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王女奪還作戦 見落とし

毎日1000文字を目標に続きを書いています。

次回の更新は明後日です。

「そもそも、スエービルランス王国はどうして攻めてきたんだ? 今は人類同士で争っている場合じゃないだろ?」


「さてな。為政者の考えていることなど、本人に訊いてみなければ分かるまい。――――ただ、隣国同士にはよくあることだが、元々、両国の仲は良くなかったようだ。もしかすると、魔王軍との戦争において、この国が陣頭指揮を執っているのが気に入らなかったのかもしれん」


「そんな理由かよ」


「もしかすると、と言ったであろう。ワシだって、本当にそんな理由だったら頭にくる」


 ゲンジロウ爺さんは、やれやれとため息を吐いた。


「とにかく、早めに対策を取って、敵に勝ち逃げをさせなければいいんだろ?」


「そういうことだの」


 恐らく、スエービルランス王国軍は、反乱の首謀者であるシャードが倒れたという情報を聞き付ければ、すぐにでも撤退を開始するだろう。


 俺は時間が経てば経つほど、噂が広まってこちらに有利になると考えていたが、どうやら、のんびりしている時間が無いのはこっちの方らしい。


     *


「――――ん?」


 その時、あまり興味の無さそうな様子で俺たちの会話を完全に聞き流していたハウンドが、何かに気が付いたように声を上げた。


「おい。今さっき、下の階で変な音がしなかったか?」


「は?」


 まったく異変に気が付かなかった俺は、思わずゲンジロウ爺さんの方を見たが、ゲンジロウ爺さんも無言で首を横に振った。


「俺たちには何も聞こえなかったけど。気のせいじゃないか?」


「いや。微かに人の声みたいなものが聞こえたぞ」


「お前に微かに聞こえる程度なら、俺たちに聞こえるわけがないだろ」


 一般的な話として、獣人は普通の人間と比べて、身体能力と感覚器官が優れている。感覚器官とは、遠くのものを見る目の良さであり、小さな物音を聞き取るに耳の良さであり、異臭を感じ取る鼻の良さだ。


 この場にライカがいれば、ハウンドの言葉に首を縦に振っていたのかもしれないが――――


「今はライカがいないから、お前の言っていることが嘘か本当か判断できないな」


「嘘をつく理由がねーだろ! というか、俺の信用って、まだその程度なのかよ? さすがに嘘だろ!?」


 ハウンドがショックを隠しきれない様子で俺を見つめてきたが、勿論、嘘に決まっている。


(というか、下の階には人がいるからな)


 人の声がしたとしても、何も不思議ではない。


 ただ、それをわざわざ異変として俺たちに報告してきたということは、ハウンドが耳にしたのは、ただの声ではないのだろう。仮に大声だとするならば、悲鳴や怒声の類だろうか?


 俺がそんなことを考えていると、ゲンジロウ爺さんが思い出したように口を開いた。


「――――そういえば、こちらに逃げてきた者は捕らえたのか?」


「え?」


「おぬしたちが此処に来る少し前に、階段の近くまで逃げてきた者がおったぞ。すぐにワシの存在に気が付いて、慌てて引き返していったようだが……」


「あ」


 そこまで言われて、俺はようやくシャードを見捨てて逃げた側近の男のことを思い出した。


 俺の頭の中では「逃げていなくなった」ものとして処理されていたが、二階の通路は一本道で、しかも、突き当たりには上りの階段しかないのだから、窓から飛び降りでもしない限り、逃げられるはずがないのだ。


(隠れられるような場所……って、いくらでもあるか)


 恐らく、途中にある適当な客室に身を潜めて、俺たちをやり過ごしてから通路を引き返したのだろう。


 引き返した先には、俺たちの側に寝返った数人の兵士がいるはずだが――――


(……分かんねーな)


 こちら側に寝返った兵士が、戻ってきた元雇主を見てどのような行動を取るのか、まったく予測できない。


 意を決して戦えば、多勢に無勢なので負けることはないだろう。


 だが、臆病風に吹かれたり、躊躇したりしてしまえば、そこにつけ込まれる恐れがある。


「ハウンド、戻るぞ」


「おう」


「爺さんはロザリアの護衛を頼む」


「うむ。任されよう」


 なんだか嫌な予感がしたので、俺はハウンドを連れて足早に二階に戻ることにした。

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