地下室と『彼女』のお名前発表ですわ!
あの後、部下に支えられながら屋敷から出て行った悪徳刑事は、逃げるようにして邸宅を去っていきました。パトカーのタイヤが砂利を噛む音が遠ざかり、ようやく静寂が戻ってきます。
「……行きましたわね。ふぅ、演技とはいえ、あのような低俗な方とお話しするのは美容によろしくないですわ」
「ええ〜、メイカちゃんノリノリで煽ってたし、ストレス発散になったんじゃないの?」
「そのお相手がストレスの元凶なのですもの。プラマイゼロ……というか少しマイナスですわね」
わたくしが深くため息をつくと、背後で固まっていた小雪さんが、おずおずと声をかけてきました。
「……メイカさん。この度は叔父の手先から守って頂き、本当にありがとうございます」
「いえいえ。それより掴まれた部分は痛くないですの?」
「ええ。すぐに庇って頂けたので、この通り手の跡すらついてないですよ」
「それはよかったですわ。小雪さんの白い肌には痣の1つも残してはおけませんもの」
新雪のように白く透き通る柔肌を見た私は、この芸術品が汚されなかったことに安堵のため息を吐きました。
「ところで先ほどの一幕の際、出会ってから数時間しか経っていない私のことを『大親友』と言ってくれましたよね」
「あら、嫌でしたかしら? 録画に残るなら、利害関係者よりも情動的な繋がりがある方が、わたくしが出しゃばるのに丁度良いと思ったんですの」
「そうだったんですね。でも形だけでもメイカさんの大親友になれて光栄です!」
「小雪さんなら今からでも大歓迎ですわ!……それよりも1つ、謝らなければならない事がありますの」
「えっ、なにかありました?」
急に頭を下げた私に対して、首を傾げる小雪さん。
「いくら証拠を確実に手に入れる為とはいえ、ギルドに提出する動画の中に、小雪さんの事情や至宝の話が映り込んでしまいました。本当に申し訳ございません」
「き、気にしないでください!叔父の手先に私の家が汚されるのを免れたのは、その録画のおかげです。それにギルドには既に所持登録済みなので、何の問題もないんですよ」
「えっ!?あいつら違法所持がどうたらって言ってたよ!まさかイチャモン目的で荒らそうとしてたわけ?」
横で聞いていたエレナさんが目を吊り上げてプンプンと怒っています。その様子を見て微笑んでいた小雪さん。ですが、その後背筋を伸ばし粛々と話し始めました。
「ねぇ、2人とも。ご迷惑でなければ、神楽坂家の至宝。ご覧になりませんか?」
「えっ、大丈夫なの?私たちも実はグルかもしれないんだよ」
「これでも少しは人を見る目は養えているつもりです。それに色々とお世話になった貴女方には、全てをお見せすべきだと、私は決めたのです」
「……それは一時の感情ではなく、本心からの考えでよろしいのですね?」
「ええ、もちろん。それに既に色々と巻き込んだ後ですもの。ここでしらばっくれる程、私は恩知らずじゃないんですよ?」
「小雪さん……」
か弱いお嬢様である小雪さんの覚悟の姿を見た私は、もう何も言うべきではないと汲み取りました。
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コツン コツン
あの後、応接間に飾られた絵画の裏に隠された仕掛けを動かし、地下へと続く入り口を出現させた小雪さん。
先導する彼女に付き従い進む中、一段下りるごとに空気は冷たくなり、先ほどまでの華やかさとは対照的な、足音だけが鳴り響く静かな空気が漂っています。
「……着きました。この扉の向こうが、『彼女』が眠る部屋になってます」
「ここが……」
「大っきい……すごい頑丈そうな扉なんだね」
「元々は神楽坂家の非常用のお部屋……つまりセーフルームを目的に作られた場所だったそうです」
「海外の豪邸っぽいねぇ〜」
「なるほど……セーフルーム。そんなお嬢様ポイント、わたくしには思いつきませんでしたわ」
エレナさんの言葉に、私は心の中のお嬢様的欲しい物リストに新たに付け加えました。
ピッピッピッ ピー ガチッ
『ロックの解除を確認しました』
そんな中、開錠のため色々な操作をしていた小雪さんの手元で開門を告げる電子音声が鳴ります。
「お待たせしました。それでは入りましょうか」
小雪さんは手元のパネルを操作して、分厚い金属でできた扉を開きます。
ゴゴゴゴゴ
少し錆びついた音を響かせ現れたのは、豪邸の趣とはかけ離れた、頑丈な金属で覆われた部屋。その中央には淡い光を放つガラスカプセルが鎮座し、一人の美しい少女が静かに眠っています。
「まあ……」
「はぇ〜、秘密基地みたい……」
「秘密基地。確かにそれっぽいですね」
私たちの呟きに相槌を打った小雪さんは、少し悲しげな視線を『彼女』へ向けた後、振り返り『彼女』を紹介してくださりました。
「あそこで眠るのが、我が家の至宝……そして憎き叔父達が狙う獲物。完全自律型ゴーレム『ガラテア』です」
私用により次回から不定期更新となります。少しお待たせしてしまいますが、このまま書き続けますので、その点はご安心くださいませ。
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