18.トキシラナイ
ブックマーク、評価ありがとうございます。
これからもご覧頂ければ幸いです。
両手に料理を持ってタナカさん(妻)は部屋に戻ると中は騒然としていた。
「タマー‼︎」
「にゃー‼︎お許しをー‼︎」
タマの勝手に考えた物語で自分が死にかけ、タマに助けられると言う展開が気に食わなかったイアンが右手でタマに頭にブレーンクローを、つまり脳天締めを食らわせていた。
そんなイアンを止めようとアイゼがイアンの右手を掴み、サントがイアンから剥がそうとタマを自分の方へ引っ張り、奮闘していた。
「イアンさん止めてください‼︎」
「師匠の頭割れちゃいます‼︎」
その側でポチはタナカさん(夫)とコッコ達と世間話をして自分達は無関係ですを貫いている。
この場のカオスな雰囲気を感じ、タナカさん(妻)はとりあえず机に料理を置くと再び料理を取りに部屋を出て行く。
最後の一皿を持って来ても、未だ騒いでいるイアンの頭に台所から持って来たお玉を後頭部に向かって投げつける。
「いった⁉︎」
「ひゃぁ⁉︎」
コンと良い音を立てて頭に当たり、痛みの衝撃でパッとタマを手離す。そのせいで自分の方へ引こうとしていたサントが勢いよく後ろにひっくり返る。
「サント⁉︎大丈夫?」
「いたい…」
床に背中を打ちつけ、近寄って来たアイゼに涙目になりながらに応える。心配しているとサントが少し嬉しそうな顔をしている事に気付いた。
タマのふかふかの体を全身に感じ、手をタマの腹に乗せて撫で回し、ニヤけていた。
「ふふっ、師匠…やわらかい」
「にゃふぅん」
心配した事に損したアイゼは、頭を押さえて痛みに呻いていたイアンの側に行く。
「イアンさんは大丈夫ですか?」
「…平気だ」
頭を押さえたままタナカさん(妻)の前に行って頭を下げて謝っている。タナカさん(妻)はイアンを許すとイアンを止めなかったポチ達を叱っていた。
どうやら夫であるタナカさん(夫)が何もしなかった事が一番許せなかったらしい。
「カタカタ」
「クゥーン」
「カタ…」
苦笑いしながらアイゼはまだ止まりそうにない説教を聞いていたところ、イアンが手招きしてアイゼ呼んでいることに気付く。
「先食べてろ。まだ終わらないし、タナカさん(妻)はお前達に食べさせたがってたしな」
「え、でも…」
「冷えたら元も子もない」
そう言って無理矢理椅子に座らせて、イアンはまだ横になっていたサントとタマの頭を叩く。
正気に戻ったサントはタマを抱えたまま席に着き、タマは目の前の魚にテンションが上がり食べ始めてしまう。
それに連れられてサントとアイゼも目の前の食事に手をつける。
「美味しい!」
「本当だ」
美味しいと言って食べる二人に気付き、タナカさん(妻)は説教を止めて側に寄る。
ポチ達はやっと解放されたとホッとし、イアンは作戦が成功した事に気付かれないように安堵した。
イアンがわざわざアイゼに先に食べろと言ったのは美味しいと食べるリアクションでタナカさん(妻)の気を逸らし、説教を止めてもらう為だった。
その作戦は無事功を奏した。タナカさん(妻)は嬉しそうにして、率先して二人に盛り分けている。
「…俺達も食うか」
「ワン」
「カタカタ」
コッコ達の前にご飯を置いて、それぞれ席に着き食べ始めた。
イアン達は何時ものように食べるが、側ではタマとサントがトキシラナイの談義を熱を込めてしていた。
「これがトキシラナイですにゃ!」
「この時期にしか乗らない脂身、純粋に塩だけで焼かれているからこの魚本来の味がします!」
「タナカさん(妻)が丁寧に焼いてくれたお陰ですにゃ!」
話しているのに途切れる事なくどんどん口に吸い込まれていくトキシラナイ。
イアンも食べ切られる前に少しずつ食べるが、勢いが凄すぎてあっという間にトキシラナイは無くなった。
「…無くなった」
「クゥン」
余り食べられなかった事に肩を落としているイアンにポチが慰めるようにペロペロとイアンの指先を舐める。
トキシラナイを食べ切った事に満足したのかタマは二人がここに来た目的を聞いていた。
「そう言えば、今日は何のようでここに来たんですにゃ?」
「私達七日後、隣町の教会にある神の間で職業を授かるんです」
それにピクリと反応するイアンにポチだけ気付いてそっと身体を寄せる。
五の月の十五日。毎年この日、十三歳になった子供が神から職業を授かる。
サント達が住んでいる町にも教会はあるが職業を授ける為の媒介道具の水晶が近場では隣町の教会にしか無いのだ。
職業を持たない内は未成年扱いされており、隣町で行われる為、家族が同伴するのが通例だ。
「それで、もしだったらイアンさん着いて来てくれませんか?」
「却下」
「悩んでくれても良いじゃ無いですか⁉︎」
悩む事もせずに拒否したイアンにショックを受けるアイゼ。
アイゼには両親はもういない。親代わりの町長は多分着いて来る事は無い。別に一人で行ってもいいと思っていたが、どうせならイアンと行きたいと思ってしまったアイゼだった。
「良いじゃにゃいですか。さっきまで街の話聞いて興味持ったですにゃ」
「絶対、嫌だ。教会に行くのも、ましてやあの街になんて二度と行くか」
一方イアンは眉を顰め、二度と近寄りたくも無い所に行こうとも思わないし、何故着いて来て欲しいと言われたのか意味が分かっていなかった。
そんなイアンに諦めたように溜息を吐いて、目の前に残っていた食事にもそもそと手をつけるのだった。




