21.エリアカードの恐怖!
苦渋の決断で始まったアキラとコウヤのドミネファイト。先行を決定する命核の明滅が起こったのはコウヤの方だった。
「先行は貰ったぜ。アタシのターン!」
コウヤのデッキの一番上のカードが魔核となる。先行プレイヤーはドローができないためにチャージのみでスタートフェイズを終えたコウヤは、そのまま何もせずにターンエンドを宣言した。
「俺のターン、ドロー!」
(一ターン目に何もしなかった……いるなら絶対に召喚するはずだから、コウヤの手札にコスト1のユニットはいないな)
コウヤのデッキカラーは赤。赤が得意とする速攻戦術を取るなら、先行一ターン目にユニットを展開できないのはその時点で大事故と言っていい。だがコウヤが一ターン目に何もしないことは、実のところそう珍しくない。彼女の攻めは軽くて速いジャブというよりもどちらかと言えばどっしりと重いストレートを繰り出すような、緑陣営にも相通じる王道のパターンであることが多い。
「だとしてもコウヤを相手に出し惜しみなんてしていられない……! 俺はディスチャージを宣言!」
「! 早速使ってきたか」
「ライフコアをひとつ犠牲に、コストコアをひとつ増やす!」
通常のチャージで増えた分と合わせてアキラのコストコアはふたつ。手札のカードを一枚選び、彼はファイト盤へとそれを置いた。
「《幻妖の月狐》を召喚!」
《幻妖の月狐》
コスト2 パワー2000
月狐は標準的なスタッツをした小型ユニット。コスト相応のパワーを持ちながら、同時にメリット効果も持ち合わせているのがこのユニットの長所だ。
「登場時効果により、俺はデッキからカードを一枚ドロー! そしてその後、手札から一枚を墓地へ」
手札入れ替えの能力。盤面への干渉はなく、手札の総数も増えてはいないが、これも立派なアドバンテージ獲得の一種だ。その使い勝手の良さからアキラのデッキのレギュラーメンバーの座を獲得している白い狐は、それが自慢なのかどことなく誇らしげであった。
「俺はこれでターンエンドだ」
「へっ、デッキを掘り進めてお得意のビーストカードを探し当てようとしてやがるな。涙ぐましいプレイングじゃねえかよアキラ」
「コウヤはいつもここぞという時に切り札を引き当てるもんね」
そういう経験はアキラにもある。この場面で引けなければ負け、というところで《ビースト・ガール》や《キングビースト・グラバウ》に助けられたことが何度となく……だが、それはここ最近の膨大な数のファイトの内のたった数例でしかない。それに対しコウヤはと言えば、ほぼ毎回のように必要な場面に必要なカードをドローする。それは単に『運がいい』というよりも──。
「デッキが応える。強いドミネイターとそのデッキは、厚い信頼関係で結ばれているもんさ。それがファイト中に表れるんだよ──引き運って形でな」
「デッキとの信頼……」
それなら自分にだってある。何よりも信頼する己がデッキを見ながら、まるで意思疎通を図るように黙り込んだアキラ。そんな彼からそっと視線を外したコウヤは、自身の手札へと目をやった。そこには彼女のエースカードである《フレイムデーモン》が既にあった。
(お前がもう手札にいるってことは、多分。そんだけアキラが油断ならねえ相手だと警告してるんだよな……いいぜ、デーモン。長年アタシを助けてきてくれたお前を信じる──こっちも初っ端からフルスロットルでいくぜ!)
「アタシのターン、チャージ&スタンド! そしてドロー!」
力強くカードを引き抜いたアキラは、そこでビシッと自身のライフコアのひとつを指差した。
「アタシもディスチャージを宣言だ! 変換先はコストコア!」
「これでコウヤのコストコアは三つ……!」
「ユニットカードを召喚──すると思ったか?」
「えっ!?」
「アタシが選ぶのはこいつだ! コスト3を支払い、《灼熱領域》を発動!」
「それは……『エリアカード』!」
ユニット、スペルに続くドミネイションズ第三のカード種。それがエリアカードだ。ユニットカードと同様に一度発動すれば場に残るものの、エリアカードそのものがプレイヤーやユニットにアタックすることはできない。しかしエリアが展開されている限り『互いのフィールド全体』へ強制的に効果を適用させるその能力は、下手なユニットよりも遥かにファイトへ及ぼす影響が大きいと言える。
「エリアは大抵が自軍を有利にするための効果を持っている。《灼熱領域》もご多分に漏れねえぜ。その内容は赤以外のユニットのパワーを-2000するというもの! 当然アキラ、お前の月狐もデバフを食らう!」
《幻妖の月狐》
パワー2000→0
こぉん、と全身から力の抜けた月狐が切なげに鳴き、そして倒れ伏した。ドミネイションズでは通常、パワーがゼロになったユニットはフィールドに存在することができずに墓地へ置かれる。戦闘や効果による破壊とはまた違ったユニットの排除方法──それによって月狐を失ったことに、マズいぞとアキラは戦慄する。
(舞城さんとのファイトでもパワー2000以下のユニットが完封されかけたけど、これはあの時以上に良くないな。何せ《灼熱領域》がある限り俺はとりあえずユニットを並べることすらできない……!)
ぐつぐつと煮え湯のように粟立つ地面は、明らかに豊かな自然の中に棲む小動物たちが生息できるような環境ではない。確かに灼熱という名に恥じない地獄のような場所だと汗を拭いながら思うアキラに、コウヤが「どうだよ」と胸を張った。
「これが武者修行で得たアタシの新たな力だぜ。お前の小型ユニットはもう場に留まることができない。そのデッキには相当手痛いだろうが……悪いなアキラ。アタシはファイトで手を抜けるほど器用じゃねえもんでよ」
「知ってるさ。だから俺は一度もコウヤに勝ててないんだ」
彼女はビギナーである自分にも決してお情けで勝たせようなどとはしなかった。そこがコウヤの厳しさでもあり優しさでもある。そしてアキラは、そんなドミネイターとして気高い彼女のことを心から尊敬している。だからこそ。そんな尊敬する相手との蹴落とし合いであるこのファイトが、辛くて苦しくて仕方がないのだ。──だが今はとにかく、そんな感傷などは抜きにして目の前のことに集中しなくては。
そうでないとあっという間に負けてしまう──それだけ紅上コウヤという少女は強いのだから。
「アタシはターンエンドだ!」
「俺のターン、ドロー! ……コウヤ、お前が新しい戦法を取り入れたように俺だって前までの俺とは違う。このデッキだってそうだ」
「面白え、どう変わったのかアタシに見せてみな」
「言われなくたって! 俺はディスチャージでコストコアを増やす! そして今あるコストコアを全て使って、来い! 《獣軍隊長レコマンド》!」
《従軍隊長レコマンド》
コスト4 パワー4000
迷彩柄のベレー帽とベストを着用したキリッとした顔付きの熊が場に降り立ち、見事な敬礼を披露。しかし足元の地面が熱々だったためにわちゃわちゃと脚を上げ下げし始め……その様を見られていることにハッと気付いた彼は、また何食わぬ顔で敬礼を再開。しかしやはり熱いものは熱いのだろう、その両脚はプルプルと震えていた。
パワー4000→2000
「……パワーが2000より高いユニットで耐え凌ごうって腹か。だがそれでも《灼熱領域》の影響からは逃れられない。パワー4000の中型ユニットでも小型ユニットへと早変わりだぜ!」
「場にいてくれるだけでも充分だ──レコマンドは常在型効果を持っている! その卓越した指揮能力によって、このカード以外の自軍の種族『アニマルズ』はパワーが+1000されるんだ」
「なるほど、エリアカードみたいな能力を持っているユニットか。考えたじゃねえか……ま、それだけじゃなんの解決にもなってねえけどな」
「……ターンエンドだ」
レコマンドが存在している限り、パワー2000のユニットもギリギリでエリアカードのデバフを耐えられる。だがそれは、レコマンドが退場するタイミング如何によってはフィールドが壊滅的な被害を受けかねないというリスクも孕む。そしてコウヤはレコマンドをいつ排除するか選べるのだから、状況は好転したとは言い難かった。
「《ビースト・ガール》以外にも中型ユニットを採用しているとは意外だったが、その程度の戦略じゃあアタシの新デッキには太刀打ちできねえぜアキラ。そのことを教えてやるよ!」




