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オチの無い話

本編最終話より後の話です。とても蛇足です。

今作が本編番外編含めて一番後の時間軸の話になります。今後も恐らくこれより後の話は出ません。多分。

大体しょうもないことを駄弁っているだけです。駄弁っているだけで9000文字以上あります。しょうもないことこの上ない。

そして、結婚の話です。


視点は舞戸です。










「意外だったな、結婚とか。全然そういう印象なかったのに」

 針生がびっくりしたあ、なんて言って、ため息をつく。

「んー、そう?俺は妥当だと思うけど?」

「まあ、急は急でしたが、おかしな話ではありませんよ」

 鳥海は含み笑い。社長はいつも通りの笑顔がなりを潜めて、なんだかいたって普通の笑顔をしている。逆に怖い。

「良かったんじゃないの、いつまでもふらふらしてたらまずいでしょ、流石に」

「年齢を考えれば結婚はむしろ自然だな」

 羽ヶ崎君はいつも通りのつっけんどんさ。鈴本はいつも通りの冷静さ。

「まあ、おめでたいこと、なんだし……別に悪いことじゃない、よね?」

「うん。僕はなんだか嬉しいけどなあ」

「でもなんだか裏切られた気分というか抜け駆けされた気分というかぁ……」

 角三君はどことなくそわそわしてて、加鳥は嬉しそうで、刈谷は……うん、まあ、気持ちは分からないでも無い。

「でもまさか、先生が結婚なんてね」

 そして私は多分、滅茶苦茶にこにこしているに違いない。




 私達が高校を卒業して、もう3年が経った。

 私達を知る後輩も高校に居なくなり、先生方もちらほらと退職なさったり移動なさったり。

 そんな中、我らが化学部の顧問の先生であった先生はまだ学校に残って、相変わらず化学部の顧問を続けていらっしゃるのだった。


 私達の高校3年間、なんだかんだ傍で見守っていて下さった先生。

『お前ら受験生なんだから大富豪なんかしてないで勉強しなさいよ!』と怒ってた先生。

『カビが生えた餅だってカビの所削れば食えるよー』と言いつつカビたお餅を削ってストーブで焼いて食べてた先生。

 縦に滅茶苦茶でかくて、立ったまま話そうとすると首が痛くなるのが困りものだった先生。

 胃袋ブラックホールの加鳥にすら『こわい』と言われるほどよく食べる事に定評のあった先生。

 よく食べるせいで近年横にも大きくなってきてた先生。

 薬品庫の鍵を開けてもらおうと思ったら姿が見えなくなって探すのに困った先生。

 聞きたいことができるとその途端に姿が見えなくなって探すのに苦労した先生。

 事ある度にすぐ居なくなって学校中探し回る羽目になった先生。

 何かとすぐ姿が消えて部員を困らせることに定評のあった先生。

 先生だったし先生らしかったし、なのに妙な親近感があって、笑い上戸気味で、面白いことを面白いと言ってくれて、私達の様子を見てはけらけらけらけら大笑いしていた先生。

 3年間、私達がとってもお世話になった先生。

 そんな先生が、この度めでたくもご結婚なさるという。




「俺としては舞戸に名前も知らない後輩から連絡があった事の方が余程意外だったがな」

「うん。私も正直もうびっくりした。びっくりしすぎて禿げるかと思った」

 きっかけは、後輩からのメールだった。

 ……何故、名前も声も知らない後輩が連絡できたか、っつうと、私達が卒業する時に残してきた実験ノートが理由である。

 私達の1つ下の代には後輩が入らなかった(入ったけどすぐ辞めちゃった)もんだから、私達が直接接触できた後輩は2つ下の代だった。

 しかし、その時私達は忙しい高校3年生。可愛い1年生の後輩たちに十分な知識の継承を行う暇も碌に無く、卒業しなければいけなくなってしまったのである。

 ……そんな私達が考えたのが、『実験ノート』の保存だった。

 今までに私達が行った文化祭の展示、マジックショーの演目、科学実験教室のノウハウ、部費の管理簿の付け方……。

 ……それから、実験室のどこに何があるかの分かる範囲での地図、癖のある計器のなだめ方、開かないと思われがちな実験室の廊下側の窓の開け方、薬品庫の鍵の開け方、怖いと評判の古典の先生のテスト問題の傾向、某英語の先生が一時間に何回『ね?』って言ったかの計測結果、校長の話の長時間レコードベスト3……。(ちなみに最長記録は私達の卒業式における40分24秒だった)

 ……それから、当時会計担当だった私のメールアドレス。

 そういう、役に立つものから全く役に立たないものまでノートに書き記して、何時ぞやにママの味のキャンディが詰められていた引き出しにしまっておいたのだ。

 実際、私達の2つ下の後輩たちからは何回か連絡があったから、多分役に立ったんだろう。たぶん。

 ……が。

 まさか、私達の5つ下の、名前も声も知らない後輩からメールが来るとは思っていなかったのである。


 最初の内容は単純に、私達が書いた化学マジックショーの台本の復刻再演の許可のお願いだった。

 どうも、鳥海が書いた台本が部室のパソコンに残っていたらしく、それを見た後輩がやってみたいと思ったんだそうで。

 ……そんな、台本の再演許可を求める緊張気味なメールが届いたものだから、私はついつい、台本の再演許可にOKを出しつつ、聞いてしまったのである。

『今の部の様子はどうか』と。

 ……聞いてみるとどうも、社長が過酸化マンガン過酸化水素水を爆発させた時の天井のシミはまだ残ってるらしいし、蛍光物質を取り出すために箱で買ってしまった洗剤は未だに残っているらしいし、謎の薬品も未だ誰も掃除できずに残っているらしい。

 そして、私達の代やその前の代が作ってきた綿火薬のレシピとか、化学マジックショーの演目とか、そういうものも残っていて、ずっと再利用され続けているらしかった。

 私達が巣立った後にまだ残っているものがあるんだなあ、って思った。

 私達がやったことが残っていて、時々引っ張り出されたり、何かの土台になっていたり、ちょっとした化石みたいになって発掘されて珍しがられたりしている、っていうのは……控えめにいっても嬉しかった。


 そして、私は『今の部の様子』を聞くにあたって、『顧問の先生が入籍なさった』という事も知ったのであった。




 私はすぐ、皆さんに連絡を送った。

『センセイ ニュウセキ シカモギャクプロポーズ』と。

 上がる悲鳴。呪詛の叫び。おめでとうと言うより先に『マジかよ!?』とか『爆発』とかが出てくるあたり、類が友を呼んだ結果を実感できる。かなしいなあ。

 ……そして、いい加減そのショックと混乱が冷めてきた頃。

 そしたら、当然、まあ、考えるよね。

 いかにして先生にこう、『末永くもげろ!はぜろ!はげろ!』って言うか、考えるよね!当然!




 ということで、私達は久しぶりに先生にお会いするとともにお食事に誘い、そこで『1人だけ魔法使いの運命からさらっと脱しやがってこの野郎!』みたいな理不尽な言いがかりをつけるぞ、という計画を企てたのであった。




 計画は水面下で進行した!

 貧乏くじを引かされ幹事にされた刈谷が先生とコンタクトをとり、先生のスケジュールを確保!

 久しぶりの教え子からの連絡・ご飯の誘いに、何も知らない先生は快諾!

 我々の予定もなんとか夜は全員空けることができた!

 そして!

 ……我々の計画は水面下で進行したのだ!


『お店の予約入れましたー』

『でかしたー』

『ありがとう』

『君と』

『ありえーる』

 こんなやりとりをし。


『プレゼント買ったー』

『でかした』

『何買ったの?』

『羊羹』

『それ重くないかなあ?』

『滅茶苦茶重い。すごい。あんこってすごく重い』

『それが詰まっている巨大なヘッドを投擲して百メートル近く飛ばすのがミス・バタコだ』

『こわい』

 こんなやりとりをし。


「取ってきたぞ。レシートここに置くからな」

「おかえうわっ……それ、幾ら分の花束注文したの?」

「1800円。予定通りだ。ただ、時間が時間だからか、『恩師の結婚祝いなんです』と理由を話したからか、おまけにおまけしてもらえてこのザマだが」

「へえ。……それ、やっぱり鈴本に買いに行かせて正解だったってことなんじゃないの?」

「何故だ」

「鈴本君が花束持ってるとなんだか腹が立ちますよね?立ちますよね?」

「何故だ」

「舞戸さん。これ、幾らぐらいするものなんでしょうか。俺は花には疎いので良く分からないのですが」

「薔薇入ってるし、3000円ぐらい……いや、もっと……?ごめん、私、食材以外の値段には詳しくない……」

「ま、いいじゃんいいじゃん。儲かったってことでー」

 こんな風にしてやたらと立派な花束を入手し。


「……何書いたらいいんだろ……?」

「ああ、じゃあ刈谷、先に書け。角三君はその間に文章を考えておいてくれ」

「わあ、すごく赤と青と黒だねえ」

「ほら言ったじゃん!3色ボールペンだけでやったらすっごく地味な見た目になるから他の色持ってこいって私言ったじゃん!」

「きっと先生気にしないよ!多分!俺はそう信じてる!」

「そういう問題じゃないんじゃないの?」

「しかも全員文字が小さいですね」

「んー、いいんじゃない?その分いっぱい書けるよ、角三君が」

「あ、角三君、俺書きおわりました。もう書けますか?」

「……まだ考える……このスペース埋める分量……分量……」

「角三君をいじめるでない」

 こんな調子で寄せ書きを書き。




 そうして我々は、久しぶりに先生と全員で会う事ができたのであった。

「やー久しぶり。みんな元気そうで何より」

 夕方、ご飯どころに先に入って待っていた我々の元にのんびり(に見えるけれど足が長いために滅茶苦茶速く)歩いてやって来る先生。

「お久しぶりです」

「先生もお元気そうで何よりです」

「あれっ、せんせー太りましたね!」

「先生、これからどんどん代謝は落ちていきますから、食べる量を減らさないと消費が間に合わなくなっていきますよ。もう実感してらっしゃるかとは思いますが」

「……俺達も、ちょっと危ないもんね……」

「ああ、角三君はまだ筋肉が多いからいいが、俺なんかは不摂生によって体重を維持しているような状態だ」

「不摂生で体重が維持できるとは羨ましいなあ、おい鈴本君よ、私のお肉を分けてやろうか?ん?」

「いらん」

「僕は不摂生極まってBMIが18切ったよー」

「んー、加鳥はもうちょっと食べた方が良いんでない?それとも俺のお肉わけてあげようか?」

「貰えるんだったら欲しいなあ……」

「お前らホントに相変わらずね」

 そして、会って早々、こんなやりとりで先生は苦笑い……にしてはちょっと楽しそうな笑いを浮かべたのであった。




 それから適当に注文を済ませて、適当に近況報告なんぞして、適当に時間を潰して飲み物が届いたところで。

「じゃあ幹事さーん、なんか一言どうぞー」

 鳥海がけしかけると、刈谷が改まって正座し直す。

「え、じゃあ……改めまして、本日はお足元の悪い中」

「晴れてるってば」

 先生のツッコミは今日も健在のご様子。いやあ、お変わりないようで何より。

「ええと……お集まりいただきありがとうございます。特に先生、どうもありがとうございます」

 先生も新婚じゃあお忙しいだろうに、今日一日割いて下さったんだからありがたいよね。

 そんな意を込めて、とりあえず全員でぺこっ、てすると、先生もつられてぺこっ、てする。いやあお変わりないね、本当に……。

「それでは、かんぱーい……の前に!」

 ここでそれぞれがもぞもぞ動いて、正座し直したり、机の下だの座布団の山の中だのに隠しておいたブツを取り出したりした。

「先生、ご結婚おめでとうございます!」




 ふふふふふ、『サプライズ・ご結婚おめでとうございます』にさぞ先生は驚かれることであろう!

 ……と思ったんだけど。

「あー、どうもありがとうございます。うわっ、何この花束すごい」

 ……どうも、予想してた反応とはちょっと違った。

「あ、羊羹。ありがたく嫁さんと食べさせてもらいます。……あ、色紙入ってる。何々、」

「待って!先生!ここで読まないで!」

「恥ずかしいです!やめて!やめて!」

「おいおい、鳥海ー、末永く爆発ってお前なー」

「やめて!読まないで!読まないで!お家に帰ってから!お家に帰ってからお願いします!」

 ……どうも、予想してた反応とはかなり違った。


「え?いや、お前らの事だからどこかでは聞いてるんだろうなー、とは思ったし。というか、だから集まろうって話じゃなかったの?僕の入籍以外、特にきっかけになりそうなもの無いじゃん。あ、でも確かに刈谷にはただ『ご飯たーべよ♪』みたいな連絡しか貰ってなかったわ」

 そして、この解説であった。

 ……いや、ね?

 うん、いや、その、さ……一応私達、先生の思いもよらないであろう伝手から連絡を取って、先生のご結婚を知って、それから水面下で行動して準備を進めてサプライズしようとしたらこの『知ってた』感!

 やってらんないね!やってらんないね!察しが良すぎるのも考えものですよ先生!

 ……こうして、なんとなく、私達全員が不発した爆弾を抱えたままのような、そんな気分のまま……とりあえず先生とのご飯は始まったのであった。




「相変わらずよく食べますね」

「ん?だって食べなきゃ損じゃん。加鳥もお食べ?ほらほら」

「あ、はい。じゃあいただきまーす」

「先生、加鳥に勧めるより羽ヶ崎君とかに勧めた方が良いと思います!」

 ちなみに、本日のご飯は焼き肉である。なんでってそりゃ、そりゃあ……よく食うからである。

 先生が。

 先生が、とっても、よく食うからである。

 なんでこんなに食うのってぐらいよく食うからである。

 そりゃあもうよく食うからである。

 我が部には胃袋ブラックホールこと加鳥君が居るが、それをはるかに上回る胃袋異次元空間。それが先生だ。

「じゃあ追加で注文するけどいい?」

「あ、はい。どうぞ」

「まだ食えるんですか」

「うん、余裕」

「もう先生1人で1kgぐらいお肉はいるんじゃないんですかね……」

 ちなみにもう私は見てるだけでお腹いっぱいである。

 なんで私、先生の向かい側なんぞに座ってしまったのだろう。不覚。




「それにしても先生、急でしたね」

「そ?だって半年ぐらいよ?」

「それは世間で急と言うと思いますよ」

 ご飯も進んで、全員程よくお酒が入ったところで、本日の主役のお話なんか聞いちゃったりして。

 なんとなく、今まで結婚のけの字も無かった先生が入籍、なんて言ったらそりゃ、気になるもんね。

「いや、思い立ったら行動した方がいいじゃない」

 が、返ってきたのはこんな返事である。

「うわあ、これだから」

「先生は所詮そっち側の人間だったんですね。見損ないました」

「え、おい、何、今の羽ヶ崎基準では見損なわれるところだったの!?」

 やっぱり先生って先生なんだなあって思ったよ。うん。流石の行動力、流石のコミュニケーション能力。

 私達には到底真似できないね。

「いやだってさあ、この人だ!って人が居たらもう、結婚しちゃった方が良いでない?」

「よくないです。なんなんですかそれ」

 そしてこれである。

「んーと、ところで決め手って何だったんですか?」

「ん?フィーリング?いろいろこう、波長がぴったしきたの」

 そしてこれである。

「……わかんね……」

 角三君がぼやきで私達のすべてを代弁してくれた。

 うん、わかんね!




「ところでお前らはそういう話無いの?」

 ……それから色々聞いてお腹いっぱいになりつつも怖いもの見たさで色々聞いてますますお腹いっぱいになったところでこれである。

 全員が押し黙るこの重い沈黙タイム!そして一番困惑しているのは先生ご自身だああああ!

「……まさかお前ら9人も居て誰も彼女いないの!?」

 そしてふりでもなんでもなく心底驚いたような顔!これだ!ぐうの音も出ねえっ!完璧!完璧すぎるパーフェクト・ジェノサイドっ!

「もうほっといて下さいよう」

「自分が結婚できたからって……」

「不要なので」

「んーと、あれだよね。女は星の数ほどいるけれど星には手が届かない、って奴?」

「理系だから出会いが無いんですー!俺悪くないもーん!悪くないもーん!」

「ん?あれ、ちょっと待て!おい、鈴本!舞戸!お前ら文系だろっ!鈴本!お前ぐらいなんとかしろよっ!なんとかしようとすればできるでしょっ!」

「聞こえませーん」

「聞きたくありません」

 それぞれが頭を抱えたり耳をふさいだりする中、先生は非常に微妙な顔をしていらっしゃる。

 いっそ大笑いされた方が気が楽だね。うん。

「……あ、もしかしてお前ら『彼氏』ならいるの?」

 そして凍る空気。抉られる誰かのトラウマ。そして私達全員半笑い。

「やめてください先生までそんなこと言うんですかやめてください」

「先生、彼らは至ってノーマルですよ多分」

「大体、もしアブノーマルだったとしてもできる訳ないじゃないですか、やだなぁ」

「そういう問題じゃない……」

 痛恨の一撃をモロに食らって各々がぎゃーぎゃー騒ぐ。これには先生も苦笑い……じゃない!大笑いしてやがる!この笑い上戸!鬼!悪魔!末永く爆発し続けろ!




「え、で、その予定って今後も無いの?」

「ないです!」

「針生、即答するんじゃない。諦めたらそこで試合終了ですよって言うでしょうが。ったくもー」

 最早全員が遠い目をする中、先生としてはそういうお話が気になるらしい。アレだ、勝者の余裕って奴だろう。なんて人だ。ゆるさん。

「せめて好みのタイプぐらいあるでしょ?社長とかなんかないの?さっき不要とか言ってたけどなんかあるでしょ?」

 そして先生はおそらく、『一番そういうのに縁が無さそう』だと思ったのであろう、社長に話を振り……社長が口を開く前に、隣に居た鈴本が社長を止めた。

「……え、なにこれ」

 そして先生の隣に居た角三君が先生の耳を何時でも塞げるように待機だ。

 完璧なフォーメーション。これが我らの絆パワーである。

「先生、お酒が入った社長にその話を振らないでください」

 戸惑う先生に解説を入れておこう。

「え、なんで?」

「とってもこわい話を聞く羽目になります」

 先生は私を見て、社長を見て、社長の狂気じみた笑顔を見て、なんか察したらしい。

「うん、分かった。めっちゃ気になる」

「分かってない!先生分かってない!」

 いや、違った。

 察したは察したけど、先生、そういう話案外好きなのね!高校3年間お世話になってて今初めて知ったよ!

「俺は別に構いませんよ」

「やめろ、社長、自重しろ。酒が入っているとはいえ先生の前だぞ」

「いいじゃんいいじゃん、ぼかぁ聞きたい。で?」

「先生……やめておいた方が良いです……」

「もうこの話やめましょう!ね!やめましょう!うん!そうだ!今まで食べた中で美味しかったものの話でもしましょう!ね!」

「ん?美味しかったもの?あー、そういや、最近嫁さんと食べに行ったときに」

「この話やめましょうって言ったじゃないですかーッ!」

「え、これも駄目なの?」

 ……先生は悉く私達の気力を削っていった。

 そして、私達の気力を削りながらも淡々とお肉を削り続け、気づけば先生が注文した一皿はもう空になる所であった。

「あ、もう1皿頼むね?角三ー、ピンポーンってやつ押してー」

 本当になんというか、色々とぶっ飛びすぎな先生である。




 それからどうにかこうにか話題の方向転換を行い、無事にそれぞれの近況とか、研究内容とかについての話になり、理系ならではの盛り上がりを見せた。

 すごいね、流石先生だよね。情報系以外なら、生命系だろうがマテリアル工学だろうが物理入ってようがもー関係なし。それぞれの話に適応してるもん。

 ちなみに、こういう話になっちゃうともう私の出番はない。私の分野は誰とも被りが無いのでね、精々『マイクロピペットで試料吸おうとして間違えてチップ射出ボタンを押してしまって試料の中にチップを落とす』とかそういう理系あるある初級編にのっかる程度しかできぬ。

 なので私は特に自らの研究について語ることも無いらしい人達と雑談したり、先生そっちのけでワンナイト人狼したりしつつ、楽しく過ごさせてもらった。




「しかしなー、よくお前ら9人全員集まれたね」

 さて、いよいよお開きか、という頃、先生はふと、そんなことを言った。

 私もそうだけれど、みんな何かと忙しい。

 忙しいことに変わりはないんだけど……。

「……え、別に珍しくなくない……?」

「割と僕たち、集まってるからねえ」

 私達、けっこうちょくちょく集まってるので『集まるのが珍しい』っていう感覚にはどうにもなりにくいのだ。

 この間も集まってワードウルフやったし、その前は人狼とどみにおんやって遊んだ。

「えー、未だにお前ら集まってるんだ。いいねー、仲良しで」

 けれどそれがとっても貴重な事だって事も私は知っている。

「卒業する前から仲良いなーたあ思ってたけどね?まさかここまで仲良し9人組だとは思わなかったわ」

 うん、それは私も思う。

「大事にしなね」

 言われなくても、そうするつもりである。できるか、できているかは別としても、でき得る限りそうするつもりである。




 そうしているうちに、遂にお開きとなった。

 実はそんなにお酒に強くなかったらしい先生、どうやらお嫁さんに車で迎えに来てもらうとのこと。グワーッ!見せつけられてる!グワーッ!


 お店の駐車場で喋る事十数分、その内1台の軽自動車がするする入って来た。

 そして、そこから降りてきたのは、なんとなく笑顔の雰囲気が先生に似てらっしゃる女性であった。

 こんばんは、なんて言われて、こんばんは、と返す。

「あ、この人が僕の奥さんです」

 言われなくても分かる。

 仲睦まじそうに並ばれなくても分かる。

 やめろ、見せつけるな!やめろ!眩しい!なんか眩しい!ひどい!このひとでなし!

「あ、この人達が例の仲良し9人組です」

「うん、分かる分かる」

 あ、向こうも分かるんだ……。

「今日はどうもありがとう。お噂はかねがね聞いてます」

 そして先生の奥さんからチャーミングな笑顔でこんなことを言われて、我々の頭の中に出てくる疑問は1つ。

 ……一体、どういうお噂をされていたのだろう……。

 とりあえず、全員半笑いで対応した気がする。




「えー、では、最後に先生から何か一言お願いします」

 別れ際、幹事の刈谷がそう言うと、先生は困った顔をした。

「え、特に言う事無いんだけど」

「そこをなんとか!」

「え、じゃあ、頑張って彼女なり彼氏なり作ってね」

「そういうんじゃなく……」

「えー、じゃあホントに言う事無いんだけど……」

「ひどい!」

 オチがつかないじゃないですか、締まらないじゃないですか、先生どうしてくれるんですか、末永く爆発してください、と、口々に文句を言われた先生は、けらけら笑い出してしまった。

「えー、別に今日オチがつかなくてもいいじゃん。どうせお前らの親交まだ続くんでしょ?」




 しかしまあ、なんだかんだで締まらないまま『サプライズ(にならなかったんだけども!)先生ご結婚おめでとうございます会』は終了し、挨拶もそこそこに先生夫妻は手を振りつつ車に乗り込んでしまった。

「じゃ、お前ら今後も仲良くねー」

 そしてそんな言葉を残しつつ、車のテールランプが去っていく。


 そしてそのままずるずると、私達も駅に向かって歩き出す。

「……結局締まらないねー」

「うん」

「まあ……いいんじゃない?うん」

 そんなかんじでずるずる雑談しながら歩く。

 道中何度か信号機に分断されたりしつつも、とりあえず私達は駅に辿りついた。

「……さて。じゃあ、お別れの前に恒例のあれをやって解散にしましょう!」

 そして駅前、人通りの邪魔にならない位置に固まると、全員拳を出した。

「じゃ、いきまーす。はい、最初は」

「パー」

「パー」

「パー」

「チョキ」

「ぐー」

「パー」

「パー」

「パー」

「パー」

 ……そしてまあ、恒例の如くこうなるよね。変わらないね。我々も。


 それから数度、グーだのパーだのチョキだの出した結果、鳥海が負けた。

「じゃあ次回幹事は鳥海という事で!」

「りょーかーい」

 次回の幹事さんを決める。即ち、次回の約束なのである。

 これが毎回のお約束であった。


「じゃあ、また次回だな」

「またねー」

「じゃあ、夏ごろまた連絡するからヨロシク!」

 それぞれが改札を潜って、帰って行く。これから長い初夏、長い夏を過ごす事になりそうだなあ、なんて思いながら、私も帰路に就く。

 ……まだオチはつかなくていい。ずっとつかなくてもいい。少なくとも、まだ、今日はオチがつかない。

 次回がある。まだまだ続く。


 ……次に先生込みで集まるのはいつだろう。もし奥さんに振られたら残念会を開いてあげよう。

 いや、それよりは第一子誕生会とかの方がよっぽど現実的かな。

 なんにせよ、その時また先生は、きっと言う事になるのだ。

『お前ら相変わらずねー』と。


ひとまずこれにて完結です。

しかし今後も増えます。

増える時は決まって下から4番目(蛇足Bの上)に割り込みで増えていく予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] そっかまいといたら交友続くのか・・・接着剤?
[良い点] 帝国の逆襲(逆侵攻)があるかも知れないという微かな希望。 [気になる点] 社長なら彼女を造れるんじゃないかなぁ……? [一言] は? 舞戸さんなら彼女くらい作れますが?!(逆ギレ)
[気になる点] >>「……まさかお前ら9人も居て誰も彼女いないの!?」 舞戸って実は男の子だったんですか?
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