67.超天才の完璧なる作戦
「ボクのエンドフェイズにふたつのオブジェクトが起動。まずは《水精加護の水籠》が『アクアメイツ』トークンを輩出! そして次に《ヴィクティム・マシーン》がボクのユニットを一体持っていく──ボクが差し出すのは《水解式》で出したスライムの内の一体だ!」
処刑マシーンの餌食に選出されたのはたった今生まれたばかりの粘性生物。表情というものがないため何を考えているのか定かではないが、死を待ちながら小刻みにぷるぷると揺れているその姿からは悲哀を感じざるを得ない。それは見る者の勝手な印象かもしれないが──とにもかくにもスライム以上に何も考えておらず、文字通りの無心で殺戮を行なうだけの機械がまさか慈悲など見せるはずもなく。
生まれたての小さな命は処刑室たる箱の中へと消えていった。
「好き放題だな、その機械は」
「そうでなくちゃ平和は守れないもの。それにスライムは犠牲になるために生まれたようなものなんだからそう気にしなくたっていい──そろそろアキラにもわかってきたでしょ? ボクの戦術コンセプトの大方がさ!」
《スコードロン》
コスト4 パワー1000 QC
《アクアメイツ・トークン》
コスト1 パワー1000 【守護】
《スライム・トークン》
コスト2 パワー2000
自分の場のユニットたちを示すように両腕を広げるミオ。そこにいるのはいずれも低パワーであり、バトル面で言えば大した脅威にもならない小規模な戦線だ。しかしこの場面においてはパワーの高低など大した問題ではなかった。何より問題なのはミオが戦線を築けているという事実それそのもの。その意味はアキラの場の状態と見比べてみれば一目瞭然であろう──先ほど《ビースト・ガール》が《スイムリーパー》と相打ったことで彼のフィールドにユニットはゼロ。完全壊滅を喫しているのだ。
(俺が置かれている状況こそがミオの狙いにして戦術。──ミオはこのファイトで俺にまともな戦線を築かせないつもりなんだ!)
《ヴィクティム・マシーン》による毎ターンの除去に加え、《スコードロン》というこれまた高性能な除去能力を持ったクイックユニットが飛び出し、その上でミオ自身は《アローン・ボディ》や《水解式》といった一枚から複数のユニットを出せるカードを活用して自分だけは場を整えることに余念がない。このプレイングを目の当たりとすれば否が応でも気付かされるというものだった。
「つまりミオの考えた緑陣営への対策がこれ……!」
攻撃権のある《スコードロン》でダイレクトアタックせずにエンドフェイズへ移行したのも、徹底して手札という反撃のチャンスを与えないため。ユニットを場に揃えさせない作戦の一環に違いない……たった一枚しかない手札を大事に抱えながらアキラはそう考える。これは間違いなく対緑陣営を想定した戦い方であると。
二回戦で当たった対戦相手も同じようなことはしてきた。赤の攻撃力をもって激しく攻め、しかしライフコアよりも場のユニットを最優先で狙ってアキラに戦線を築かせないようにと──要はユニット同士の連携が売りである緑の強味を潰すための戦法を取っていた、けれども。
ミオのこれはやっていること自体は同じでもそのための手段がまるで違う。そして練度もだ。二回戦の彼よりも遥かに洗練されており、そして対処が難しい。実際に二回戦では敵の猛攻に晒されつつもそれを乗り越えて勝利したアキラに対し、現時点で『三対ゼロ』というユニット数の差をつけていることからもミオの戦法の完璧さは証明されているも同然であった。
差はこれより更に広がっていくことだろう。処刑機械は稼働を続け、水籠はトークンを生み続け、ミオ自身も除去と展開の双方を常に両立させるはずだ。ライフコアでは倍差があるものの、このままだとジリ貧で敗北する。アキラにはうんざりするほど鮮明に未来の光景が見えていた。その予想図はミオが思い描くものと同一であり。
「そうだよ、アキラ。誰が決勝での相手になろうともオブジェクトカードを活かすためのデッキを使うつもりでいたけれど、本命はやっぱりアキラだったからね。組み上げる上で自然と緑陣営への対策を見据えたものになったよ──除去コントロール! そこに展開力も掛け合わせたのがこのデッキのコンセプトさ。ふふ、我ながら自信作なんだけど戦ってみての感想はどうかな。けっこう切れ味あるでしょ?」
「とんでもなく、ね。《ヴィクティム・マシーン》の被害を受けているのはミオも同じなのにここまでフィールドに差が出るのは……流石としか言いようがないかな」
そう、何よりも恐ろしいのはデッキ以上にミオの手腕。構築バランスの難しいであろう複雑なデッキを己が手足のように自在に操り、それでいて難しいことをしているようには一見して思わせないこと。そこに天才少年の天才たる所以がある。……仮にミオのデッキを真似たとしても自分ではまったく操り切れないだろう。素直にそう認めることができるだけに、プレイセンスにおいてアキラが彼に劣っていることは明らか。
その一種の諦観が伝わったのかどうか、ミオはまるで励ますように言った。
「まーそう落ち込まないでよ。ボクはどの陣営のどんなデッキだって構築できて、それを使いこなすこともできるけど、中でも一番得意なのがこの青陣営だからね。攻め手にこそ欠けるもののそれ以外の全てが揃っている。そう言っていい青という色こそが最も工夫のし甲斐があって楽しいし、ボクの性にも合っている。だから今日のボクは、このデッキを使っている今こそが最も強い。最強中の最強ってわけ。連携や展開力を売りにしている緑がその分野で後れを取るってのは屈辱かもしれないけど──でもそうなって当然なんだよね。何せボクってほら、超天才だし?」
だから手も足も出なくても仕方ないのだと。ミオが言いたいのはそういうことだとアキラは理解して、故に彼の返事はたった一言。
「それはどうかな?」
「えっ……これはどういうこと?」
ひらり、ひらりと。揺蕩うように舞う二匹の蝶。確かに全滅させたはずのアキラのフィールドにいつの間にかユニットが二体も出現していることにミオの目付きが変わる。
超天才の予定に書かれていない出来事が起こった。あれだけ調子に乗っているような言動を見せておきながら、不意の事態には即座に最大レベルで警戒できるミオにドミネイターとしてのどこまでも高い適性を見ながら、アキラは「《暗夜蝶》の効果だ」と説明する。
「このエンドフェイズにこちらもカードの効果を発動させてもらった。発動された場所は手札でもフィールドでもなく、墓地!」
「墓地からの効果発動……!」
「《暗夜蝶》は自身が墓地に置かれている状態で俺の場のユニットが相手によって破壊されたターン、好きなタイミングで復活することができる。それによって俺は二体まとめて蘇らせた……こいつらをいつ墓地へ送ったかは、言わなくてもわかるよね」
「《ビースト・ガール》と同じくレギテウ召喚のための手札コストでしょ。……そっか、だからアキラはさっきのターンにガールでアタックしたんだね。あれは勝負を急いでのものじゃあなく、《スイムリーパー》との相打ちを誘うもの。ボクに『破壊』をさせるための策だったと」
「その通りだ。《ヴィクティム・マシーン》の処理は『墓地へ置く』もので、《スコードロン》なんていう『バウンス』カードまで出てきた。それらはいずれもユニットを除去するものでありながら『破壊』とは違う……このままじゃせっかく仕込んだ《暗夜蝶》がいつまでも出てこられないと思ってさ」
「ガールを死なせてでもユニットの頭数を優先したってことね……まあボクのライフコア一個とユニット一体を持っていってるんだから戦果は充分だよね。なるほどなるほど──いいね。ちょっと見直したよ、おにーさん。その調子でボクのこと、もう少し楽しませてくれる?」
「っ……ああ、言われずとも! もう勘弁してくれってくらいに楽しませてやるさ!」
俺のターン! アキラは裂帛の気合と共にターンを開始させた。




