家に帰るまでが遠足
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「覇王丸さんっ!」
俺が倒れたまま動かないサルーキを見下ろしていると、ライカが駆け寄ってきた。
「覇王丸さん……! 顔が腫れて……」
「ん? ああ……。結構、殴られたからな」
鏡が無いので分からないが、結構、酷い状態になっているのだろうか。
「腕も……」
ライカは大きく切り裂かれた腕の傷を見て、ぽろぽろと涙を零しはじめた。
「ごめんなさい……。私が攫われたりしたから……。ごめんなさい……」
「お前が気にすることじゃないし、謝る必要もない」
俺はライカの頭を撫でた。
後付けの解釈になるかもしれないが、あの時、ライカを人質にとったからこそ、サルーキはいったん引き揚げるという判断を下したのかもしれない。
だとすれば、集落に一人の犠牲者も出なかったのは、ある意味、ライカのおかげだと言うこともできる。
それに、あの時、俺が寝過ごさずにサルーキと鉢合わせをしていたら、こうして鬼人のふりをしてオターネストに潜入することもできなかっただろう。
つまり、何を言いたいのかというと、すべてが良い方向に転がったということだ。
「全員無事なら、それでいいんだ。ライカが無事でよかった」
「……はい。……助けてくれて、ありがとうございます」
ライカは俯くと、俺の腕に額をくっつけるようにして自分の顔を隠した。
泣き顔を見られたくないのか、それとも単純に照れているのか。
『ヒューヒュー』
先程から山田がしきりに口笛を吹いて煽ってくるので非常に鬱陶しい。
(こいつは後でどうにかするとして……)
これから、俺たちにはオターネストを脱出するという最後の大仕事が待っている。
俗に言う「家に帰るまでが遠足」というやつだ。
しかも、帰りは俺とハウンドだけではなく、ライカと元市長も連れて行かなければならないので、難易度は飛躍的に上がる。
いくら警備が手薄とは言っても、ひとたび非常事態を告げる警報が鳴り、侵入者を捕縛せよとの伝令が走れば、俺たちでは対処しきれない数の敵兵が逃走経路に立ちはだかるだろう。
(警報に……伝令か)
俺は思案を巡らせながら、ハウンドに刃物を突き付けられたまま、茫然と立ち尽くしているオズを横目で一瞥した。
余程、サルーキに心酔していたのだろうか。
もはや、抵抗する気力も無さそうだ。
(こいつもどうにかしないとな……)
オズは魔法を使えるので、手足を縛ったところで意味が無いだろう。
今は戦意を喪失していても、時間が経てば埋み火のように復讐心が再燃する恐れがある。
サルーキへの忠誠心が高ければ高いほど、そうなる可能性は高い。
(――――ああ、そうか)
『何か良い案でも思いついたんですか?』
(逆だな。悪いことを思いついた)
『……忘れているかもしれないけど、あんた、勇者だからね?』
(大丈夫。殺人罪よりちょっと重いくらいだから、何も問題ない)
『問題あるだろ! 自重しろ!』
糾弾する山田の声を無視して、俺は足元でうつ伏せに倒れているサルーキを引っ繰り返して仰向けにした。
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