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アルカナの戦慄  作者: 瑞希
第一章 『gold angel』
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『大聖堂へ』

遡ること、2年の…4月1日。


高校生になった私は、アンゲルスの研修も終え試験結果を待つばかりだった。


アンゲルス。

通称としてそう呼ばれているその組織は

今から16年前に起こった“月下・血桜戦災”から生まれた対悪魔防衛組織。

その全貌は厚いベールに閉ざされている…。

が、入るのは意外と簡単!

慢性的な人手不足の為だ。世知辛い。

それでも全貌がベールに閉ざされているのは、我が国…世界が、戦争・戦災を今なお続けているから…。

如何なる隊員にも守秘義務があるのだ。

重要な戦力である。

それに、重要な情報は普通の隊員には知らされない。


アンゲルスに関わる法律とか、義務とか権利とかは色々ある。

私は上の立場…つまり幹部候補になるための研修を受けたから、そのすべてが頭に入っている。

普通の隊員は従うだけで良いから、覚えなきゃいけない!って訳じゃない。

結構ゆる…明るいよね!

その代わりに自分が隊員ってことすら話す人は少ないけど。

それ事態は話していいけと質問責めに遭ってしまうだろうから。


さて、しかし、私がそんな幹部候補の隊員になれるかは、この封筒の中身次第…

ゴキュっと喉が鳴る。

私は院に送られてきた封筒を私の部屋…(といっても共同)でこっそりと開ける。

全力を尽くしたつもりだけど、それでも緊張する……

ギュッと目を閉じて封筒から紙を取り出し、深く息を吐く。

ゆっくりと目を開けると…


合格


私の目に飛び込んできた、その大きな二文字は私に希望を与えてくれた。

これで、これで…



給料が出るぅうぅぅぅぅぅぅぅうぅぅうぅううう!!!!!!!



本当に良かった。

幹部候補を目指したのも給料が良いから、何だから!

これで、院のお世話になるどころか、寄付まで出来る!

死んだとしても、ここにお金が出されるし、悲しむような肉親も居ない。

私にとって正に天職!!!!


ああっ、こうしちゃ居られない。

今すぐに荷物をまとめねば!

ああああ、その前に先生たちに報告と挨拶しなきゃ!

「先生!お話がありまっ」

先生に向かって部屋から勢いよく出て、私はつんのめった。


それは少し下の目線に人影が見えたからだ。

「ヒカリ!

 何して遊ぶ?何する?!」

小学四年生で、まだまだヤンチャ盛りな漢都カントが私に激突して言った。

もうプロレスする気満々じゃないですか…。

残念だったね漢都、世の中には体格差というものがあるんだよ!


「おねーちゃん、先生に大事な話あるから」

それでも、体格差なんていつかは埋まるんだろうけどね。


思いながら、私は漢都の頭を撫でた。

もう、こんなことも最後だろう。

「えー、つまんねぇ」

漢都は口を尖らせながらも、他のみんなと遊びに行った。


「ごめんねー。」

漢都の背中に向かってそう言うと、自然と笑みが浮かんだ。

「んー」

漢都はそっけなく返してきた。


昔は肩車だって簡単に出来たんだけど、今じゃちょっと厳しい。

頑張ればいけると思うけど!

「陽灯?

 どうしたの?」

ここの卒業生である若葉ワカバ先生が、首を傾げながら此方こちらへやって来た。

いつもなら問答無用で遊んでいるからだろう。


「これ!これ見てください!」

私はニンマリと笑みを浮かべ、先生に合格通知を見せた。

先生はしばらく首を傾げ、硬直した。


「えぇ?!」

そして突然我に返ると、大慌てで奥へと消えていった。


そしてまた、バタバタと足音が聞こえてくる。

「お、おめでとう?!」

若葉先生と共に現れた、少しシワの増えた園長先生は疑問形を混ぜて言った。


「はい!

 と言う訳で、明日にはここを出ようと思います」


私がそう言うと園長先生は戸惑った顔をしてから、すぐにシワの寄った優しい笑みを浮かべた。

「…そう。

 解ったわ、じゃあ今日はお祝ね」

いつからのルールか、誰が作ったルールか解らないけど

ここを出ていく子供たちには、もう少し居たら?とか、寂しくなる。とかそういう言葉は言ってはいけない。

だから、園長先生も若葉先生もそんな事は言わないのだ。


「いえ、普通で良いんです。」

私はそう言って微笑んだ。

「そう…?」


「はい。

 暇さえあれば顔見せに来ますから。

 手紙も出しますし。」

そのお祝いの為に出費が増えては、何のために出て行くのか解らない。

それに、私が此処にいた痕跡を長く残しておく必要もない。

そんなお祝いをしようものなら、漢都や璃瑠リル瑠璃ルリ辺りが、寂しがるだろうし。


「無理に来なくったって良いわ。」

園長先生は困った笑みを浮かべて、そう言った。

無理になんかじゃない。

園長先生は私のお母さんかお祖母ちゃんのような存在で、若葉先生はお姉ちゃんのような存在で、とても落ち着くのだ。



だからこそ、私は、それまで過ごしてきたのと同じように一日を過ごした。

穏やかで、他愛もない日々だった。




夜も開ける前…

孤児院の玄関に立って深くお辞儀をした。

「お世話になりました。」

私は必要最低限の荷物を詰めたバッグをもち、痕跡ひとつ残さず…

家を出た。

私が生まれた時から、14年未満暮らした孤児院だ。

本来であれば、ここへ来る前に死ぬはずだった命。

正義の為に使えるのなら、本望ほんもう


とか思いに耽っていたのに、それをぶち壊してくれる奴が現れた

「一人なんて寂しい奴だな。」

いい加減見なれてしまった姿に、私は心の中で溜め息をついてからクスリと笑った。


「貴方こそ、どうして此処にいらっしゃるの?」

私は澤田サワダ 礼人ライトに向かって優雅っぽい笑みを浮かべた。


また馬鹿にしたように返されるかと思いきや、礼人は腰を曲げて頭を下げ、私へ手を差し出した。

お手をどうぞ?っつ感じだ。

「貴方を迎えに上がりました。」

(見えないけど)ドヤ顔で言う礼人に、私は本気で呆れた。

顔も頭も運動神経も悪くないけど、中身があれって解ってるから…

ただの道化だ。

これで笑わせられたら、商売になるのにねぇ?


そんな私の視線を感じたのか

「わーったよ。暇だったから。」

礼人は素に戻って、本当の事を言った。


「寂しかったのね」


礼人は首の後ろを掻いて、困惑した顔をした。

「………わかんない。

 あ、今更だけど受かったんだよな。

 オレは受かったぞ。」

礼人は言いながら、鞄から出した合格通知を私に見せつけた。


全く…誰にものを聞いているのか。

礼人が受かるのなら、私も当然

「受かりましたわよ。」

と、私は微笑みを浮かべた。

頭でなら、礼人にだって負けない。はず。


「腹立つ…」

ええぇ…そっちが聞いたのに…

また呆れていると、鞄からサッと合格通知を奪われた。

そこに下の方に書かれている物を読んだ礼人は、顔をしかめた。


「やっぱ首席………」

首席合格。つまりは一番成績が良かったわけだ。

まあ、当然ね。


偶然ぐうぜんですわ」

思った事とは真逆の事を言った。


「本心は?」

「物凄く頑張った…」

言いながら目を揉んだ。

心なしか、まだ疲れが取れない…


「…お前良いけどさ、飾らなすぎじゃない?」

良いの?と心なかで呟いた。


「良いなら、良いじゃない!」

私は礼人に思いっきり笑みを浮かべた。

礼人も、つられて笑ってくれた。






あ、そうだ!

礼人らいととの話もしなくちゃね!

礼人と私は、研修生以来の付き合い。

アンゲルスで初めて会った人の中じゃ、礼人が一番古い仲になるわ。


「こんにちは、愛本さん」

私は誰とも関わる気がなかったのに、研修中に礼人が話し掛けてきたの。

しつこかったわ!

今思えば、礼人がそんな人で本当に良かったんだけどね。


15歳のとき、私は“大聖堂”と呼ばれるアンゲルスの本部へ向かった。

研修を受けるためよ。


始めて見たアンゲルスを見上げて、私はかなり驚いたわ。

その建物はまさに大聖堂。

とても、軍には見えなかった。


「そこに座ってください」

部屋まで誘導されると、そこで待っていた職員にそう言われたの。

今思えば、特性調査ということだったのね。能力とかの。

全員が座っていって、情報が読み込まれていった。そのときの私は知らないけど。

因みにこの情報を読み込むのは人間ではなく、機械。


そのあと、いよいよ私達はそれぞれ4つの教室に分けられた。

私はA教室。

公正にあいうえお順に別けられてるから、愛本で…あ、い、もと。逃れようがない。


その男性が教室に入った途端、他の人達が騒ぎ出した。

「あー……、火砕ガサイ 泰芽タイガだ。

 よろしくな」

私にとっては、ただの顔を見たことあるおじさん。くらいの認識だったけど…

伝説のライブに出た能力者レジティーマのうちの一人だから、かなりの有名人らしい。

“明かされた四人の能力者”うちの一人。


「まずは…。

 自己紹介な。

 名前、年齢、ここに入った理由。

 どれだけ長かろうが、短かろうが構わない。

 好きなようにしてくれ。」

って言われた。

そんなに悩むような内容でもないはずだったのに、たっぷり5分も取られた。

最初の30秒くらいで決まってたから、暇だったなー


「よし、5分経ったな。

 じゃあ、まずは君から。」

そう言われた君とは私のこと。

そう、席もあいうえお順。逃れようが…


「…はい。」

私はよそ行きの気取った笑みを浮かべて立ち上がった。


愛本アイモト 陽灯ヒカリ

 15歳です。

 ここへ入った理由は…単にお金の為ですわ。

 これからよろしくお願い致します」

と、火砕先生にお辞儀してから、他の人達へもお辞儀した。

当たり障りのない内容。

……悪かったわね!


「愛本だな。

 じゃあ、次。」

そんな感じで、教室に居る15人ほどの自己紹介が終わった。

ここへ入った理由は大きく三つに分けられるた。

私のように、経済的理由。

復讐といった理由。

また、正義のため。

そんなところだったと思う。真意までは知らないからね。





研修で習ったのは、特に能力等に関する法律。基礎だからね。

全員に当てはまることだった。


それを全部教えられ、最初のテストが終わった結果、1位。

当然ね!

見事に百点満点取ってやったわ!

だってめちゃくちゃ頑張ったもの!


ふふっ…礼人と会ったのは、その直後ね。

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