おまけ、金の斧銀の斧パロ
くだらないパロを思いついたので書きました
小春日和の穏やかな日が続いているので、ルタは妻ティアを連れて、まだ紅葉の残る城近くの森へ散策に来た。
禁足地間近のこの場所には、美しい泉がある。
底まで見える澄んだ水、その中には種々の赤色の岩が煌めき、水面には遅咲きの蓮が浮かぶ。
「きゃっ」
泉の中の魚を眺めていたティアが足を滑らせた。
即座にルタが抱き寄せたが「嬉しいですけど屋外でキスは恥ずかしいです!」とティアに突き飛ばされた。
ルタは泉の中へバシャリと落ちてしまった。運動神経が良いので転んだりしなかったが、泉の中に仁王立ち状態。
「ティア、君が落ちるかと思って支えようとしただけだ」
ルタは怒るでもなく、呆れるでもなく、淡々と告げて、泉から出ようと歩き出した。
彼にとって、妻の勘違いや思い込みはもう日常茶飯事。
惚れたが負けと言うように、その欠点さえ愛おしく感じているので、ルタは怒るどころかクスリと微笑んだ。
「まあ、申し訳ございません! 今拭きま……」
ルタが泉から出ようとして、ティアがドレスのポケットからハンカチを出そうとした時、泉がパアアアアアと青白く輝いた。
ティアが眩しさで瞑ってしまった目を必死に開くと、光は徐々に消え、彼女の視界に真っ白い服を着る黄金の巻き髪の者が、眠るルタを抱いている姿が飛び込んできた。
ルタの全身は黄金の装飾品で飾られている。
「我はこの聖なる泉の化身である。そなたが落としたのはこの……」
「どうしましょう! ルタ様があまりに格好良く、優しく、素晴らしい星の王子様だから、泉の妖精さんが恋に落ちて、人になってしまったわ!」
勘違いや思い込みが激しいティアは、即座にそう判断した。
彼女は神話やお伽話をこよなく愛していて、色々な空想物を信じている。
それから、恋する彼女の目は盲目だ。
「そなたが落とした……」
「落としていません! それは一方的な誤認識で、要らないと落としてなんていません! ですから貴女様にルタ様を差し上げたなんて誤解は抱かないで下さいませ!」
腰に手を当てると、ティアはムッと唇を尖らせ、泉の精を睨みつけた。
「お聞きなさい。そなた、これらの黄金を落としたであろう?」
そう言うと、泉の精はルタが身に纏う黄金を手で揺らした。
シャラシャラと美しい音色が響き渡る。
ティアは目を丸めた。
「まあ、失礼致しました。私がそちらの黄金の所持者を主張すると思われたのですね。まったくもって見当違いです。そちらの黄金は……なぜルタ様が身に付けているのでしょう?」
ティアは首を傾げた。
「まさか。黄金でルタ様を拐かそうと。しかし、妙ですね。貴女様のような美しい方ならば、その身で誘惑出来ますのに、このような大量の貴金属を……。まあ、ルタ様は容姿やお金ではなく、真実の愛故に私を選びましたので、なんの効果もありませんよ」
もじもじ、照れ照れすると、ティアはルタの名を何度か呼んだ。
「ルタ様」
「ん……? えっ? おっ?」
黄金まみれで美女の腕に抱かれていると言う状況に、ルタは驚愕した。
「ルタ様があまりにも素晴らしいので、泉が人の姿になり求愛しております」
「はあ?」
心配そうに微笑む妻と、自分を横抱きにする謎の金髪美女を見比べて、ルタはパチパチと瞬きを繰り返した。
(ティアが2人いる?)
ティアと泉の精は少々似ていた。泉の精は発光し、すぐ近くにいるルタの目は少し眩んでいるので、そっくりだと感じさせた。
(なら夢か。現実なら、ティアは分裂しない)
ルタは眩しいのもあって、目を瞑ってしまった。
「まあ、なんて極悪非道な! 断られるのが恐ろしいからとルタ様を深い眠りにつかせるだなんて、そのまま拐おうだなんて!」
ティアは再び腰に手を当てて、泉の精を睨みつけた。
「けれども、張り裂けそうなお気持ちは理解できます。片想いとは酷く苦しく、切なく、悲しいですよね」
目にいっぱいの涙を溜めると、ティアは崩れ落ちた。
「私は数ヶ月かけてルタ様にこちらを向いてもらいました。貴女様にも同じようにする権利があります」
しくしく泣きながら、ティアは「誠実に努力すると約束して下さいませ。それならばルタ様を神の世界へ連れて行くことを許します」と可憐な笑みを浮かべた。
「ただ、指を咥えて我慢するつもりはありません。私も大陸中を回り、ルタ様を迎えに行く方法を探します」
両手を合わせて祈るように握りしめると、ティアは立ち上がった。
ポロポロ、ポロポロ、大粒の涙を流しながら。
「何の力もない人間に、神通力を持つという妖精に抗う術はありません。けれども、けれども、私は諦めません!」
「あの……姫よ……。私の話を聞きなさい。そなたの悪い癖ですよ」
ティアが話を聞かないどころか、ペラペラ、ペラペラ話し続けるので「もうこいつ面倒臭い。さすがあの男の娘だ」と泉の精は黄金とルタをティアの前に下ろして姿を消した。




