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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第2章 蔵人、平治の乱
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宗盛記0039

保元二年十二月師走


久しぶりにうちを訪れたお祖母様と頼盛殿が、少し話がしたいと俺を呼んでいるそうだ。二棟廊に伺うと、構わないから御簾の中に入れと言われた。

「ようこそいらっしゃいました。お祖母様、頼盛叔父上」

と挨拶をしたら、お祖母様に抱きしめられた。

「ありがとう。三郎。気を使ってくれて」

あぁ、あの件がもうバレたか。叔父上も微笑んでいる。

暗殺の可能性すらあり、きっと恨まれている平家の関係者からのものなど、捨てられても仕方ないかと思っての贈り物は、どうやら受け取って頂けたようだ。それに俺の身元も割れてる…。匿名意味ないな。

「近ごろは寒くなってまいりましたので」

「ふふふ。そうですね」

「しかし思い切ったことを。兄上から叱責を受けるのではないか?」

「あ~、ですね。子供のやらかしたこと、でなんとかならないかな」

二人共苦笑している。

「寺にぶち込む、とか言われない限りまぁ、大丈夫です」

「その時は口添えしてやろう」

と叔父上。

「大変助かります」

「できるだけ良い寺に行けるように」

そんな〜。



天気もいいし、人も来ない日は、矢で射られる稽古。最初見たときは是行が猛然と食ってかかってきたが、続けている。危ないのは武家なんだから当たり前。稽古してない方が危ない。

最近は三段程度なら秀次の矢も当たらなくなったので、景経と交代させる。景経の方が狙いがぶれるので、より稽古になるのだ。盾でたいてい避けれるが、稀に避けそこねると痣になる。



梁夫が来たのでかし、できれば燃えにくいウバメガシの材で、高さ三寸、一尺四方程の枠と、高さ三尺程の大きめの机、別に樫材で机の天板、後は椅子を作ってもらいたいと依頼する。他にも手を加えた火桶を一つ。これは泉作と共同で。手間賃の他にも、鋸を貸し出す。

というか、実はこちらが本命。大工が鋸にどう反応するかの試験である。


ついでに水運びが楽になるように、水桶…と言っても直方体の箱に柄と車輪を付けものを設計して作ってもらう。桶の内側は布を貼って砥粉と木屎漆こくそうるしで下地塗りして防水する。軸受は車と同様ベアリング使用。底の方に栓を着けて別の容器に移せるようにする。要はキャリーバッグ型の水桶。舗装がないので車輪は不整地で使えるようかなり大きめに。これも軍用を考えている。が、当分はウチで使おう。物には試験と改良が必要なのだ。


鉄雄に頼んでいたカイロが五個届く。追加注文をさらに十個。


泉作が、前回頼んでおいた素焼の皿と釉薬を持ってきたので、絵付けの指示をする。というかやってみせる。

今回の重点は酸化焼成で緑色の銅釉。胆礬たんばん(硫酸銅)を釉に混ぜ込む。鉄釉と銅釉は同時に焼けない事も教えておく。低温釉は本焼の後の上焼き(うわやき)(色絵付のための焼き)の時に焼かないと、融解の温度が違うのだ。温度の概念がないので泉作に伝えにくいが。銅の融点は1080℃位だったか。それに対して鉄の融点は1500℃を超える。どちらも釉にすると凝固点降下で下がるが、陶器の場合本焼は1000〜1300℃程度。順番を間違えると最悪、先に描いたのが融けて、流れて垂れる。

俺が釉で松の枝を描く。犬張子の胴に描いたものである。葉は緑で、枝と実は茶色。二枚。

それと青海波、色は緑のと紅いの。

三番目は漬けるだけ。半分鉄釉、残り半分は二度焼きして鉛の緑釉のツートン。色の合わせ目は少し重ねる。わざと緑釉にして二度焼きを試してもらう。二枚。

次は同心円を描いて、竹串で放射状に釉を引っ掻く。スリップウェア。赤と緑の二色。

次は平行線を引いて、同じく竹串で一段ごとに逆方向に引っ掻く。これもスリップウェア。ニ色。

大陸の物の模倣以外の柄も欲しかった。

コピーだけでは将来交易で侮られる。

全部人まねの俺がどの口で言うのかって気もするが。


明日乾いたら取りに来て、透明に近い白の釉をかけて焼いてくれと泉作に頼む。



父上から呼び出し。ああ来たか…ひと月足らずとは、父上の耳のいいこと。

行くと当然怒っている。勢いよく土下座する。

「呼ばれた理由はわかっているか?」

「仁和寺への奉納の件かと」

「…何故そんなことをした?」

「子供の浅知恵でした」

「何故と聞いておる」

浅知恵は理由にならないか。慣れてきてるな。

「わが家の評判を、少しでも良いものにしたいと思いました」

「今上や信西殿に睨まれてもか」

「差し引きしても、家としてはそのほうが得かと」

「お前の出世は遠のくぞ」

「私は三男ですのでまぁ良いかな」

「馬鹿者!勝手なことをしおって!お前だけで済まなければどうするつもりだ!」

「父上。この後武家として平家の価値はさらに上がります」

実際はライバルがみんな退場して一人勝ちになる。

「それで?」

「おそらく上がるにつれて、それ以上に妬みと恨みを集めることになりましょう」

「何故言い切れる」

「帝が、そういうのを得意としていらっしゃるからです」

「…」

「帝は、世間の噂を操るのがとりわけお上手なように想います」

「どこでそう思った」

「讃岐院や頼長様を追い詰めるそのやり方から」

この後の平治の乱でも。

「それで?」

「そうなった時に我家を守るのは、ざっというと雰囲気ではないでしょうか」

「それで?」

「うつけで通っている私なら、これ以上評判を下げることもないかと」

「たわけ!なんのために儂が苦労しておる」

「勝手を致しまして申し訳ありません」

「下がれ!」

「はっ」


++

清盛は考えている。

「(むしろ重仁殿下への心配りは、儂が手を回すべきことであった)」

「(しかし儂が直接何かするのは危険すぎる)」

「(確かにまだ子供の宗盛がやるのが、一番穏当に収められるか)」

「(だが宗盛自身は帝や信西殿から警戒される。或いは厭われる)」

「(場合によっては宗盛をきり捨てねばならんことになる)」

「(しかしそのことも折り込んで考えておるようだったな)」

「当分は様子見か」


時子が心配そうに見ている。

++



とりあえず急な出家の危機はしのいだ…かな?

実のところ、信西は必ず死ぬと思っている俺は、信西に睨まれても全く気にしない。長くてもあと二年の事だ。その後は反動で信西の人事はチャラになるだろう。

帝からも警戒されるだろうが、この人は使えるものは使うし、結局ラスボスなんで、そもそも味方と思ったことはない。

重仁様との繋がりは、割と俺の自己満足みたいなもんだ。今の所讃岐院である崇徳院とは、できるだけ遺恨を減らしておきたい。地元縁で結構親近感が強いのだ。大魔縁になって平家に祟られるのは勘弁して欲しい。平家は結構酷い裏切りをした自覚があるので特に。

「皇を取って民とし民を皇となさん」、の方はやってくれても結構です。八百年程かかると思いますがじっくりお願いします。



山葡萄ジャムがそろそろ尽きる。今期最後の葡萄襲と水仙の切り花を持って、姫詣で。

カイロと予備の炭団たどんを持っていく。炭団の補給は次からは雑仕ぞうしに取りに来て貰おうか。


今俺が使っている懐炉カイロを見せると、略奪されそうになったのでちゃんと新しいのを持ってきたことを告げる。ちょっと目の色が変わっていた。怖い。

使い方を説明する。袋の上からでも直接肌には当てないで、寝るときはちゃんと外さないと(低温)火傷するからと言っておく。炭団の名前を聞かれたので答えようとして、この形だと団子に見えないなぁと思う。炭餅すみもちと答えておく。


冬の朝 火桶に残る おきのごと 

ほの暖かき 君の掌


残念。触らせてくれませんでした。


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― 新着の感想 ―
 主人公には天下を(時代的に表現は間違いかな?)取ってほしいけど、果たして主人公はハッピーエンドを勝ち取れるだろうか。  読んでいる感じバッドエンドになりそう。
もう全自動で口説きだすね
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