第24話 馬鹿は死ぬまで治らない、なら
「─ナフィリア」
パァッと白い光が小さな身体を包み込み、弾ける。
『結構久しぶりだね〜、この姿♪』
ふわふわした白髪に、金色の猫目。
足元まで覆い尽くすパーカー付きの白いコートを着た青年が、悪戯好きそうに三日月に歪んだ唇を隠した。
「─デュオルク」
ズゥッと黒い霧が小さな身体を覆い込み、弾ける。
『キリはあちらの方が好みだからな』
襟足長めの闇色の髪に、黒耀の瞳。
涼やかなクールフェイスで、足下まで覆い尽くす詰め襟の黒いコートを着た青年が、一つ頷いた。
「─シルクイーン」
ブワリと緑色の風が小さな身体を吹きつけて、弾ける。
『あいよっ』
パステルグリーンのサラサラな長髪に、エメラルドの瞳。
爽快感さえある清涼な笑顔で、まるで異世界の忍者のような黒緑色のスーツを着た青年が、楽しそうに舞った。
「─ルーニハルム」
コポンと青い水が小さな身体を纏い隠し、弾ける。
『ったく』
青い髪にちょっとつり上がった水色の瞳。
右が長袖左がノースリーブな水色と青紫カラーのチャイナ服に、同色の裾を絞ったズボンを履いた青年が、溜息をついた。
「─ヴィトグンデ」
ゴウッと紅い炎が小さな身体を覆い尽くし、弾ける。
『はっあ〜い!』
高い位置で一つに結った紅髪に、爛々と輝く赤い瞳。
桜が舞う赤の着物に、上から下にかけて濃くなっていく紫の袴。
派手な太陽を描いた扇子を持った青年が、愛らしくウィンクをした。
「─ノンランショ」
バンッと茶色の大地が小さな身体を囲み、弾ける。
『おっと、帽子がズレておる……うむ、良かろう』
右目が隠れるかたちで前髪だけ長い茶色の髪に、垂れた焦げ茶の左目には色気溢れる涙ほくろ。
ちょこんとチョコレート色の山高帽を乗せ、同色のスリーピースを着た青年が、襟を正した。
空気が変わる。
痛いほど冷え切った静謐な空間へと。
彼らが、そこに在るだけで。
「か、かっこいぃ~~! 精霊ってショタだけじゃなかったんだ!? ちょおイケメンじゃん!! 激やば~! 何でそんな冴えないモブになんかと契約してるわけぇ!? 勿体なぁい! モブなんかよりヒロインのあたしのほぉが良いでしょ?? あたしのほうが可愛いもん! あたしが貴方たちの主になってあげる!!」
『『『『『『 頭が高い 』』』』』』
皆が絶句する中、言葉を発したのはその美しい顔から感情を消し、ただ少女を見下す六体だった。
『我が名はナフィリア。光の王である』
『我が名はデュオルク。闇の王である』
『我が名はシルクイーン。風の王である』
『我が名はルーニハルム。水の王である』
『我が名はヴィトグンデ。火の王である』
『我が名はノンランショ。土の王である』
『不敬であるぞ。頭を垂れよ』
最上級の更に上。
彼らは、精霊王だ。
『もっ、申し訳ございません、光の王様!』
これに慌てたのが、少女と契約している光の上級精霊だ。即座に契約者の前へ出て謝罪を述べる。
『ん? 何への謝罪かな~?』
『私の契約者が精霊王様と精霊王様の契約者を侮辱したことにございます!』
六歳ほどの美少年が、二十歳ほどの美青年に土下座をしている光景に、キャロラインとウェルスは無言を貫いた。
『主! 主も謝罪を!』
「な、なんであたしが~!? 意味わかんないし~!」
『主っ!』
流石の迫力に怯んだものの、己の精霊の叱責にも耳を貸さず、少女は言い募る。
「だって、だって会長たちよりイケメンじゃん!? それなら攻略キャラに決まってるじゃぁん!! 精霊王とか訳わかんないけど、強いんでしょぉ? あたしの精霊より上なんでしょぉ? じゃあ、あたしと契約してないなんておかしくなぁい!? そうでしょ!? そのイケメンたちだってあたしのほうが良いに決まってるしぃ~!!! この世界は、ヒロインが中心なんだから!!」
ヒステリックに叫ぶ少女は、周囲がドン引きしていることに気付かない。
「これは大物」
「宇宙人てこの世界いんのかな」
「それは考えたことなかったね」
「一度大気圏まで行ってみっか?」
「よし、任せたよシルク!」
『なんや分からんけど任せとき!』
そも、王とは何か。
精霊は、自然に宿る魔力が形成した生命体である。
その存在は魔力で出来ており、自然を司ることで精霊は実体化している。
器を作れば、容量が決まるのも道理。
余程の修行を積まぬ限り、容量は増えない。
人間が呼ぶ精霊の階級はこれに当てはめられている。容量が多ければ、多く魔力を扱える。魔力が多ければ器の人型も成長した姿をとれる。
『しかし、精霊王様はその限りにおられません』
実体はある。触れるし食事も鬼ごっこも着せ替えも可能だ。
だが、容量という概念がないのだ。
「…??? なんで?」
『王とは、そういう存在であられるからです』
容量がないから使える魔力は無限。とれる姿は自由自在。
最強無比として君臨する精霊の頂点が、王だ。
『さて、おぬし先程何と申したかな?』
『不相応にも俺らと、契約しろっつったか?』
『やぁねぇ、おふざけにもならないわ』
『その上、王たる我らの契約者を地味だ、冴えないと?』
『あははは………良い度胸だよねぇ』
『よっぽどその命、いらんへんみたいやなぁ』
美貌の人外たちが、うっそりとわらう。
『我らが加護し』
『我らが守護し』
『我らが与し』
『我らが慈しみ』
『我らが恤み』
『我らが寵愛する』
『『『『『『 我ら精霊の王が認めた唯一に牙を剥くか、矮小なる人間よ。 』』』』』』
「ヒ…ッ」
少女は膝から崩れ落ちた。声高々に上からものを言っていた姿から打って変わり、何と無様なこと。
『我が眷属よ』
『はっ』
『その人間、相応しくないね』
『っ』
ナフィリアの言葉に、レビュライトはビクリと身体を震わせた。
『気付いておるじゃろう? その娘の本性』
『やぁね、醜いわぁ』
薄々、薄々は気付いていた。
彼女の優しい瞳の奥に、淀んだ闇があることを。
信じたくなくて、気付かないフリをしていた。
『我が主』
けれど。
『弱い精霊や、悪い人間に騙され酷使される精霊は、どう身を守っていると思いますか?』
容量の少ない精霊…すなわち下級精霊は、強い人間なら御せるほど弱い。
上級や最上級の精霊だろうと善人のフリをした悪人に騙され契約をし、戦争などの使い捨て道具として使われることだってあった。
「は? 何それ、今かんけーなくない?」
『我ら精霊を使い捨てとした人間は、等しく凄惨な死を遂げます。そして、我ら精霊は救われる』
「だーかーらー、何イミフなこと言ってるのぉ~?」
気付かないフリはやめよう。
己は、精霊だ。
『全ての精霊は、王の下にあるのです』
王が、絶対だ。
『話は終わった~?』
頭を垂れて道を譲る。
さようなら、主と仰いだ人間よ。
『その繋がり、切るよ』
光の王は人間の少女に向かって、手を薙いだ。
ぷつん、と糸が切れたような小さすぎて音とも呼べない音。
それは目に見えない。
けれど確かに、感覚が伝える。
「………ぇ……」
少女が開いた目で、光の精霊を見た。
「れび…?」
『…………』
「れび、ねぇっ、&%”#$*¥!!! っ!?」
口から言語にならない音が飛び出て、混乱は加速する。
「え、なに、なにこれ、れ、&%”#$*¥?!」
「精霊の真名は、契約者にしか呼べないんだよ。授業で習ったでしょ?」
栗毛のモブが言う。
「は…、何言ってんの、れびは…、あたしの精霊よ? あたしと契約してるの、あたしのものよ!!!」
ヒロインの、あたしの、あたしだけの精霊だ。
モブの言葉じゃ、まるで。
もう、あたしが契約者ではないと言っているみたいじゃないか。
「呆れた、精霊は所有物じゃないし、もう彼は貴方の精霊じゃない」
ちがう、あれは、あたしのだ。あれは、あれだけは絶対に裏切らないあたしだけの―――
『碌でもない人間から眷属を守るのも、ボクらのお役目だからね』
始まりの精霊たる精霊王には、いくつかの役目がある。
その一つが、眷属の庇護。
そのための、強制契約破棄。
眷属を守るために、たとえ眷属が契約者を慕っていようとも、王が相応しくないと判断すればその契約を断ち切れる。
慕う契約者から強制的に引き離され、精霊は不満に思わないのか。
無い。皆無だ。
王の為すことに、間違いはない。
王がそう判断したのなら、付き従う。
王こそが、精霊の絶対だ。
精霊が王の庇護下から脱することは、無い。
「おいおい、壊れるにはまだ早いぜ?」
茫然自失となった少女の頬を、ウェルスは容赦なくぶっ叩く。
「ついでに他も起きやがれ。仮にも惚れた女置いて気絶してんじゃねーよ、情けねーな」
そう言って倒れていた生徒会の男どもの頭を的確に蹴り抜いて叩き起こす。
「ひぇー痛そ~」
「ウェルのやつ、なんかおこじゃね?」
「相変わらず身分制度を鼻紙以下にしか思ってないなアイツ」
「少なくとも子爵家令息の行いではねぇな」
「それを言えば、王太子殿下たちも身分に相応しくない言動ですけど」
「だからウェル坊に蹴られてんだろ」
「「「成程」」」
ボロボロなリングの端で結界を張りながら避難している騎士たちとギルド員たちがコソコソと囁きあっているのを他所に、昔からの付き合いである婚約者の様子を不思議に思ったキャロラインは首を傾げた。
「ウェル?」
「…生憎と、婚約者を馬鹿にされて冷静でいられるほど大人じゃないんでな」
キャロラインが心臓を押さえながら呻いた。重傷だ。
「……ぅ…」
「ぃった…」
「……お、れは…」
米神を抑えながら痛む身体を起こす男どもは、記憶が混濁しているようだった。しかし青ざめた顔で頬を腫らして泣いている少女を目にして、血相を変える。
「ど、どうしたんだ!?」
「誰にやられたの!?」
「一体…」
「よーぅ、お目覚めはどうだ? 馬鹿ども」
そして思い出した。
己たちがどういった状況だったか。
「お馬鹿さんたちも起きたことだし、次は何しよっか」
「業火で皮膚を炙ってやればいいんじゃねーか?」
「猟奇的過ぎる提案にビックリだよ」
「ダメか…、じゃあ水攻め」
「水死体って臭いらしいよ? やだなぁ」
「あー臭いのはダメだな」
「そこなのか???」
「諦めろ」
「いやだって、会話物騒過ぎるだろう!?」
「今更が過ぎるぞ騎士様」
「そうそう、キャリーちんたちは大体あんなんじゃん」
「ツッコんだほうが負けなのん!」
「年齢一桁ン時からあんなだからナァ」
キャロラインとウェルスが顔を付き合わせて、ああでもないこうでもないと話していると、その様子を微笑ましそうに見ていたノンランショが動いた。
『そうじゃ、キリよ。魔力が切れておるだろう、そぅら』
「あ、ノンちゃんありがとー」
王太子たちは信じられないものを見た。
魔力量というものは、優れた者なら対象を見ただけで大体どれほど有しているのか分かる。
今、キャロラインという女は生命維持活動以外の余力はなかった。つまり、魔力切れだ。ちなみに魔力枯渇は生命維持活動用の魔力も使ってしまい、ガチで死にかけの状態のことを言う。
なのに。
魔力切れだった筈の女は、土属性の人外に頭を撫でられたあと、魔力が回復した。
「なん……」
「光属性でもないのに…」
「ばかな…」
「学習しねーな、あんたら。さっき、レビくんが言ってただろーが」
精霊王は魔力に限界が無い。際限が無い。
そして純粋な魔力を持つからこそ、波長を自由に操れる。
ならば有り余る魔力を他に譲渡することなど、容易いこと。
「チートに常識求めんなよ、常識だろ?」
精霊たちは話す。
『キリは魔力が少ないよなぁ。あれで平均寄りなんだろ?』
『人の子ってほんと儚いわよねぇ』
精霊を召喚するには、喚びつける代償に魔力が必要だ。
『最初の召喚の時は、眷属より儂らのほうが相性が良かったから引きずられたがの』
『本来我ら誰か一つを喚ぶだけでも多大な魔力が必要だ。…キリには少し負担が大きいな』
それと同時に、名が必要だ。精霊の名が。
『だから、呼びかけてくれさえすりゃあいい』
『そうすれば、ボクらは応じよう』
破格の対応だと、全員が理解した。
だってそれはつまり、代償なしで彼ら精霊の王が力を貸してくれるということだ。
無償の愛を以て、キャロライン・ティモールの味方とする存在。
それが現在の精霊王たちである。
魔法の無詠唱。
他人の魔力を乗っ取る。
人を自由に出来る精神魔法を操る。
六属性全ての精霊王と契約を結び、平均より少ない魔力は王がいれば即回復・実質無限。
なんだそれは。
「このっ、バケモノがぁあああああああああ!!」
俺様は叫んだ。
有り得ない尽くしの、人間の領分を遙かに超えたモノ。
そんなもの、おぞましいバケモノでなければ何という!!!
「その通り! よく分かってんじゃん、バカ王太子。キャリーはバケモノみたいに反則的で卑怯なまでに、強いだろ?」
婚約者の言葉にキャロラインは苦笑するだけ。
目立ちたくないし面倒事も嫌い。ただ、特別何とも思っていないことが悉く驚愕されてしまう。
口で否定するのも知らぬふりをするのも、お遊びだ。
成熟した精神を持つ彼女は、きちんと理解している。自重する気がさらさらないだけで。
「得意魔法もえっぐいし、精霊王と契約してるなんてやべーよなー」
うんうんと頷くウェルスに、王太子は同意者を得たとニヤリと口元を歪ませる。
「断言してもいいぜ、キャリーは世界で一番強い。……けどよ」
彼を誰だと思っているのか。
「だからって女に、ましてや惚れた女に守られるだけとか男として、ねぇだろ?」
出逢ってから14年間ずっと、非常識の隣に居続けた、非常識である。
「俺はキャリーの隣に居たい。対等でありたい。いざという時に守られるんじゃなく、俺がキャリーを守りたい。その為に俺は強くなったし、まだまだ強くなる」
ニヒルに笑う彼は自覚している。
「ようやく師匠から10本中10本取れるようになったことだしな」
常識からはみ出ている? それがなんだというのか。
好いた女に庇われる未来のほうが、絶対に御免だ。
「ウェル…、そんなことを……」
キャロラインは両手で口を覆い、興奮したように叫んだ。
「惚れ直したッッ!!! カッコイイ! 素敵!! 流石私の婚約者!!!」
「ハッ、当然だろ」
「…ウェルは本当に羞恥心というものをどこに捨ててきたの?」
「持ち込み禁止だったんじゃね?」
「そんな馬鹿な」
片や婚約者とじゃれて楽しそうな二人、片やボロボロ満身創痍で心もバッキバキな四人と、遠巻きに怯えている冒険者たち。
勝敗は、なんて愚問だろう。そもそもが勝負にすらならない相手だったのだ。
「ところでこんな言葉を御存知ですか」
唐突にキャロラインが王太子たちへそう投げかけた。
「昔の人は言いました。馬鹿は死ななきゃ治らない、と」
彼女は悩ましい表情を作り、目を伏せる。
「なら」
パッと顔を上げる。清々しいほど晴れやかな笑顔で手を掲げ、言った。
「死ねばいいじゃない♪ 【れっつ地獄巡り】!」
バタバタバタンッ
辛うじて立っていた王太子たちは糸が切れたように崩れ落ちた。王太子は瓦礫に頭からツッコんで無事じゃなさそうだ。
「うわ〜、よりによってあの魔法かよ、えげつないな!」
「そんな凄く良い笑顔で言われても」
「おっと素直な表情筋が」
「おーい、キャロライン~」
「はい?」
観客席から声がかかる。王は柵から身を乗り出しながら面白そうに問い質した。
「俺はその魔法初めて見るんだが、どんな魔法なんだ?」
「ああ、ぶっちゃけ言うとただの悪夢ですよ」
「悪夢?」
悪いとはいえ、ただの夢。なら大したことはないのかと、会話が聞こえていたブロッサムはそう思ったが、王は安心と安定と信頼の小さな友人に期待の目を向けた。
この小さな友人のことだ。絶対愉快に決まっている。
「様々な方法で死に続けるだけの悪夢です」
随分物騒な答えが返ってきた。
「それも全部シチュエーションが違う悪夢な」
「また私の知らぬ魔法を使いおって、あとで必ず追求するからな。それはともかく、シチュエーションが違うとは?」
「例えば魔物に喰われて死ぬパターンでも、まず自分が喰われてぐっちゃぐちゃに咀嚼される苦痛と恐怖を味わって死んで、ブラックアウトしたらまた次のシーン。今度は魔法で魔物を撃退しようとするが全て無効化されて魔力枯渇を起こして最後喰われて死ぬ。そして繰り返し。潜在的意識内で大切だって思っている人間が目の前で食べられた後に自分も喰われたり、っていう感じで結果は同じでも過程が変わるんです」
「嫌だな」
「一通り死んだら、また違うシチュで死にます」
「クーデターで死んだり、冤罪で人々に非難囂々雨嵐の末投獄されて処刑とか…色々考えました」
富裕層で生きてきた彼らには縁のない餓死や、溺死、焼死、毒死、出血死、病死、圧死、他にも追い込みまくって自殺に持って行ったり、多種多様な死に様をご用意しております!
「強制的に見せている夢ですけど、感覚はリアルに体験出来るよう創ってあります。自分の無力さに絶望して死んでいけ、という思いで頑張りました」
「なんつー魔法創ってんだお前は」
「これは思いつきで創りました」
「思いつくなよ」
「ちなみに陛下、これ創ったのは俺らが8歳の時だぜ!」
「嫌だな!!!!」
絶望をテーマに創った、8歳児の力作である。
「ただ…」
「ただ?」
「何十回も死ぬと、大体の人間が廃人になるんですよねぇ」
「…ほほう。警邏に使えそうな魔法じゃな」
「キャリー試したの? 記録ある?」
「興味津々か、わっくわくかそこの爺孫」
「創ったら試し打ちしたいってのが人情だろ? ちょいとばかしヤバめの犯罪者集団捕まえて、な!」
「………そういえば、8年程前に辺境伯から大規模海賊団が虚ろになった状態で浜辺に打ち上げられていて捕縛したという、経緯が迷宮入りした事件があったのぉ」
「船長以外は廃人で、その船長は謝罪しか言わなくなってたやつか。あったなぁ………」
王は穏やかな顔で目を閉じ。
「お ま え ら か !!!!!!!」
叫んだ。
「時効ですよ時効!」
「そうそう!」
「んなわけあるか! 8歳ってことは報告わざとしなかったな?! あとで城来い!!!」
「「おことわる!!!」」
「王命くらい聞きやがれ!!!」
「あんたたちいい加減におし!」
一喝。ギルドマスターの声に、騒いでいた3人とリングにいた冒険者たちが条件反射でビクッと跳ね上がった。
「この子たちの非常識は今に始まったことじゃぁないだろう。それより、あの子が可哀想だろ。さっさと締めてしまいな」
ギルドマスターが示したリングの片隅には、草枯れた審判がいた。
「「「「「「 あっ 」」」」」」
はちゃめちゃに破壊し尽くされたリング、白目を剥き泡を吹いて倒れ伏している王太子たち、団子状態になって距離を取っている歴戦の猛者たる冒険者と騎士と魔法師たち。
そんな惨状にいてケロッとしている青年姿の六体の精霊と、騎士園の男子生徒と、そして自分の教え子。
「…………デュランダル・ラリアンシル、魔法による昏倒及び戦意喪失という戦闘不能状態。つーことで」
やるせなく手を掲げて宣言する。それが仕事なので。
「勝者、キャロライン・ティモール!!!」
休暇貰おう。
アイスカはそう決意した。
次回、最終話。




