怪しい呼び出し
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次回の更新は明日です。
「娼館に行って、ハウンドが来ていないか、話を聞いてみるか?」
「あのような場所が、客の情報を素直に教えてくれるだろうか?」
「……無理かな」
オルツの指摘は、もっともだった。
一般的に「娼館(風俗)に通っている」という噂が広まることは、男にとってこの上もなく不名誉なことだ。少なくとも、周囲から後ろ指をさされて、喜ぶような男はいない。
この世界に現代日本と同等の守秘義務があるとは思わないが、客からの信用を失いかねない行為を、客商売の店がするとも思えなかった。
「それなら、オルツが客として潜入するのは?」
「む……。いや、私には妻子がいるからな……」
「そうか。それじゃあ、俺が……」
行くしかない、と。
口にしかけた瞬間、ライカと目が合って――――無言のプレッシャーをかけられた。
「……勿論、俺が行くのも論外だ」
『ライカちゃんに対して弱すぎませんか?』
(うるさい)
俺が、ろくな案も出さずに、山田と罵り合っていると、
「すまない。ちょっといいだろうか?」
不意に、横から声を掛けられた。
声の主は、オルツではない。単なる通行人かと思っていた、見ず知らずの獣人だった。
声色から察するに、若い男だと思われる。余程夜目が利くのか、周囲はすっかり暗くなっているのに、ランプを持っていない。そのせいで、顔がよく見えなかった。
「何だ?」
「覇王丸というのは、あんたか?」
「!?」
いきなり名前を言い当てられて、俺の警戒度は一気にMAXまで跳ね上がった。
(誰だこいつ?)
現時点では、何も分からない――――が、最大限の用心をするに越したことはない。
なにしろ、相手は夜目の利く獣人だ。一人ではないかもしれない。
もし、夜の闇に紛れて、既に取り囲まれているとしたら――――
「オルツ。周囲を警戒しろ」
「承知した」
俺は正面に、オルツは背後に。
咄嗟の判断で、俺たちはライカを周囲の視線から隠すように立ち位置を変えた。
それを見て、声を掛けてきた獣人の男は失笑した。
「心配しなくても、こちらに攻撃の意思は無い」
「信用できるか。何の用だよ」
「あんたに話がある。一緒に来てほしい」
「……」
本来なら問答無用で断るところだが、一つだけ確かめたいことがある。
「あいつは無事なのか?」
「多少、抵抗されたが、今はおとなしくしている。怪我はしていないから安心しろ」
探りを入れるような俺の質問に、獣人の男はしらを切ることもなく回答した。
やはり、ハウンドは捕まっているようだ。
(そりゃそうだよな)
そうでなければ、目の前の男が、俺の名前を知っているはずがない。
ハウンドほどの実力者が簡単に捕まるとは、にわかには信じがたい話だが、ここが獣人国であることを考えれば、何も不思議ではないのかもしれない。
さしものハウンドも、自分と同じくらいの体格の獣人に取り囲まれたら、成す術が無いだろう。
調子に乗ってボロを出してしまったのだろうか?
それとも、大金を持っていたので、悪い連中に目を付けられたのだろうか?
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