表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/1664

勇者 VS サルーキ 二回戦(前編)

きりのよいところまで毎日投稿できるように頑張ります。

「よう。散歩は楽しかったか?」


「…………貴様ぁぁぁ!」


 サルーキは満身創痍だった。


腕から血を流し、片足を引きずっている。


 だが、その分、殺意が凄まじい。痛みも、恐らくは殆ど感じていないのだろう。


極度の興奮状態により、脳内物質が大量に分泌されているはずだ。


「あの……、サルーキ様……これはいったい……」


 不意に、扉の影から声が聞こえた。


 見れば、階段の前に立っていたはずの兵士が、室内を怪訝な様子で伺っている。


 サルーキが随行させたのか、それとも心配して後を追いかけてきたのか。


 いずれにしても、今、応援を呼びに行かれるのは、かなりマズい。


たとえ数人でも、敵が増えるだけで、全員無事に脱出できる確率が大幅に下がってしまう。


(……部屋の外にいるのは、一人だけか? なら、多分、勝手に後を付いてきたんだな)


 それならば、まだ対処可能だ。


 俺は外の兵士に、退場してもらうことにした。


「なんだ、此処で何があったのか、まだ部下に説明してなかったのか?」


 にやりと口元を歪めて、嘲弄するようにサルーキに話しかける。


『ムカつく演技、めっちゃ上手いですね……』


 山田の高評価が癇に障るが、たしかに効果は抜群のようだ。


サルーキから放たれる殺意が、いっそう濃密さを増したように感じられる。


「俺が代わりに説明してやろうか? 股間をつぶ――――


「黙れぇっ!」


 腹の底から絞り出したような怒号が、俺の声を遮った。


 サルーキはぐるりと後ろを振り返り、兵士を睨み付ける。


「貴様っ! 此処で何をしている! さっさと持ち場に戻れ!」


「し、しかし……」


「俺に殺されたいのか!」


「ひぃっ……!」


 サルーキが一喝すると、兵士は逃げるように立ち去ってしまった。


 どうやら、うまくいったようだ。


 好戦的で、計算高く、慎重な側面もあるが、それ以上に、自己評価と自尊心が高い。


 お前のそういうところだよ。


(付け込みやすくて助かるぜ)


 俺は内心でほくそ笑みつつ、更に挑発した。


「そうだよなぁ? ただの人間に窓から投げ捨てられて危うく死にかけたなんて、部下に知られたら面子が丸潰れだもんなぁ?」


 サルーキにとって、配下の兵士を招集して、数の暴力で俺たちをねじ伏せることは、容易なはずだ。


実際、それをされるのが、俺としては一番困る。


 だが、腕っぷしの強さだけで今の地位まで上り詰めたサルーキには、そんな恥も外聞もない真似はできない――――できるはずがない。


 己の沽券にかけて、必ず、サルーキ自らの手で、俺を殺そうとするはずだ。


「いいぜ。かかってこいよ。今度こそ完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」


 そこまで言ったところで、とうとう殺意の衝動が限界を超えたらしい。


 サルーキはゆらりと腰から剣を引き抜いた。


窓から投げ捨てた時は持っていなかったので、先程の兵士から取り上げたものだろうか。


(――――まあ、そうなるよな)


 ここまでコケにしておきながら、それでもなお正々堂々と素手での殴り合いに応じてもらえるとは、俺も思っていない。


もしそんな奴がいたら、そいつは聖人だ。


(とはいえ、戦闘技術は向こうが上だからなぁ)


 拳ならば、気合と根性で何発でも耐えてみせるのだが、さすがに刃物による斬撃と突きには耐えられないだろう。


殴り合いに持ち込まなければ、俺に勝ち目は無い。


(仕方がない)


 俺は即座に決断した。


(最悪、腕一本と引き換えだ)


『は!?』


 山田が素っ頓狂な声を上げる。


迷惑なことに、その声がちょうど開戦の号砲となった。

評価、ブックマーク、感想などをいただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ