表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第七章 『That person is sinner』
PR
99/227

《 多喜本 文仍》

「カレンデュラ、ここはどうすんの」

エーデルワイスが死んで、神殿の管理人の後任がジニアに決まった。

そもそも神殿を作ったのは俺なので、自分の研究の合間にジニアに教えている。


「ああ、そこはな…」

とはいえ、もうすぐ坊は人の家に貰われていくんだが…。

エーデルワイスが死んだ、紫の失点で坊をより安全な場所へ移動させることが決定した。

飽くまで極秘に、世界で一番安全で世界で一番危険な場所へ。


それもそうだが、デイジーがエーデルワイスに触れたあのとき、何か力を使ったらしく、あれ以来の三年間、デイジーの状況が非常に悪い。

まあ、それでも今日も変わらず学校へ行けるくらいにはしているが…。

「無理しないでね?」

だがその反面なのか、アキレアは起きて日常生活を行えるまで回復した。


動く方が気が楽と言うので、今は少し研究を手伝ってもらっている。

…二人を見ていて察したが恐らくアキレアとデイジーが一緒に居るのは…二人の体によくないんだろう。

互いの器が反応しあってか、力が大きくなるんだろう。


いや、これは根源の方か…。

とはいえ微々たる影響のはず、だ…。家族バラバラで過ごすのは、単純に嫌だ。

「無理もする。

 だが死なん程度にな。」

そうアキレアの頬にキスをして、俺はまたデスクに向き直った。


ジニアが少しだけ笑って、今は誰もいない奥の部屋を見る。

文仍デイジーが生まれて8年か…。」

延命…という形では間違いなく成功している。

本来であれば二人とも、生んだ時点で、生まれた時点で死亡する筈だったんだから。

だが完全なる治療は…正直、ああもう正直に言おう。

「ムニョン。

 お前も、文仍も、長生きはできない。」

例え能力を一切使わなくとも、二人の命を寿命まで長らえることは到底不可能だ。

少なくとも、普通のやり方では。


「私はどちらでも良いわ。

 だから文仍は」

アキレアの言葉に俺は彼女を見つめた

「それは俺への脅迫か」


アキレアの言うその言葉の意味を、俺の持つ意味を、アキレアは解っていない。

「望みよ」


「…同義だ」

溜め息混じりに、俺はまたデスクに向かう。




その日、いつか来ると思っていたその日が来た。

後に言う歩ヶ丘(あゆみがおか)強襲と言う奴で、指定されていた場所以外で突然行われた戦災だ。

最初は普通に戦っていたらしいが、別の悪魔が来たとか、宗教団体がどうのとか、上級悪魔とか、訳の解らん事になったらしい。


それでその訳の解らん事に巻き込まれた市民や隊員の一人。

文仍ふみよ……」

強襲は6時過ぎに起こった。

何時もなら帰っている時間だったのに…なのにその日に限って友達と遊びに出ていた。


そして案の定、その友達を庇って力を使ってしまった。

その友達があの強襲のなか、研究所まで連れてきてくれた。

「どうしよう…僕たち…!」

文仍の応急処置をし部屋を出ると、その友達二人が出てきた。

文仍の話にもよく出ていた、天都あまつ キリくんと、南城なんじょう 迅也じんやくんだ。

文仍は、ムニョンに似て、男勝りなところがあるな……。


「文仍は平気だ。

 今、外は危ないから、しばらく此所に居なさい。

 家族が心配なら入れても良いから」

俺はそう言って二人の頭を撫で、機材の奥へ二人を避けるように進んだ。


勘弁してくれ。

ただでさえ危険な状態だったのに、能力を使っただと?

お前は力なんて使えるほどの太い管はないはずだろ?

何だって…。

まさか管を壊したのか…?


くっそ。


何で俺の子が犠牲になって他人ひとの子がピンピンしてんだよ!


くそったれ…。


これじゃあ、文仍の魂が3日も……持たない…。

そうなったらもう、文仍は死んだのと同義。


ふと自分に重なった影に、俺は堪えきれず涙を流した。

「ごめん、ムニョン…俺には………」

ムニョンは黙って俺を抱き締め、穏やかに撫でた。


俺には、何も救えない…。

こんな頭なんかあったところで、これはどっかの知らんやつを助けるばっかりで、家族を誰も救えん!

幸せにすると誓った愛する人も、守り抜くと決めた大切な我が子も、誰も救えん…。

ただ悪戯に時間を過ごすだけで、俺には、なんにも……。







その3日後、文仍は死んだ。

眠るようにふっ…と息を止め、何時間待っても、何をどうしても、二度と動くことはなかった。

「お父さん、お母さん

 私幸せだったよ、ありがとう」

そう…言葉を遺して、笑みを遺して、温もりを遺して、体を遺して。


死んだんだよ。


もう二度と目覚めない。もう二度と触れ合えない。温もりを持たない。

夢にまで見た文仍の将来を見ることは叶わない。

学校を卒業することも、就職することも、誰かと愛し合うことも、子を成すことも、この子には、もう何にもない。

未来がない。


なんにも…


「カレンデュラ。

 研究を続けましょう。」

確固たる目で文英アキレアがそう言い出した。


「文仍は居ないのにか…」

そんな研究をしたところで、死んだ人間が蘇ることだけは絶対にないし、生きている人間が死ぬこともない。


例えタイムマシーンを作って過去を変えても、文仍が生き残って、あの二人が死ぬことはない。

それはここの世界じゃなく、別のセカイだから…。

「そうよ。」

顔をあげてアキレアを見ると、手にはノートがあった。

子供の字でにっきとかいてある。


…多分、文仍のものだ。

それも、過去の遺物だ。


「痛い。酷い。辛い。悲しい。苦しい。生きたくない。生まれなければ良かった。許さない。」

そう淡々と言って、アキレアは俺にノートを見せ付けた。


それには拙い字で、酷く濃い筆跡で、…研究をする俺への恨み辛みが書いてあった。

知っている。

その体に、あんな大きな器があれば、あんな小さい管では息をするだけで苦痛を感じるだろう。


その痛みを、今俺が見た。

「だからなんだ。」

 

「知ってたよ、それでも俺が無理矢理、生かしたんだ。

 俺が一緒に居たかったから。

 ハッ…何が幸せだった、だ。

 そんなわけない。暗い研究所で生まれ、ずっと実験台にされて…幸せなわけがない。」


そしてまた母親ムニョンが口を開く。

「楽しい。嬉しい。美味しい。不味い。心地いい。また明日。今日も生きてる。愛してる。」

ああ、そうだ。

文仍は俺達の前で弱音を吐いたことは、1度もない。

いつも笑って、そんな言葉ばかり言っていた。

夜、ほんの一瞬目覚めるとき、そしてまた眠るとき、初めて外に出たとき、一人で外出をしたとき、学校から帰ってきたとき。


いつも文仍は笑っていた

「だからなんだ。」

だから、なんだって言うんだ?

結局今は変わらない。

文仍は死んだ。天使みたいに生きて、そのまま死んだ。


「あの子は嘘はなんて吐いてないわ。

 弱音はきっとあった。辛いことも痛いことも悩んでることも。

 それでも確かに、私達の前で笑ったのも本当でしょう?

 あの子が言うのなら、本当に幸せだったのよ。確かに。」

渡された日記には、俺の、世界の、母親への、人類への、学校への、友人への、何もかもへの恨み言が書いてあった。

だがそれと同じように、日々生きることの楽しさ。

今日も目覚めたことへの安堵、愛しさ。

眠ることの楽しさ、二度寝の背徳感。

美味しいもの、美味しくないもの。美味しくないものへのフォロー。

この世界の美しさが書いてあった。


「無駄じゃないわ。」


綺麗事だ。

お前の言葉も、この日記も、何もかもが、ただの綺麗事だ。

結局俺は、文仍を生かしきれなかったのに…。


涙が溢れて、堪らなかった。

この涙がどんな意味を持っているのか解らない。

ただただ俺は泣き続けた。


無駄じゃない。無駄じゃない。

俺のしたことはきっと、無駄じゃない。

綺麗事だけのこんな言葉も、きっと、何もかも無駄じゃない。

この世界の一部になって、世界を美しくしているはずだ。

綺麗事があるから、世界はきっと美しい。


「わかった、続けよう。」


そう思い込みでもしないと、とても生きられなかった。






「ありがとう、愛してる。」


私、最低だわ。

彼に…世界で一番愛してるなんて神に誓った彼に、何よりも酷なことをさせようとしてる。


あの日、能力うたを初めて歌った日から、私は少しだけ未来が見れるようになった。

任意に見れるわけでも、明確に見れるわけでもなく、断片的に、スロに歌を止められる…その一瞬先で、少しだけ“何か”に触れるの。その事実に。記録に。

私、知ってたわ。

この世界のこと、誰かの誕生も何かの誕生も、エーデルの死も、文仍の死も、私の死も、貴方の…ことも。


そう…と、しなければ、みんな死なない。少なくとも、私や、貴方は。

それでもそう進もうとするのは、たった一人の“誰か”を救えるから。


いいえ、それは言い訳。

何よりも…それが、“この世界にとって最良”だから。

貴方がこの世界にもたらす数多のものは、紛れもなく、世界の最良に不可欠だから。


故に、私は………。


私は


神の如き傲りと、謀りと、怒りを持って、このレールを進ませる。


私は、世界のため…ただそれだけの為に、愛する貴方達を殺す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ