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20.あと一勝! 最後の相手は……

「しっし。もう用はねえだろ、さっさと失せな」


 すっかり委縮したガキ大将はコウヤにそう言われてそそくさと立ち去っていった。あんなに体格のいい相手を一捻りとは、やっぱりコウヤはすごいなぁ、とアキラが改めて彼女の逞しさに感心を覚えたところで。


「コウヤもここが試験会場だったんだ」


「まーな。アキラを見つけてアタシも驚いたけどよ、まーこんなこともあるわな」


「そうだね」


 会場の数は全部で十一。友人と場所が被る方が珍しいが、絶対に被らないというわけでもない。見知らぬドミネイターばかりの中で息苦しさを覚えていたアキラにとってこの偶然は幸運だった。その安心感もあって、今の彼にはいつも以上にコウヤのことが頼もしく見えている。


「コウヤも勿論?」


「あったりまえだぜ、軽く二勝中さ。そっちもだろ?」


「うん、なんとかね」


「なーにがなんとかだ。トドメの刺し方見るに、あのデカいのを圧倒してたじゃねえかよ。……随分とやるよう・・・・になったみたいだな、アキラ」


 受験間際、最後の強化月間ということで最近は休み時間や放課後の辻ファイトにも参加しなくなっていたコウヤは、しばらくアキラのファイトを生で見ていなかった。友人伝手に日に日に彼が強くなっていっていることは聞き及んでいたが、今の勝ち方からするとその成長ぶりは彼女の想像以上と言わざるを得なかった。それが嬉しいような、少し寂しいような複雑な気持ちがコウヤにはあった。ドミネイターとしてファイトに臨むアキラの姿を見られて喜ばしい反面、自分の助けをもう必要としていない彼の背中に一抹の悲しみを覚えたのも事実。


 ここ数ヵ月、アキラへ行う指南ファイトを自分は思った以上に楽しんでいたらしい──そうしみじみと思うコウヤに、そんな感情にはまったく気付かずアキラは屈託なく言った。


「俺はとにかく経験を積むために、色んな子たちとファイトしまくったからね。実戦を通してデッキの構築を確かめてきたんだ。おかげで学校中のほとんどの生徒と顔見知りになったよ」


「全校生徒を網羅する勢いでファイトを? なるほど、そりゃあ一皮剥けるってもんだ。最後の一ヵ月に相当詰め込んだんだな」


「コウヤだってそれは同じだろ?」


「へへ、おうよ」


 受験の本番までにファイトをなるべく多くこなすことに拘ったアキラとは反対に、コウヤはいつもと違う環境を求めた。回数よりも更なる強敵とのファイトを望んだのだ。隣町にある有名なドミネファイトの塾に押しかけてそこの代表生徒に挑んだり、ドミネイションズ・アカデミアに入学こそできなかったものの元受験生のドミネイターがいるというミヨシ中学校に赴き、その人物とファイトしたり。そうやって強者の噂を頼りに武者修行のようなことを繰り返していたのだ。


 おかげで放課後を丸々使って一戦しかできていない日というのもザラにあったが、しかし友人らとのファイトだけでは得られないものを手にすることができたと彼女は感じており、この方法を選んだことに後悔はなかった。


「お互いにあと一勝で合格か。天下のDA受験でここまで順調たぁな……つまり特訓の成果が出てるってことだよな」


 このままサクッと受かってDAに入っちまおうぜ、と受験のプレッシャーをまるで感じていないような気軽さでいつも通り肩を組んでくるコウヤへ苦笑しつつ、しかしアキラは彼女のためにも苦言を呈した。


「勿論俺だってそのつもりだよ。だけどこの本試験、構造的に勝つほど相手も手強くなる。次の三戦目が最難関というか、本番みたいなものだと思うから、ここまでが順調でも油断はできないぞ」


「ん……そっか、そーだな。相手も二勝して勝ち残ってる奴ってことだもんな。そりゃ強敵だわ」


 気ぃ緩めるのは良くねーな、とコウヤは心持ちを改めたようだった。それでいいとアキラは思う。油断や慢心さえなければ、きっと彼女のこと。この会場の誰と戦うことになっても負けはしないだろう。たとえ先ほどの天才少年、泉ミオが相手でも──とそこまで考えて、アキラはコウヤにも彼のことを伝えて警戒するように言っておくべきだと思い至った。


「コウヤ、ちょっと教えておきたいことがあるんだ──」


『はい、二戦目も全て終了しましたね』


 しかしタイミング悪く、試験官のアナウンスがアキラの言葉を遮った。会場中がモニターに集中するのに倣ってアキラたちもそうするが、モニター内のムラクモという男性はやはり眠たげな顔付きをしており、非常にローテンションであった。受験生の熱気など知ったことではないといった感じだ。


『えー……ではこれより三戦目に入ってもらいます。また通知が鳴りますので、鳴った人は戦って。鳴らなかった人は退出。さっきと同じです。それじゃスタート』


 簡素に過ぎる進行、そしてドミホが鳴り響く。しかし三戦目ともなればその音は最初のけたたましさの影も形もなかった。それでもうるさいことはうるさいが会話をするくらいの余裕はある……それ即ち、また一段と人が減ったということだ。会場から出ていく鳴らなかった組、その肩を落としてトボトボと夢の舞台から降りていく受験生らの後ろ姿を見て、コウヤはいっそうに気を引き締めて言った。


「負ければアタシらもあの列に続かなきゃならない。そんなのはゴメンだ」


「……俺もだよ」


「気張ろうぜ。健闘を祈るぜ、アキラ」


「そっちもね、コウヤ」


 互いの勝利を願って腕相撲のような形で握手をした二人は、いざ戦う相手を見つけんと己がドミホへ視線を落とす。画面を水平にして、矢印の向く方へ行けばいい。そして互いの矢印が向かい合っており、近づいて一際ドミホの通知音が大きくなればそれが次なる対戦相手である──。


 え、と呟いたのはどちらだったか。

 あるいはそれは、二人が揃って漏らした声だったのかもしれない。


「アキラ……これって」


「コウヤ……」


 呆然とこちらを見るコウヤの手元。そこにあるドミホの画面の矢印は、間違いなくこちらを指している。そして自身のドミホもコウヤを指している……対戦相手が向き合った印として通知音がより耳にうるさくファイトを促してくる。こうなればもう、否定することなどできやしない。


「そう、みたいだね。三戦目は──俺とコウヤでファイトしなくちゃならない」


「……!」


 強く歯噛みするコウヤに、アキラも同じ気持ちだと俯いた。



 よりによってどうしてコウヤなのか。当初に比べればぐっと人数も減ったとはいえ、まだ会場にはたくさんの受験生が残っている。その中の誰でもよかったのだ。コウヤでさえなければ、誰でも。だというのに、ランダムだという選出は意地悪くも大切な幼馴染を相手に選んだ。この蹴落とし合いのサバイバルで蹴落とすべき人物として示してきた──なんでこうなる、とアキラは絶望的な気分になる。


 誰が相手でも勝ってみせる。そう誓いはしたが、しかしこれはあまりにも……そう項垂れるしかない少年に対し、少女の方は。


「……うっし! やるか、アキラ!」


「えっ……!?」


「ここでうだうだしてたってしょーがねえだろ。アタシらはドミネイターだぜ。だったら戦うべき相手を目の前にして下向いてちゃいけねえよ」


 やるっきゃねえんだよ、ファイトを。そう言ってデッキを構えたコウヤに、「でも」とアキラは踏ん切りがつかない。


「そんな簡単に割り切れないよ! 負けた方はDAに入学できないんだぞ……!?」


「だったら何もせずに降参するか? そんでDAへの入学を諦めていいってのか」


「……っ、」


「そんなことできやしないだろ? もうお前だって立派なドミネイターなんだからよ。アタシもそうだ──だったら! どんなにつらくたって戦って白黒つけるしかねえだろうが! いいから構えやがれアキラ!」


「っっ、ぅううう!」


「「ドミネファイト!」」



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