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宗盛記  作者: 常磐林蔵
第5章 遠江守

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宗盛記0123 応保二年七月

一部考えさせられる所がありましたので、0122、0123を差し替えます。一日、表示した後、0122を差し替え、0123を削除し、次の金曜日に新たに0123 をアップします。

申し訳ありませんが、ご了承ください。(2026.4.29)


こちら、削除しての金曜日に再アップの予定だったんですが、そうすると感想とか印象とか消えてしまいそうなので、残しておいて金曜日に差し替えることにしました。(2026.04.30)


応保二年七月文月


十一日

朝目が醒めて、糸子の髪を指で弄んでいると糸子も目が醒めた。

「随分伸びたね」

糸子の目の焦点が合うと同時に真っ赤になる。

そうだ、もうこれで誰かに持っていかれたりしない。これからもずっと。

腰まで伸びた髪を追っていくとお尻にたどり着く。髪から乗り換えて手触りを楽しんでいると…


「殿?起きてください?」

と声がする。

「ん??⋯お尻は?」

「何言ってるの?朝よ?」

夢⋯か⋯。

「昨日のこと、気にしてる?」

「時には蛮勇も必要だったかなって」

「でも一番好きなのは清子なんでしょ?」

「それはそうだけど糸子も好きだ」

真っ赤になる糸子。これは、ワンチャンあるか?

「今日も予定がいっぱいなんでしょう?」

起きるしかないか。

「髪、随分伸びたね」

夢の名残に縋り付いてみる。 

「髪はこれくらいで切ろうと思うの。出歩くには長すぎると不便よね」

「これからも一緒に来てくれる?」

なんだかうれしそう。

でも予定が詰まってるので起きるしかない。


「昨日は何もなかったのか?」

朝一番の風呂から上がったところで教盛叔父上から声をかけられた。

…そうか、造りは似てるけどこっちは防音してなかったんだ。

ああ、早まらないで良かった。旅先で叔父に即バレちゃうとか恥ずかしすぎる…。


今日は朝イチで三嶋神社にお参りしてから狩野茂光の屋敷まで行く予定。お参りは当然三嶋神社との繋がりを保つためだ。

「今日明日は結構移動するし、ホント視察だから面白くないけど、どうする?」

「もちろん行くわよ」

という会話があって、まず国衙に向かう。

「近いのね…」

一応馬で来たけど五町位だからね。

国衙で昨日話せなかった在庁官人のみんなに挨拶したあと三島神社に向かうことにする。

「近いのね…」

一応馬で来たけど五町位だからね。

四宮まで十町以内にあるというと絶句していた。

半年ぶりに訪れた俺を神主さんが大歓迎してくれる。

単なる参拝に巫女舞とかありがとうございます。

大変俺の好みがわかってらっしゃる。

美人揃いでとても眼福です。

でも隣で微笑んでる糸子が怖いんです…。


巳の刻には三島を出て、伊豆を南に。

北条時政、天野遠景、狩野茂光の順でそれぞれの屋敷に寄るつもり。糸子もまだ一日中馬はきついとのことなのでしばらく馬車。冷川峠の道がどこまで使えるようになっているかの試験でもある。

北条の辺りで伊東祐親と祐泰には先行して伊東に帰ってもらった。狩野で換え馬を借りれば今日着くと言う。俺達の今日の泊まりは修善寺だ。


北条時政の屋敷で政子姫に会った。

六つになってた。早いものである。最初に会った二年前は髪がようやくうなじまで生え揃った頃だったのに、今は肩の所で切り揃えている。汗袗かざみ切袴きりばかま姿が可愛い。

糸子を見てなんかショックを受けているようだ。

久しぶりなんで聞いてみる。

「今日も蹴る?」

「蹴らないっ!」

「蹴られたの?」

と糸子。

「初じめて会った時にね」

「う〜う〜う〜」

しばらく唸ったあとまた蹴られました。なんか涙目になって走っていった。時政が慌てているが政子姫はこうでないとなぁ。

土産の毬は時政から渡してもらおう。

この当時、毬と言えば蹴鞠なんだが、八分割した笹の葉型の革と厚織の絹の布を縫い合わせて綿を詰めて丸くした。見ても楽しめるようにかなり凝った柄の布を使った。色は赤がメイン。平家の色だ。もちろん波路に頼んだんだが。

紐を結べる輪も着けた。俺が居なくてもいつでも蹴ることができるように。

時政の太郎が挨拶に来る。八つになったらしい。徳子と同い年か。よろしくね。


とりあえず北条の木綿の出来を確認する。順調に育っている。鶏もいる。大豆畑もできてる。ここは今年は初年度なんでこれでいいが、来年からは肥料が重要になってくると時政に説明。寝かした鶏糞と木の灰を使うことも確認する。大豆は同じ畑で連作しないでそこに替わりにワタを植えるように。

鶏糞はそのままではキツイので枯れ草と混ぜて置いて(発酵させて)使うように。

そろそろ綿花の収穫が始まっているが、採れた綿は当分は綿繰した後ウチで買い取る。生産が安定するまでは、貴族向けの販路だけで良いだろう。一部残して紡いで糸にするのも試してもらう。種は取っといて貰うから、来年はもっと増やせるだろう。布が量産できるようになったら産品として販売に持っていく。

あと長岡には三嶋の客を当て込んで温泉宿作ってみたらどうかな。


天野遠景はまだ二十二なので、今のところ実際天野郷を仕切っているのは父親の景光だ。この辺に多い工藤氏系。天野氏は沼津にも領地を持っているし、漁業も手を出しているので、沼津港の整備の話になる。遠江の吉田との航路の整備を詰めるために、相良頼景と話を詰めてもらうことになる。相互の港の税の免除や緊急避難について、防波堤について、灯台や澪標みおつくしについてとここでも決めておくことは多い。

俺は伊東と沼津に造船所を作るつもりなので、その用地についても押さえてもらう。地元の舟大工も集めてもらわないとな。

あと、いさなの鰹節事業は後々大きな産業になるので、なにか言ってきたら俺の替わりに手助けしてやってくれと。


狩野茂光の領地牧之郷は修善寺のすぐ近くで三人の中では南寄りだ。と言っても十町程しか離れていないが。牧の字を冠しているのでわかるように馬産地だ。昨年の弓競べの時にいい種が手に入ったらしく今年の春駒は体格が良かったと喜んている。

それはそれで気になるが、今年は糸子と清子の馬の替えに気性の穏やかそうな牡馬を選んでもらって、二頭買い上げる。支払いは国衙に戻ってから。かけの子供も欲しいと言うことで、茂光の所の牝馬と交配させることにした。かけは帰りまで預ける。ちなみに馬の繁殖期は三月から遅くとも八月頃までらしい。うまくいけば来年の六月頃に子供が産まれるだろうとのこと。


修善寺に寄る。今日の温泉はここだ。ちょっとした山道なんで車は今夜の泊まりの茂光の所に置いて、馬で向かう。一里ほど。お参りのあとは温泉。糸子が艶々になって出てきた。

「これが話に聞いてた温泉なのね…ホント最高だわ」

湿った髪を見てるととっても名残惜しい気分になったが、さすがに家人達の目のある所で口説く訳にもいかない。


十二日

今日は冷川峠を見に行く。泊まりの予定は伊東祐親の屋敷。茂光の屋敷からは六里ほどの道のりである。

沢口川と京入道川との分岐まで、伊東祐親が迎えに来てくれていた。京入道川の源流を越えて冷川峠まで半里足らず。工事はかなり進んでいる。俺の私領の峠道までの道も整備されていた。教盛叔父上も力を貸してくれたようだ。峠道はさすがにつづら折りの道になるが、幅は一丈程ある。馬車の通行にも十分広い。他にもすれ違いの為の退避路は作ってあるんだが。時々作業中の人夫が手を振ってくれる。宇佐美の人達だな。手を振り返す。すれ違う車をみても、交通量も順調に増えているようだ。一休みした峠からは相模湾が光って見える。糸子が景色に見とれている。俺と兵達はこっそり糸子に見とれている。

地形を見ながらざくっとしたプランを練っていく。俺の計画ではここは坂東の門だ。下りの半里と併せて、この一里を…大規模な関にする。しかも私設の。


道が良くなっているので三刻ほどで伊東に着く。八重姫がご挨拶に来てくれる。

「あら、可愛い子ね」

と言う糸子を見てこちらもなんか固まってしまった。

土産に持ってきた衵扇あこめおおぎを渡す。

「ありがとうございます」

真っ赤になって御礼を言う。あれ?ちょっと遠慮気味?でも、この子はやっぱり素直で可愛いなぁ…


伊東の港と製塩場を見たあと祐親と打ち合わせ。

まず今回連れてきた兵の入れ替えについて。これは予め手紙でも伝えておいた。これからは弟の河津祐清を付けてくれるらしい。と言っても元服間もない子供である。要は俺の側仕えの候補だ。兵の人数は百ならなんとかと言い出したから、無理しなくて良いと止める。今までと同じく二十人程連れて行くことにした。一部は引き続き都に付いてきてくれると言うし。


港の防波堤も灯台もうまく機能しているようだ。今回伊東で交替する兵達に命じて、冷川峠の測量を行うことにした。今日ざっと描いた図で、今後の峠の整備について祐親に説明しておく。

まずは道の脇に排水路を着けて、灰漆喰で固めてもらう。車輪が通る所も固めて欲しい。これは砂利と赤土と漆喰とにがりを固めてみることにした。道守を置いて管理も続けるように。

「それが終わったらゆくゆくは山側に郭を作る。道の曲がっている上側には、下の道が狙えるような兵の溜まりを作りたい」

「え?冷川峠で戦をなさるおつもりなのですか?」

「もちろん予定があるわけじゃないよ。でも伊豆が攻められた時は兵をここに集めて伊東の港を守る関とするつもりだ。伊豆の皆も伊東から舟で逃がす。だから他の間道は人が通れる程度で手を入れずに放っておいてくれ」

伊東祐親の今の動員はニ百程。伊豆全体の動員数がそれを足して五百という所か。なら二千くらいの敵なら撥ね返せるようにしたい。と言うと皆呆然としている。

「戦が起こらなければそれに越したことはないけどな。東国で大きな乱が起こって伊豆が攻められた時用だ。後は移動を便利にして流通をここに集中させておいて、場合によってはそれを止めてしまえるようにしたいんだ」

祐親が冷汗をかいている。

「通すのと同じ位止めることも大事だからね」


日が長い頃だし時間が少し余ったので、宇佐美を見に行く。片道一里。残念だが今回は熱海は無理だな。

「ここが宇佐美荘。預り所は伊東祐親。俺の最初の荘園だ。大っぴらにすると取り上げられそうだけど。二番目はさっき通った峠の私道」

「え!そんなの持ってたの?」

「ここでは塩を作らせて結構儲かってるよ。俺のヘソクリ」

「新規の荘園の規制があるのよね?それに平家じゃなくてあなたの荘園って、信じられないことしてるのね」

「小さいけど温泉も出るから、伊豆に遠流になったらここで暮らそうかな」

「バカね…でもいいところ」


二人だけならこの後アプローチするんだが、周りに護衛がいっぱいいるので伊東に帰る。温泉入って祐親のもてなしを受けて休む。


十三日

あいにく小雨になったが、それはそれで峠の様子見にはいいので冷川峠を逆に越える。

八重姫が、「次はいつ来てくれるの?」と聞くので、年に一度は来るつもりと言っておく。

怪しいサンタさんだな。

峠の通行は雨でもそれほど問題はなさそう。でも道はぬかるんで時間は倍近くかかる。下りは神経使うな。

無理せず今日は北条で泊めてもらう。ここの温泉も久しぶり。


十四日

朝起きてもう一度温泉に入る。当分味わえ無い贅沢。糸子の髪が乾くのを待って、国衙に向かう。

政子姫が出てきて

「また来てもいいわよ」

と恥ずかしそうに言ってくれる。手毬を持ってる。気に入ってくれたみたいだ。

「うん。じゃ、また来るよ」

頭を撫でてみる。くすぐったそうにしているが、今度は蹴られなかった。


三島まで二里半程。今日は糸子も馬なので、やりきった感のあるかけで速歩を試してみる。

はりきっている。なぜだか負けた気。

半刻程で三島について、帰りの支度を始める。駿河と遠江に使いを出す。

教盛叔父上は明後日なら出れるというので、その日に帰ると言うとみんな残念そうにしてくれる。長居したい気持ちはあるんだが、遠江でも用事があるのであまりゆっくりできない。帰郷させた相模の兵の替わりを連れて、大庭景親と土肥実平がきてくれたので今日明日は宴会だ。

景経と秀次も揃っている。景経は誰も連れて帰らないらしい。新しい子供できてなくてよかったな。

大庭兄弟と土肥兄弟が叙位の礼を述べてくる。いや、源親治の件ではこちらもお世話になったから。交替して相模に残る兵たちには、二人と相談して箱根と国境の海岸沿いの通りにくい道の測量を頼んでおく。海岸沿いの道はゆくゆくは整備したい。


久しぶりなんで、国庁の厨に行ってみる。まだ半年だ。面子は変わってないか。いさなが頑張って大量の魚を届けてくれていた。

竈の上に鉄鍋を置いて藁を積み上げて、鉄串に刺したカツオの切り身の表面を藁焼きにする。すぐに冷水で締めて、少しだけ酢を垂らした醤油とおろしショウガ、ニンニク、ネギなんかを薬味にする。

「カツオのタタキっていうんだ。みんな食べて味を覚えてくれ」

皆が喜んでいる。ここはいいなぁ。

その日の夜にはカツオのタタキも並んだ。

「私、これ大好きよ」

糸子にも好評だった。満足。

でも夜は我慢である。



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― 新着の感想 ―
あ、甲斐国も東国でしたね。 そちらからの備えにはなりますね。
>「ん??⋯お尻は?」 >「何言ってるの?朝よ?」 >夢⋯か⋯。 夢で良いのです。 >「髪、随分伸びたね」 >夢の名残に縋り付いてみる。 >「これからも一緒に来てくれる?」 >なんだかうれしそう。…
ふふふ、恋泥棒さん。
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