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遅刻

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

(手作業で灯をつけて回っているのか)


 たしか、アルバレンティア王国の王都では、街灯に火を灯すのは、簡単な火の魔法を使える近隣住民の仕事だったはずだ。


 それを軍の兵士が(しかも魔法ではなく手作業で)しているということは、やはり、獣人の魔法使いは数が少ないということなのだろう。


「ちょうど良かった。火を貰ってこよう」


 オルツが野営用のランプを取り出し、兵士に近づいて行く。


 二言、三言のやり取りをした後、オルツの手元がランプの灯りで照らし出された。


「やっぱり、手元に明かりがあると安心するな」


「王都や王城での暮らしに慣れると、そうなっちゃいますよね」


 分かります、と。


 ライカは共感してくれたが、俺の場合はどうしても地球で暮らしていた頃と比較してしまうので、夜間の明かりに対して覚える安心感は、多分、ライカの比ではない。


(こっちの世界にLEDの懐中電灯を持ち込んだら、魔法みたいな扱いになるんだろうな)


『でしょうね。まともに見ると、失明するくらい明るいライトもあるみたいですよ』


(それはもう武器だろ)


 そこまで極端ではなくても、地球からこっちの世界に持ち込むだけで、ただの道具が特別な武器や防具に早変わりすることはあるだろう。


 例えば、バイクのヘルメットとか、金属バットとか、剣道の防具とか――――家や学校から調達できる物だけでも、役に立ちそうな物は沢山ある。


 ゲンジロウ爺さんがこっちの世界に和服と日本刀を持ち込んだように、俺にも事前に準備する時間さえあれば、何か便利な道具を持ち込むことができたはずなのだ。


(それなのに、お前は……。トラックで轢き殺そうとするわ、問答無用で転移させるわ)


『いい加減、水に流してくたさいよ。いったい、いつまで言われ続けるんですか』


 そんなもの、俺が覚えている限り、ずっと言い続けるに決まっている。


 俺は、辟易した様子で「そろそろ帰りたい」と抜かしている山田に、全員の無事を確認するまでは待っていろと、残業を申しつけた。


     *


「――――やはり、遅すぎるのではないだろうか?」


「そうだな」


 しばらくして、痺れを切らしたように呟いたオルツに、今度は俺も同意した。


「さすがに、これは遅すぎるな」


 オルツがランプに火を灯してもらってから、更に十分ないし二十分は待っただろうか。


 それでも、ハウンドは現れなかった。


 ここまでくると、道に迷っているだけとは考えにくい。


「ハウンド、どうしたんでしょう?」


 娼館という言葉に拒否反応を見せていたライカも、さすがに心配そうにしている。


「考えられるのは、待ち合わせを完全に忘れているか、集合場所を勘違いしているか、屋内にいて外が暗くなっていることに気づいていないか――――


 あるいは、オルツが懸念したとおり、何らかのトラブルに巻き込まれたか。


(正体がバレたっていうのも、変な話だよな)


『ハウンドさんは、正真正銘の獣人ですからね』


 ハウンドにとって「正体がバレる」とは、オット大陸出身のスパイであることが露見するということだ。


 日頃から口八丁が得意だと自称しているハウンドが、田舎者のふりをする程度のことで、致命的なミスをやらかすとは思えない。

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