街外れの一区画
毎日1000文字を目標に続きを書いています。
次回の更新は明日です
細い路地を抜けて辿り着いた先は、一つのことを除いては、先程までと代わり映えのしない表通りだった。
歩道に配置された街灯の数は少なく、全体的に薄暗い。
開いている店は、宿と飲食店ばかり。
行き交う通行人の数はまばら。
ただ――――
「四つ耳の獣人が多いな」
多いというか、ほぼ全員が四つ耳の獣人だ。
ランプの灯りに浮かび上がる通行人の顔は、獣ではなく普通の人間そのもの。ただ、頭上の獣耳と尻尾だけが、彼らが獣人であることを主張している。
「ここは、四つ耳が集まって暮らしている区画なんだ」
案内役の獣人の男が、不思議そうにしている俺を見て、簡単に説明をしてくれた。
「王都で暮らす四つ耳の多くは、ここで生活している」
「そういえば、昼間、そんな話を聞いたな」
「治安が悪いわけではないが、普通の獣人はあまり寄りつかない場所なので、俺たちのようなはぐれ者が隠れ家として利用しているんだ」
「悪党の吹き溜まりってことか」
獣人の男は、俺の言葉に顔をしかめたものの、何も言わずに案内を続けた。
そして、最終的に辿り着いた場所は、居酒屋の類だと思われる場末の飲食店だった。
「この店で間違いないのか?」
「ああ。看板は閉店になっているが、店は開いている」
「え?」
「ん?」
思わず上げてしまった声に、獣人の男が不思議そうな顔をして後ろを振り返ったので、俺は慌てて「何でもない」と首を左右に振った。
どうやら、扉に掛けられた看板には、この世界の文字で「閉店」と書かれているらしい。
(やっぱり、文字が読めないと不便だな)
『今度、時間のある時に勉強しますか?』
(うーん……)
はっきり言って面倒くさいので、気が進まない。
だが、同じ勇者のヒナとゲンジロウ爺さんは、既にこの世界の文字を読み書きできるようになっているので、このままでは俺だけが落ちこぼれの勇者になってしまう。
(……いや、まだだ。俺にはマキちゃんがいる)
『謎の残念キャラ扱い』
何でもできる万能キャラなのに、と。
山田は、俺のマキちゃんに対する評価が低いことに納得いかない様子だが、戦力としてではなく、ヒロインとして見た時の「がっかり感」こそが、マキちゃんの本質だ。
(森の中で暮らしていたマキちゃんに、読み書きなんてできるはずがない)
『それはどうでもいいですけど。それで、覇王丸さんは文字の勉強をするんですか?』
(後で考える)
俺は問題を先送りにして、獣人の男の肩に手を乗せた。
「この中に、俺の仲間がいるんだな?」
「あ、ああ。そうだ」
「お前の仲間もいるんだな? 十人くらい」
「多分……」
獣人の男は、また俺に首を絞められるのではないかと、気が気ではないようだ。
それでも逃げ出したり、大声を上げたりしないのは、何度も気絶させて、しっかり恐怖心を植え付けたおかげだろう。
「ところで、お前、気絶したふりってできるか?」
「は?」
「死んだふりでもいいけど」
「なぜ、そんなことを聞くんだ?」
「分からないか」
そういえば、こいつは察しも悪いし、演技も下手くそだった。
これは駄目だな、と。
言うが早いか、俺は獣人の男の首を絞めた。
「悪いな。後で、お前が仲間から裏切り者扱いされないように、気絶してもらうわ」
気絶してしまえば、下手な演技をする必要も無い。
これはお前のためだから、と。
俺は心にもないセリフを口にして、気を失った獣人の男をひょいと肩に担いだ。
そして、目の前の扉を豪快に蹴り飛ばした。
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