ファーストステップと無粋な闖入者ですわ!
「……以上が、これから学んでいただく淑女教育のあらましになります」
「ご説明ありがとうございますわ」
30分ほど時間をかけて行われた事前説明ですが、どれも魅力的なものばかり。
テーブルマナーやダンスなどお嬢様っぽいものから始まり、ドレスや和服などの着付けや立ち振る舞い。
さらに希望があれば、邸内で保管している楽器のお稽古まで!
お嬢様が生活の中で学んでいく数々の嗜みを、神楽坂家の当主である小雪さん直々に、マンツーマンで。しかも、これらを全てこの大豪邸で受ける事ができるのです。
「それでメイカさん、この講習はお眼鏡に適いそうでしょうか?」
溢れる思いを抑えるために黙り込んだ私を、小雪さんは不安そうな面持ちで尋ねてきます。それに対して、私は不自然なほど背筋を伸ばし、歓喜に震えながら答えました。
「誠に素晴らしいカリキュラムの数々……これなら完璧なお嬢様になれる。いや、なるために、この伊都華メイカ、身を粉にする覚悟でございますわよ!」
「ははは、メイカちゃんなら本当に粉になるまで頑張りそう……そのあと復活しそうだけど(ボソ)」
「わたくしはフェニックスではございませんわよ!?」
エレナさんとのコントのような会話に、小雪さんはクスリと笑う。その姿をみて、お嬢様はこう笑うのだと、魂の【お嬢様手帳】に書き殴ります。
本物のお嬢様から直に受けられる【お嬢様講座】。
いよいよお嬢様への第一歩を踏み出せる事に興奮をしていたのですが、説明が終わった事で冒険者としての本能が復活。私の意識は、再び周囲の『不自然な空白』に向けました。
案内をしたのも紅茶を持ってきたのも、全て小雪さんによるもの。この館の主がせっせと応対しているのに、もう一つの気配は動こうともしない。
(小雪さんの様子から考えて、罠の可能性は無くなりました。では、私が感じた違和感の理由は?……事情があるのは建前で、もしかして何かの試験かしら?)
契約のお話も終わり、女子3人で談笑している中、改めて邸内全てに気を巡らせて異常はないか探ってみました。
その行動が功を奏したのでしょう。今までは感じなかった気配が、豪邸のすぐ側まで入り込んでいるのを察知しました。
(気配が9つ。あえて気配を探るのを中断してたとはいえ、これほど近寄られるまで気付かないとか、ここの使用人はやり手ですわね……ところで少し敵意の混じった匂い。これは何なのかしら?)
「どうしたの、メイカちゃん。急に黙り込んで」
「あの、なにかお気に触る事でも言ってしまったのかしら……?」
「いえいえ、普通のことでしたよ」
急に黙り込んだ私を心配してか、小雪さんが首を傾げて、エレナさんがフォローをする。その瞬間、平穏は暴力に塗り潰された。
ガシャァン!
綺麗なお庭を一望できる、高額そうな窓ガラスが粉々に砕け、下卑た笑みを浮かべた男たちが奇声を発しながら乱入する。
「きゃああああ!」
「動くな! おい、嬢ちゃん。この奥にある『人形』を出してもらおうか!」
侵入者に驚いた小雪さんは悲鳴を上げ、手にしたカップを床に落とす。
「なんなんですか!?なぜ彼女の事を……まさか!?」
「へっ!想像通りとだけ言っておこうか!……それより、誰だコイツらは!?嬢ちゃん以外に居るとか聞いてねえぞ!」
密かに武器を装備する私と、事態を把握できずオロオロするエレナさんを見て、異物どもは喚き立てる。
その様子に明確に敵だと判断した私は、小雪さん達を守るように立ち上がり、鋭い眼光で侵入者を睨みつけます。
「なんて無作法な方々ですこと! お話の最中に乱入するなんて、わたくし、とってもお怒りですわよ?」
「なんだ、このエセお嬢様は?ついでにコイツらもやっちまうぞ!」
「おう!!」
小汚い野太い声の賊達は武器を振り上げ、こちらに襲いかかってきました。
かくして私の【お嬢様】への輝かしい第一歩は、泥を踏むところから始まるのでした。
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