予期せぬ再会
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ゴツン、と。
全員が固唾を飲んで事態を見守る店内に、体の芯まで響くような鈍い音が響く。
俺の頭突きを完全な不意打ちで食らってしまった男は、白目を剥いて昏倒した。
「いいね」
我ながら、角度も、威力も、額に残る攻撃の余韻も、すべてが申し分のない一撃だった。
やはり、頭突きは自分よりも背の低い相手にするに限る。
「お前らは、頭を掴みやすくていいな」
獣の血が濃い獣人の場合、体毛が指に絡まって、頭をしっかり固定してくれるのだ。
「余計なことをしたら、お前もこうなるからな」
俺は、扉を支えるもう一人の男を睨んで威嚇すると、ボスの獣人に向き直った。
「おい。お前ら、どうするつもりだ?」
「どう、とは?」
「落とし前に決まってるだろーが。今更、土下座したくらいじゃ許さねーぞ」
唸るように怒鳴り、一歩、前に進み出る。
途端に周囲の獣人たちが臨戦態勢に入ったが、ボスの獣人がそれを制した。
「非礼は詫びる。だが、こうするより他に方法が無かった」
「ああん?」
「我々には、お前と敵対する意思はない。だが、お前はそれでは納得しないのだろう」
だから俺が相手をしよう、と。
ボスの獣人は、俺と同じように、一歩、前に歩み出た。
「お前を待っている間、この男――――ハウンドから、お前が獣王様に勝利したという話を聞いた。だが、にわかには信じられん。お前と拳を交えたことのある俺が、確かめさせてもらう」
「は?」
「忘れたか? 敗軍の将など、もはや記憶の片隅にも残っていないか」
口元に薄笑いを浮かべながら、ボスの獣人は目深にかぶったフードを取り去った。
見覚えのある、薄黒い狼の毛並みが露になる。
――――すべてが繋がった。
「お前……」
「久しいな、覇王丸。お前に砕かれた顎の痛み、俺はまだ忘れていないぞ」
まるで戦友と再会したように目を輝かせながら、サルーキはゆっくりと顎を擦った。
サルーキ。
この世界に転移した俺が、初めて戦った魔王軍の強敵だ。
魔王軍に与する獣人部隊の指揮官であり、港湾都市オターネストを占領した後、大森林にも侵略の手を伸ばし、ライカの父であるボルゾイに重傷を負わせ、ライカを連れ去ったことで、俺の逆鱗に触れた。
もし、この男がオターネストの防衛に徹して、魔王軍の増援が到着するのを待っていたら、世界情勢は、今とはまったく違うものになっていたかもしれない。
「そうか……。そういえば、お前は強制送還されたんだったな」
オターネストで尋問した捕虜の獣人が、そんなことを言っていた。
「ハウンド。お前、こいつに見つかっちまったのか。そいつは油断したな」
「う……」
面目ねぇ、と。
俺に揶揄されたハウンドは、一切の反論をせず、バツの悪い顔をしてうな垂れた。
まあ、実際に油断していたのだろう。
だが、それは仕方ない。
知り合いなどいるはずのない異国の地で、殆ど唯一の「自分の顔と名前を知っている敵」とエンカウントしてしまったのだから。運が悪かったのだ。
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