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episode 19 静寂の村

 ルイーダ達が砦を出発して三日、約束通り伝令兵が砦へと到着すると村へ向かい船を待てとのことだった。


「魔者すらいない村ってのは寂しいもんなのね」


「全くだ。

 建物があるのに物音一つないんだからね」


 深々と降る雪が音を立てている、そんな錯覚を覚えるほどに静かな村で船着き場を探し歩いている。


「ああ、ここだろうな。

 村長の屋敷からは反対ってところか」


「そうね、だったらそこの家でも借りて少し待ちましょ」


 元は宿屋だったらしい二階建ての建物に入り暖炉に火を焚くと、そこで少しの間お喋りでもしながら船を待つことになった。


「さて、これで尾根島に行けることになったけど、そこにある山が咆哮の峰で(ドラゴン)がいるのよね」


「ああ、間違いない。

 一応は咆哮の峰で合っているか調べてみたからな。

 ただし、竜がいるかどうかまでは、ってところだ」


「咆哮の峰ならいるはずよ、確かな情報だからね。

 ただね、その竜の咆哮が必要って感じなわけ。

 それも、耐え難い恐怖なんだって。

 ニールセンは竜について何か知ってる?」


「竜、ね。

 そいつはまだまだ謎に包まれてる部分が多くてな。

 仔竜(ドラゴンパピー)なら文献を読めばある程度知識は蓄えられるんだが、竜となると文献も中々なくてね」


「そうなの?」


「竜ってのは魔人戦争以前、それよりも遥か昔に存在していた所謂(いわゆる)幻獣の部類だからな。

 もし現存しているなら、今までの戦争には関わらずひっそり生きていたことになるから文献も数は少ないんだ」


「なるほどね、幻獣か……。

 だとしたら、異界への扉を開く力があるってのもまんざら嘘じゃなさそうね」


「だろうな。

 竜なら可能性はあるし、それだけの力は有しているだろうさ」


「あとは耐え難い恐怖ってのが心配ではあるけど、フレイを帰してあげなきゃならないからね」


 と、チラリとフレイに目をやるとその表情はいささか曇っているように思えた。


「どうかしたの?」


「え?

 あ、いえ、そのことですが……いえ、何でもありません……」


「どうしたのさ。

 何か心配事があるなら言いなよ」


「いえ、本当に大丈夫です……」


「ん~、そこまで言うなら突っ込まないけど、何でも言って良いんだからね。

 ちなみにさ、ニールセン。

 竜に会えたとして、言葉って通じるのかしら?

 前に幻獣と戦ったことがあった時は通じたんだけど」


「さぁてね。

 どんな幻獣が言葉を話したかは知らないが、竜が言葉を話すとは信じ難いな。

 仔竜は言葉を話さないと見たことはあるが」


「だよねぇ。

 前に対峙したのは人間のような幻獣だったけど、今度は丸っきり獣だものね。

 ん?

 波の音が激しくない?」


 雪が降るだけで風は無いに等しい中で、部屋にも響く程となれば船が来た合図で間違いはないだろう。


「行ってみましょ」


 急いで火を消し船着き場へと向かうと、帆船がちょうど止まったところだった。


「アテナ殿は居られるか!?」


 船の甲板から髭を蓄えた勇ましそうな男性が呼び掛けてきた。


「あたしよ、あたし!

 待っていたわ」


「では、こちらへどうぞ、上がって下さい」


「ありがとう。

 さすが国から出してもらっただけの船はあるわね」


 海賊船とは意匠がまるで違い、彫物が施されていたり国章が彫られていたりと国を背負っている感じさえ覚えさせる。


「いやー、魔人を討伐したとか、噂になっていますよ。

 ここに着くのも随分と久しぶりになりますな」


「魔人討伐の手柄は兵達のものってことになってるから、あまり言わないで欲しいんだけど」


「いやいや、国がそうは言っても真実は隠し通せないですからな。

 ましてや、海と共に生きる我々にはそんな話は通じないのですよ。

 ハッハッハッハッ」


「こういうとこは海賊に近いのね」


 豪快さを醸し出す船長に対して思ったことだが、これはテティーアンに耳打ちだけした。


「海に出たらこうなるものなんだろうな」


 テティーアンもあたしに耳打ちをし、お互い顔を見ると笑うしかなかった。


「さてさて、行き先は竜の尾根島でよろしいのかな?」


「そうよ、目的地は咆哮の峰だからそこに近ければそれに越したことはないわ」


「おいおい、そんなとこに行くのか。

 噂じゃ竜がいるってぇ話だが大丈夫なのか?」


「大丈夫よ、その竜にちょっとした用事があるんだから」


「かぁぁ!

 魔人の次は竜ってか。

 そいつはオレ達にとっても光栄なことだ。

 おい、おまえら!!

 恐れを知らぬ勇者殿の為に出発するぞ!」


 船長の大声に船員が一斉に応えると慌ただしく動き始めた。


「アテナ殿、我らが命に代えても送り届ける故、ゆっくりしてって下さいな」


「なんか大層に聞こえるけど、あたし達はそんなんじゃないから普通に乗せてってくれたら良いわよ」


「そうはいきませんって。

 後世に残るやも知れない事に手を貸せるとなれば、国の民としても船乗りとしても誇り高いですからな。

 さ、とりあえず部屋にでも」


 何だか大それたことになったなと苦笑いを浮かべながら、案内に従い船室へと向かうことになった。



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