尋問 終わり
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次回の更新は明日です。
ひとまず、知りたかった情報については、手に入れることができた。
それは、獣人国にも「獣の血が薄い獣人がいる」ということだ。
獣の血が薄い獣人がいるのであれば、ハウンドだけではなく、ライカや、うまくすれば獣人に変装した俺も、獣人国に潜入することができる。
(変装するには、耳と尻尾が必要だな)
『まさか……そのためにオターネストに足を運んだんですか? 獣人が沢山いるから……』
(違うわボケ)
いくら必要だとはいえ、生きている獣人の耳と尻尾を切り取るためにわざわざオターネストまで足を運んだのだとすれば、それはただのサイコパスだ。
俺はシャロムに目配せをして、席を立った。
「話は終わりだ。今日はありがとうな。いつになるかは分からないけど、そう遠くないうちに動く予定だから、それまでに仲間の取りまとめを頼む」
「分かった」
「――――最後に一つだけ質問するけどさ」
俺はふと頭に思い浮かんだ疑問を、ストレートにぶつけてみることにした。
「お前、別に人間のことを憎んでいるわけじゃないよな?」
「……なぜ、そんな質問を?」
「昔、お前らの仲間に同じような質問をしたら、獣王が魔王軍側についた以上、人間と獣人が相容れることはないって言われちゃったからさ」
その質問をした相手とは、サルーキの副官だったオズのことだ。
「その時は、そいつの顔面をぶん殴ってやったんだけどさ。――――お前はどう思う?」
『会話の流れが、お手本のようなパワハラなんですけど』
呆れ声の山田を無視して、俺が返答を待っていると、
「……概ね、同じ考えだ」
七番の獣人は、俺の圧力には屈せず、真摯な回答を口にした。
「先に言ってしまえば、私は獣王様の決断が間違っていたとは思っていない。魔王軍に与したことで、今でもべスティアは独立を維持しているのだから。獣王様の判断が多くの同胞の命を救ったと考えている」
「まあ、そこは否定しないよ」
自分たちが生き残るための判断だったと言われれば、何も反論することはできない。
結果として、獣人国は生き残り、周辺の人類国家は魔王軍の完全な支配下に置かれているのだから。
「でも、その理屈なら、もしも、獣王が魔王軍と敵対するって言い出したら、お前らはそれに従うんだろ?」
「その時は……そうだな。そうなるだろう。獣王様を説得するつもりなのか?」
「まさか。そんなの絶対に無理だろ」
なにしろ、こっちは獣王のプライドをズタズタにした上に、メイスでタコ殴りにして片目を潰しているのだ。しかも、トレンタ大陸では獣王の悪い噂を散々言いふらして、あまつさえ首を差し出せと挑発までしている。
(今更、和解なんてできるはずがない)
『無理でしょうね』
それに、別に俺と獣王が手を取り合わなくても、獣人国と魔王軍の関係が悪化する可能性は十分にある。七番の獣人が「敵ではないだけ」と言っていたように、種族としての獣人と魔人の関係が良好であるとは思えないし、フィオレの話では、今、獣王は誰の話にも耳を傾けないほど荒れているからだ。
もし、獣王が魔王軍の要請すら無視するようなことがあれば――――
信頼関係で結ばれていない不戦の契約は、あっさりと白紙に戻るだろう。
敵の敵は味方などと言うつもりはないが、魔王軍と敵対してくれるなら同じこと。
獣人国が敵に回れば、戦力を投入する必要の無かった支配地域のど真ん中に、突如、獅子身中の虫が出現することになる。
世界中を敵に回している魔王軍の弱点は、ずばりそこだ。
できるだけ戦線を拡大させて、常に全戦力を投入させる。
余力がある状態では詰将棋にしかならない盤面も、余裕の無い状態なら引っ繰り返せる。
限界まで張りつめた糸がぷつりと音を立てて切れた時、一気に崩壊が始まるからだ。
「この先、何が起こるか分からないからな。その時、人間と獣人が必要以上にいがみ合っていなければ、それでいいんだ。皆が皆、俺と獣王みたいな関係になる必要は無い」
「だから、我々を解放するのか? いざという時に、この時のことを思い出すように」
「そうなってくれれば、儲けものだな。こっちとしては」
せいぜい恩に着てくれよ、と。
俺がニヤニヤと笑いかけると、七番の獣人は仏頂面をしてフンと鼻を鳴らした。
こんな感じで、俺のオターネスト訪問は終わった。
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