職場に潜入!相手(いけにえ)を探せ!③
「次男、お前なんだか疲れてねぇか?」
浩太は学食でコーヒーを飲みながら、スマホをいじっている。
「最近始めたバイトがきつくてな」
「あぁ、姉ちゃんところでバイト始めたんだっけ?結婚相手見つけるって意気込んでたじゃん」
「まぁそうなんだけどな」
思い出しても疲れる。
次男はため息をついた。
あれから一ヶ月。
バイトはほぼ雑用なのだが、とにかく忙しい。
叶夢の弟だから出来るだろうとかなり任される上に、姉が見ているのでミスが許されない。
数時間働いただけで疲労が半端ないのだ。
とはいえ、本来の目的は姉の下僕になることではない。
目的は姉の結婚相手を探すことだ。
仕事をこなすことに必死になっていたが、本来の目的を思い出し、次男はまずは神原から親しくなろうと声をかけることにした。
どこで姉が見ているかわからないので、次男は神原が廊下に出たところを見計らって声をかけに外に出た。
「あの、神原さん」
神原は「ん?」と言いながら、首を傾けた瞬間、手に持った分厚いファイルも横にした。
その瞬間にはファイルの綴じが甘かったのか、中身がバサバサっと落ちていく。
「うえぇっ」
慌てて落ちないように向きを変えようとして、逆にファイルが手から離れていく。
「あぁ!」
結果、わずか数秒で、大量の書類が宙に舞う結果なった。
その後、なぜか叶夢に神原と共に次男も怒られる羽目になり、書類を元通りに片付けるように命じられた。
「次男くん、ごめんね。僕がちゃんと書類を綴じてなかったから」
「いえいえ、俺が急に声かけたから悪いんで」
「次男くんって叶夢さんとなんか雰囲気違うね」
「あぁ・・よく言われます。姉も兄も美形で勉強もできたから、お前だけもらわれっ子なんだろって」
次男が自虐的に笑うと、神原は手を止めて次男の方を向いた。
「あ、あの?」
「次男くん、そんなこと言ったらだめだよ。僕は雰囲気が違うと言っただけで、次男くんが叶夢さんより劣ってるとかそんなことを言いたいわけじゃない。むしろ、次男くんからは優しいオーラが出てて、素敵だなって思ってるよ」
そう言って神原はにこっと笑った。
自分が女だったら間違いなく惚れてるだろう。
そこから神原と少し話すようになり、連絡先の交換までこぎつけた。
「すげぇじゃん。候補1人目とそこまで仲良くなるとは」
面白がっている浩太を見て、次男はため息をついた。
「仲良くなると逆にあんな姉と結婚させるなんて申し訳なくて・・・」
「確かにな~。それはあるな。で、もう一人の候補は?」
「あぁ。崎矢さんな」
崎矢とは神原と違って会う機会が少ない。
崎矢はフリーのライターなので、神原のように一緒に働いているわけではなく、記事のことで打合せがあったりする場合だけなのだ。
なので、次来た時には必ず声をかけなければと思っていた。
そんな時、編集長の遣いで、他のフロアに行っていた時に、たまたま崎矢を見かけた。
(これは逃せない・・・!)
「あの、崎矢さんですよね?いつも姉がお世話になってます」
「えーっと、君は・・?」
「あの、工藤叶夢の弟です。見えないですよね?ハハハ」
「あ、工藤さんの!そんなことないよ、言われてみればわかる気がする」
「今日は別の雑誌のですか?」
「いや、実は僕は雑誌の記事だけじゃなくて、色々取材して本も出してるんだよ。それの打ち合わせ」
そう言って文芸部の方を指差した。
「へぇ~!本を出すなんてすごいです!」
次男がキラキラした目で見ると、「そんな、そんな。売れてないし」と崎矢は謙遜した。
姉と違って謙虚な性格なようだ。
「どんな本を書かれてるんですか?ぜひ聞いてみたいです」
ここぞとばかりに次男は仲良くなるために踏み込んでいく。
崎矢を見る限り、まんざらでもなさそうだ。
「あ~…、今日はこの後取材があって時間がないんだ」
そういうと、ポケットの名刺入れから名刺を取り出した。
「ここに携帯番号書いとくからさ、一度電話してきてよ。いつもお世話になってる工藤さんの弟なら晩御飯奢るよ」
「ありがとうございます!」
「ってことで、今度崎矢さんとご飯行く約束までしたんだよね」
「2人目ともそこまで仲良くなるとは、さすがだな」
「崎矢さんもいい人なんだよなぁ。電話で約束した時も、気を遣わせないようにって店も選んでてくれててさ」
「いい人を候補にするのは胸が痛むか」
「そうなんだよなぁ」
次男は菓子パンをかじっていると、向こうから美園がやってくるのが見える。
「あ、次男くん、浩太くん」
駆け寄ってきて、「ご飯食べてるの?一緒にいい?」と荷物を置いて、昼食を買いにお店の方へ行った。
スカートがひらひら揺れている。
今日も可愛らしい。
「かわいすぎだろ・・・」
次男はふぅと息を吐くと、再び菓子パンをかじる。
菓子パンがいつもより甘く感じる。
「蛯名と上手くいっても、姉がいたら先はないぞ」
いつも殴って来る姉を想像して、身震いがした。
美園が姉の餌食になったら・・・。
「・・・神原さんや崎矢さんには悪いけど、やっぱり姉を結婚させるために頑張らせてもらう!」
次男はスマホを開いた。
まずは、明日崎矢とご飯に行くことになっている。
絶対負けられない―
誰と戦っているのかわからないが、闘志を湧き起こしながら、菓子パンを口に放り込んだ。




