勇者 VS サルーキ 二回戦(後編)
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「貴様は俺が殺す!」
「やれるものならやってみろ!」
サルーキは突進と同時に剣を振りかぶった。
全身の筋肉をバネのようにしならせて、遠心力と共に振り下ろす袈裟がけの斬撃。
最初の一撃で蹴りを付けるつもりなのだろう。
全身全霊の攻撃に、俺は迷わず左腕を掲げ、防御の姿勢を取った。
『無茶ですよっ!』
(腹を刺されるくらいなら、腕をくれてやった方がマシなんだよ!)
俺は腕の筋肉に力を込め、歯を食いしばって激痛に備える。
「死ねぇぇぇっっっ!」
直後、叩き斬ると形容するに相応しいギロチンのような重い斬撃が、左腕を襲った。
痛みと同時に、肉が潰れ、裂け、骨を砕こうとする衝撃が駆け抜ける。
恐らく、肘から先を切り落とし、そのまま胴体まで到達させるつもりだったはずの、渾身の一撃は――――
腕の骨すら砕くことができずに、途中で止まっていた。
「馬鹿な……」
「うぉぉぉっ!」
俺は激痛に耐えながら、刃が食い込むのも、肉が抉れるのも構わずに、そのまま腕を伸ばしてサルーキの手首を掴む。
「へへ……へへへへへ……。もう、放さねぇぞ……」
不敵に笑う。
その時、怒り一色だったサルーキの表情に、初めて恐怖の色が浮かんだ。
「ここからは我慢比べだ。俺とお前、どっちが先にくたばるか」
死ぬまで殴り合おうぜ。
俺は右腕を大きく振りかぶり、サルーキの顔面に拳を振り下ろした。
サルーキは反射的に避けようとするが、掴んだ腕がそれを許さない。
俺の拳が、初めてまともにクリーンヒットした。
「ぐっ!」
「どんどんいくぞ!」
俺が手を放さない限り、お互いに手錠で繋がれているようなものだ。
至近距離での殴り合いなら、防御や回避のテクニックは意味をなさない。
単純に耐久力の勝負だ。
二発、三発と、連続で拳を叩きつける。
「舐めるなぁっ!」
サルーキも負けじと、俺の顔面に拳を振り下ろす。
脳が揺れる。歯を食いしばる。殴り返す。殴り返される。
ここまでくると、もはや意地の張り合いだが、状況は圧倒的に俺が有利だ。
なにしろ、サルーキは足を負傷していて踏ん張りが効かない。
そして、サルーキは利き腕を掴まれているが、俺は利き腕で殴っている。
しかも、元々の腕力は俺の方が上なのだ。負ける要素が無い。
だが、この後、オターネストから脱出することを考えれば、歩くのもやっとというギリギリの状態まで追い込まれるのは、できれば避けたかった。
早く決着をつけたい俺と、このままではジリ貧のサルーキ。
先に仕掛けたのはサルーキの方だった。
*
「俺の武器が拳だけだと思うな!」
突如、サルーキは俺の肩を掴んで固定すると、言葉通りに牙を剥いて、首筋に噛み付いてきた。
人間の咬合力を遥かに上回る狼の牙が、頸動脈を食い破ろうと、鎖骨の隙間に深く食い込んでくる。
何があっても絶対に離さないという、サルーキの強い意志を感じた。
だが――――それは悪手なのだ。
俺は咄嗟に掴んでいたサルーキの右腕を解放し、代わりに両腕でがっちりと胴体を抱え込んだ。
そのまま、耳元で囁く。
「お前がワニなら、噛みついた時点でお前の勝ちだったかもな」
「……?」
「おかしいと思わなかったのか? どうして、お前は俺の首に噛み付けたんだ?」
俺の方が、背が高いのに。
「!?」
サルーキが言葉の意味を理解して目を見開くのと同時に、俺は立ち上がった。
至近距離で殴り合うために、わざと腰を低くした体勢から、膝を伸ばし、左右に開いた歩幅を元に戻す。
必然、上から抑え込むように噛みついていたサルーキの足は浮き、無防備な宙吊りの状態になった。
後は、地下牢の扉を破壊した時と同じ要領で、背後の壁に向かって突進するだけだ。
ズンッ、と。
部屋全体が揺れたのではないかと思えるほどの震動と衝撃の後、俺の目の前には、後頭部を強かに打ち付けて、意識を朦朧とさせながらも、まだ立ち続けているサルーキの姿があった。
ようやく、これで決着だ。
(せっかくだし、最後に必殺技を食らわせてやるか)
『え!? 覇王丸さん、必殺技あるんですか!?』
(ある。名付けて――――
俺はぶんぶんと腕を振り回すと、サルーキに対して半身に構えた。
そのまま大きく踏み込み、足、腰、背筋、肩、腕、すべての筋肉を連動させて、威力を拳に乗せる。
(覇王丸強ぱんちだぁぁぁ!)
『通常技じゃねぇか!』
山田のツッコミと同時に、俺の拳がサルーキの顔面に直撃した。
ぐしゃりと鼻が潰れ、顎が外れ、牙が折れる。
頭が割れるほどの衝撃を受けたサルーキは、後ろの壁に一度ぶつかり、そのまま前のめりに倒れた。
「手間をかけさせやがって……。今度こそ俺の勝ちだ」
俺は口元の血を手で拭いながら、勝利宣言をした。
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