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アルカナの戦慄  作者: 三古谷
第一章 『gold angel』
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〈イスィールと礼人〉

今時、公衆電話ぁ?とも思うが、あの災害以来この市内…もとい県内には公衆電話がいくつかあるようになっている。

オレにとっては便利としか言いようがないな。

実際、非常時に携帯は繋がり難い。


オレは周囲に人が居ないことを2、3度確認してから電話を掛ける。


……………よし…、繋がったな。

繋がっても、相手が何か言うことは勿論ない。

“何か”を言うべきはオレ。

「オレだ。イスィール。」

ニヤッと不適な笑みを浮かべながら、そう呟く。


しばらくのが空いて、回答が出た。

『…ああ。』

その声を聞いて、オレはクックックと笑った。

相手はオレの笑い声に深くため息を吐いた。


『で?』

少ない言葉で、またオレからの言葉を求められた。

つれないなぁと肩を竦めながらも、オレは少し頭を巡らせた。


「ああ。二人頼む」

受話器の向こうで、驚いたような息を飲む声が聞こえた。


『……解った。』

その了承の言葉にオレはニッと笑った。

多分、教えなくても解るだろうが、詳細は後から送る。


締め括りに定番の言葉からひとつ選んで口に出した。

「白。」


オレの言葉に、相手は少し怒ったような声音になった。

『あーお。』

その言葉の意味を理解するため少し悩み、理解するとオレは思わず吹き出した。


「じゃ、紫。」

オレだって似たような気持ちだが、お前には負けない。


『ばっ…』

「冗談だ」

電話の向こうで、少し赤くなってるだろう相手を想像していい気分になった。

コイツと話すのは愉快だ。

互いに、気を許しきっているせいなのだろう。


『俺。』

相手の言葉に、声が詰まった。

もしかしたら相手に負けているのかもしれないな…。

気を許す…というよりは依存か何かの間違いだった、かもな。

それでも、必要なのだから仕方がないし、悪くはないだろう?


「じゃあな」

と、言い残して受話器を置いた。

深くため息を吐いてから、またクックックと笑った。

気が緩むとすぐに笑ってしまうな。


さて、愛本の監視…、おっと、観察に戻るか。








アンゲルスでの最初の研修から、最初のクラス替えになった。

変わらずA教室の私はいつも通りに教室へ向かった。

いつも通りと言っても、今日からはその意味が変わる。

ふふっ…あいうえお順じゃない…実力のAよ!

…って、高らかに言ってみたいけど、恥ずかしいから心の中だけにするわ。


「こんにちは、愛本さん」

とか考えてたら、なんか男の人が寄ってきた。

私?

何で今になって急に…ああ、そういうこと。


理解した私は、軽く笑みを返した

「こんにちは」

全力でランキングを名簿を思い出していったけど…。

顔写真が載っていない以上、照合できない。

だからって適当に言って間違えたら、更に絡まれそう…


「今日から同じ教室だって。

 オレは澤田さわだ 礼人らいとよろしくね?」

自己紹介してくれた。

よかった、まともな人だ。

澤田………って、確か、2位の人か。

ああ、寄ってきたんじゃなくて普通に隣だったのね。

だから私の事も愛本って解ったんだ。


だからって宜しくするつもりはないけど、

「はい。

 宜しくお願いしますわ」

と、微笑んだ。

嘘も方便、だ。

騙す嘘は嫌いだけど、だからと言って相手を不快にさせる事実を言って良い訳でもない。

それでも抵抗あるから、皮肉みたいな言い方にしかならないけど。


「…」

別に一匹狼ってたちではないけど、私は勉強をしに来てるんだ。

それを妨げられたくない。


ガラッ


話を続ける間もなく、タイミングよく新しい先生がいらっしゃった。

「静かに。」

女性の先生の冷ややかな声に、元々煩くはなかった教室も更に静まり返った。


「良い子ね。

 私は神氷かみひょうり 懸憐かれん

 さて、前の教室では基礎を習ったはずよね。

 この教室に入っているからには、復習の必要はないわね?」

懸憐先生の冷ややかな言葉と視線に、生徒の半数は身震いした。

もう半数は微動だにしなかったけれど。

因みに澤田 礼人は身震いした派。


「良いわ。

 今日から能力の授業をするから、部屋を何度も移動することになる。

 その前に…」

懸憐先生がクイッと首を動かすと、業者らしき人が、段ボールを部屋のなかに入れた。

その段ボールを教壇の上にいくと重く固い音が聞こえた。


「貴方達の能力を断定させたから、それに見合ったGEMを用意したわ。

 席順に、前へ。」

…ああ、私。

懸憐先生の指示通りに、私は前へ出た。


「愛本 陽灯。雷ね。」


差し出された六芒星を型どった宝石のネックレスを受け取った。

…六芒星は……、アンゲルスのシンボル。

一つ一つの角がそれぞれ属性を示し、真ん中が異端ゼノを示すのだ。


10人ほどの生徒が全員受け取り、席に戻った。

「それを肌身離さず身に付けておきなさい。

 GEMが貴方達を助けるようになるわ。

 まっ、逆も然りだけれど。

 精々気を強く持つことね。」

と、懸憐先生は不適な笑みを浮かべた。


人知を越える力を引き出すもの。

それには当然ながら代償が伴う、多かれ少なかれね。

こんな石っころが…というか、宝石かな。

…色だとシトリンとかみたいだけど………でも、違うかな。

そういう特別なものなんだろうなぁ。

とても綺麗だけど、これに呑み込まれてはいけない。それだけは解っていた。


………でも黄色かぁ…。

ま、雷らしいね。

「お揃いだね」

澤田 礼人が微笑みながら同じ色の宝石を見せてきた。

興味ないので、とりあえず微笑んで見せた。




お昼休憩になり、早々にここから離れようとすると

「愛本さん!」

………今度は何…?

また澤田 礼人。

何だろう、しつこい。


「資料館の鍵借りたんだ。

 一緒に行かない?」

はぁ…?

そんなの…


「もちろん」

行くに決まってるでしょう!!!


一瞬で評価がうなぎ登りしたわ!

なんて気が利くの?!

澤田 礼人…いな、澤田さんって、めちゃくちゃ好い人なんじゃ…!


私は澤田さえも置いていく勢いで、早速向かおうとした。

「あれ…」

私は足を止めた。


「どうしたの?」

私は思わず苦笑いを溢した。

「資料館ってどこでしたっけ…?」

いや、まあ、正直解ってるんですけど


「地下6階だよ」

澤田さんの言葉に、私は目を見開いた。

地下…6階?!?!!

まさかそこまで深いとは…!


「あ…、あの…」

「え?なに?」


「借りてきて貰えませんか」

無理だと解りつつも私はそういった。


「はい?!図書館じゃないんだから…!」

「…で……すよね…」

ごもっとも…

鍵を借りるのだって、簡単ではなかっただろう……


「早く!時間は無駄にしたくないんだ!」

それは私も同じ…!


けど、下へ続く階段の前では、どうしても立ち止まってしまう。

「……」

「もう!いい加減に―」

言いかけて、何故か澤田さんは言うのをやめた。

そして次にはため息を吐かれた。


「行くんでしょ?」

澤田さんの言葉に、私は地下に続く階段を睨みながら何度も頷いた。

私にとってはまたとない、絶好の機会なのだ。

行きたいに決まってる。


「じゃあ」

ガッと腕を掴まれた。


“え―”


と口からでるよりも速く、私は澤田さんに引っ張られていた。

―落ちる


“い……やぁぁぁぁあぁぁあぁあ!!!!!”


声には出ないが、心のなかで大絶叫した。


「はい次ー!」

澤田さんに引っ張られて次から次へ、階段を飛び降りていく。

私じゃなかったら、絶対転けてるからね…?!!


それを繰り返され…6階に到着したらしい………

今は地―――、いや、考えるな。いや、でも、逃げれな…考え――

「っ……」

今世紀最大級に泣きそうだ。

泣きはしないけど…!


「…大丈夫?」

くッ…………誰に物を言っているの…?!?!!

「大丈夫に決まっているでしょう…………?」


「…本心は?」

「物凄く泣きそう…!」

言いながら捕まれたままの澤田さんの手をぎゅぅっと掴んだ。

めちゃくちゃ恐い。

ここは地下。容易には逃げられない場所。ここは狭くはないんだけど、あと暗くもないけど、でもやっぱり恐い!

なんか本能的に恐い!


「イタタタタ……」

ハッとして、手を離そうとした………が、できないので力を緩めた。


「オレの手が潰れる前に行こう」

私の心臓が潰れる前にね…!


澤田さんの鍵で資料館に入ると、資料館でさえも美しい作りになってた…

でも、それ以上に私を掻き立てたのは、その本の多さ…!

私は恐怖心などすっかり忘れて、本の方へ走り出した。


澤田さんも笑いながら自分の探している本の方へ向かった。


悪魔

能力者レジティーマ

セカイ


悪魔……私達の敵。魔法ルーンと呼ばれる能力とはまた違った力を扱う。攻撃しても血が出ず、死体も残らないのが特徴。もしくは紋章を持っているもののこと。


妖……謎多き存在。悪魔と同じく血も死体もないが、紋章を持たない。名もなきもの、神、アニマとも呼ばれる。


能力者レジティーマ…代々能力を受け継いできた家系、もしくはその家系の者の事。これと区別し、偶発的に生まれた能力者は“Cardiaカルディア”と呼ばれる。


セカイ……磁界、魔界に続く、もうひとつの世界。アンゲルスと大魔導帝国によって創られたヴァーチャルセカイ。

訓練や、戦争に死人を出さないために作られたセカイだが、その制御にはひとつの鍵が担っていると言う…。


さすがに載ってない……ね。

初めから、ここに載っているとは思ってない。

重要なのは能力者について。

だが、更に奥の部屋があるところを見ると、おそらく名簿はそっちの部屋にしかない。


扉は…厳重で、仮に私が能力を使うようになっても破壊するのは無理そう。

試しに叩いてみても……壁のような音しかしない。

開ける方法は…番号?暗号?それとおそらく指紋と目…いや、生命エネルギー?

ここへ来るときにアクセサリーをモニターに掲げているのを思い出した。


…………不可能だね。

個人情報の管理は完璧らしい。


「何見てるの?」

澤田さんの声に、私は微笑みを浮かべながら振り返った。


「多分、こっちに私達の名簿もあると思いましたの」

トントンっと、壁のような扉をノックしながら澤田さんに言った。


「は?!

 ホントに…?」

澤田は扉の奥を見て顔をしかめた。

私も同じことを思ったが、どうやら開けるのは不可能。


「安全なようですわ。

 最初はどうかと思ったけれど。」

多くの個人情報…ましてや、現在唯一敵に対抗し得る能力者…レジティーマ、カルディアの両方の情報をひとつに集めるなど、どうかしている。

だが、これほど厳重ならば問題ない。

どれだけ強い者でも、それほどの威力の攻撃をしたら、ドアが開くと共になかの情報も消えるんだろう。


「………まあ、そうだよね。

 あんまりバラバラにしても、守りきれないだろうし」

うんうん。と頷いて見せた。

それならこっちの方が、まだマシだろう。

この部屋事態、私と礼人が幹部候補だからこそ入れたのだろう。

私達が今やってる授業は幹部になるためのもの…。

…だが、つくづく、私達の首はこの組織アンゲルスに掛かってるのだと痛感した。


けど、ここの為に死ぬなんて御免こうむる。

私は組織のためじゃなくて、人のために死にたい。

欲を言うなら、人のために生きたい。


「強くならなきゃいけませんねぇ」

そうなれるためにも。

死んだら死んだで後悔はないけど、でもまだ死にたくない。

少なくとも。

これの為なら、誰かの為なら、っていう相手が見つけられるまでは。


「愛本さん…」

何処と無く、悲しげに聞こえた澤田さんの声に、何か気を使われたんだと感じた。


それが一番嫌な私は、バッと澤田さんの方を見つめた。

陽灯ひかり

 私も、礼人らいとって呼んでも良いですか?」

と、私はとびっきりの笑顔を見せて澤田さんに言った。

じゃなくて礼人。


なのに礼人は、さっきまでとは想像もつかない、私を見下すような笑みを浮かべた。

「ヤだね」

その答えに私は一瞬驚いてから、ニヤァッと笑った。


「わかったわ、礼人!」


「お前、意外と性格悪いね」

ブーメラン!と心のなかで爆笑した。

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