも同様ではあるが、しかし両者は召喚コストが違う。その上でアローンには登場時効果もあるのだからなおマズい。一方的に被害を被っているのはアキラばかりだ。


(いや……この場合はデッキバウンス・・・・・・・じゃなかっただけ良かったと思わなきゃな。手札なら再利用の目途も立つだけまだマシな方だ。《アローン・ボディ》だって効果を発動できるのはミオの場にユニットがいない時だけなんだから、言うほどマズいってことはない)


 アローンがトークンを生み出すのであれば、即ちミオの戦線が壊滅しているという意味であり。裏を返せば一旦壊滅しないことにはアローンの登場時効果はなんの力も発揮しないという意味でもある。状況は悪くとも最悪ではない。そう考えて気を持ち直さんとするアキラだったが、そんな彼への追い打ちはすぐだった。


「俺はターンエンドする」


「あは、忘れてないよねアキラ? エンド宣言に合わせて《ヴィクティム・マシーン》が動き出す! 今度はティティとガール、どちらを犠牲に差し出すんだい? なんて、答えは聞かなくたってわかりきっているけど!」


「俺は……ティティを選ぶ」


「やっぱり大正解。そりゃそうだよね、非力な妖精とエースカードじゃ迷う余地もない。ってことで哀れな妖精さんには何も言わずに死んでもらおっか!」


「っ……、」


 三度稼働する箱型の処刑機械。手を合わせて瞼を閉じたままティティがその内部に引きずり込まれ、そして響く耳をつんざく破壊音。その後に訪れる静寂もまた耳に痛いもので、観戦している下級生一同の中にはこの残酷な光景に顔を青くさせている者も少なくなかった。


「マシーンも止まったところでボクのターン、スタンド&チャージ。そしてドロー! んー、またまたいいカードを引いちゃったなぁ。引き運だけじゃないよ、構築バランスもばっちりだからこそ手札事故だって起きにくいのさ。手札がレギテウ一枚のアキラに言っても馬の耳に念仏かもしれないけどねー」


「相変わらずよく回る舌だな、ミオ。だけどドミネイターならファイト中はプレイで語ってほしいところだな」


「──あは、いいよ。それが君のお望みならね」


 まずはアタックだ。そう言ってミオが指示を下したのは《スイムリーパー》。彼の襲うべき相手は前のターンから既に決まっている。


「攻撃対象は《ビースト・ガール》! パワーは共に4000、相打ち撃破だ!」


 リーパーとガールが交錯し、刃と爪が同時に互いを切り裂いた。その結果は痛み分け……これでアキラの場にユニットはいなくなった。そしてミオの場にも残すは《スコードロン》一体のみとなったが、しかし彼には五つのコストコアと五枚の手札がある。その中の一枚を掲げたミオは幾分か鋭くなった視線をアキラに向けて言った。


「ここでボクはもう一枚のオブジェクトカードを切らせてもらうよ」


「なっ、二枚目のオブジェクト……!?」


「コスト3、《水精加護の水籠》を設置! このオブジェクトはボクのターン終了時に【守護】を持つ『アクアメイツ』トークンを一体生む!」


 トークンを毎ターン生成するオブジェクト。その効果が持つ意味にアキラはすぐ気付いたが、それに構わずミオは更にもう一枚カードを手札から引き抜き。


「残りの2コストでスペル《水解式》を発動。スライムトークンを一体生成する──だけでなく、ボクの場に『アクアメイツ』がいれば追加でもう一体生成できる。《スコードロン》は『アクアメイツ』! よってスライムは二体生まれる!」


 そしてターンエンドだ。そうミオが宣言した瞬間、箱型機械と水籠が共に動き出した。



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