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屑守の真法拾い 〜魔法は世界の未来を前借りする禁術でした。拾ったガラクタで失われた役目をつなげ返す〜  作者: 妖怪ステーキ


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第1話 白と黒の屑守


挿絵(By みてみん)



朝の砂は、濡れた石の匂いがする。


アルブはそれを知っていた。夜のあいだに空気が冷えて、砂の表面だけがほんのすこし湿る。その匂いは太陽が昇りきる前の、ほんの短い時間だけのものだ。昼になれば消える。夕方には忘れる。でも朝のその匂いだけは、どこにいても砂漠の底にいる気がして、アルブは好きだった。


給水塔の跡は、村の東外れにある。


むかし水を汲み上げていた石造りの塔は、今では半分砂に沈んで、残った上半分に板を渡して部屋にしてある。ばーちゃんが若いころに自分で作ったと言っていたが、どこまで本当かは分からない。床は傾いているし、風が吹くと壁のどこかが鳴く。それでもアルブとマブロにとっては、生まれたときから家だった。


「アルブ、起きてるか」


板張りの仕切りの向こうから、マブロの声がした。


「起きてる」


「ばーちゃんは」


「まだ寝てる」


しばらく沈黙があって、それからごとごとと音がして、マブロが仕切りをまたいで入ってきた。黒い髪に黒い目。アルブとは反対に、日焼けした肌はいつも砂埃で汚れている。今日も起きぬけから動いている顔をしていた。


「出発、今日だぞ」


「知ってる」


「荷物は」


「昨日詰めた」


マブロはしゃがんで、アルブの荷袋を引っ張って確かめるようにした。縄の結び目、水筒の口、薬包みの位置。アルブが丁寧に整えたものを、マブロは雑に確かめる。それでもちゃんと確かめる。それがマブロだった。


「足りてる」とアルブは言った。


「足りてなかったら困る」


「足りてる」


マブロはようやく手を離して、立ち上がった。


今日から一か月、二人は博守として砂漠へ出る。正式名称は博守、ばくもり。砂漠に沈んだ旧世界の残骸、役目を失ったものを拾って帰る仕事だ。村の市場で売る。燃料になるもの、薬になるもの、食材になるもの、素材になるもの。砂漠はなにもない場所ではなく、むかしの世界が沈んでいる場所だから、掘れば出る、歩けば見つかる。それを知っている人間が拾いに行く。


ただし村人はその仕事を博守とは呼ばない。


屑守、くずもり。砂漠の屑を拾ってくる者。それが村での呼ばれ方だった。


アルブは子供のころからその言葉で笑われた。屑守の子。あの塔に住んでる変な老婆の孫。砂漠から虫や石を拾ってくる白い双子。アルブは笑い返せなかった。うまい言葉が見つからないし、声が出ない。マブロはすぐ言い返すけれど、アルブには無理だった。


「ばーちゃん、起こしてくる」とマブロが言った。


「待って」


アルブは立ち上がって、先に仕切りをまたいだ。


ばーちゃんの部屋は狭い。荷物と干し草と、正体不明の小石と骨と枝が積まれていて、その奥に薄い布団がある。ばーちゃんはそこに丸まって、白髪を乱して眠っていた。村では役目婆、真法婆と呼ばれている。変人だと言われている。実際、変人だと思う。でも変人でなければ、砂漠でひとり真法を拾い続けることも、捨てられた双子を育てることも、できなかっただろうとアルブは思っていた。


「ばーちゃん」


呼ぶと、目が開いた。老いていても、その目は鋭い。


「出発か」


「うん」


ばーちゃんはゆっくり起き上がって、アルブの顔を見た。それから仕切りの向こうのマブロも呼んで、二人を並べて見た。


「屑守が笑われるのはな」とばーちゃんは言った。


「砂漠を死んだ場所だと思っとるからじゃ。でも死んだ場所に役目が残るか?」


「……残らない」


「そうじゃ。なら、砂漠はまだ死んどらん。役目が残っとるから、おまえたちが拾いに行ける」


「分かった」


「おまえたちは屑を拾いに行くんじゃない。役目を拾いに行くんじゃ。忘れるな」


マブロは「分かった」と短く言った。アルブも頷いた。それからばーちゃんは咳をして、また布団に潜って目を閉じた。


見送りはそれだけだった。


村の外れを出ると、砂漠はすぐそこにある。境界線はない。石畳が途切れて、砂が始まる。それだけ。アルブは最初の一歩を踏み出すとき、いつも少し止まる。マブロはいつも先に踏み出している。


「来い」とマブロが言った。


アルブは踏み出した。


砂は朝の匂いを失って、もう熱くなり始めていた。足の裏に伝わる細かい粒の感触。風が吹いて、砂が顔をかすめる。遠くに砂丘の稜線が見える。どこまでも続く、茶色の世界。


屑守の仕事が始まった。


でもアルブは、屑守という言葉をいつか誇りにできると思っていた。ばーちゃんがそう言ったわけではない。ただそう思っていた。理由を聞かれても、うまく説明できなかったけれど。


砂漠に出て三日目、地図にある朽落のそばで、マブロが別の石組みを見つけた。そこは、ガラムの地図にも載っていない場所だった。


半分砂に埋まった石組みの入り口があった。朽落——砂に沈んだ旧集落——の、まだ誰も入ったことのない場所だ。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


第1話では、白のアルブと黒のマブロ、そして二人を育てるばーちゃんの日常を描きました。


村では笑われる「屑守」。

けれど、彼らが拾っているものは、本当にただの屑なのか。


この物語は、砂漠のガラクタの中から、世界が忘れてしまった役目を拾い直す双子の話です。


次回から、双子は砂漠へ出ます。

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