風を斬る少年と、果実酒の味
神州大陸の西の果て——『黄砂の遺構』。
ここは昼と夜で世界の理が変容する、死と神秘の砂漠だ。
日中は灼熱の陽光がどこまでも続く砂丘を焼き尽くし、乾いた大気を揺らめかせる。その陽炎の向こう側、雲ひとつない青空の遥か上空には、古の魔道文明が遺した巨大な建造物の破片——浮遊遺跡が、重力を無視して静かに影を落としていた。
その最果てのオアシス都市『碧水街』の端にある一軒の質素な借家で、一人の少年がドタバタと荷造りをしていた。
「よしっ! 荷物はこれで完璧! 鉄剣良し、着替え良し、そして旅の友たる風雅な瓢箪も良し!」
名は、李白。齢、十五。
細身ながらもしなやかな筋肉を宿した体躯に、少し大きめの薄青い着流しを纏っている。背中には使い古された一振りの鉄剣を背負い、鏡の前で前髪をスッと指で押し上げながら、ニッと不敵に口角を上げた。
「ふっ……待っていろよ長安。この李白様の詩と剣で、都の連中を驚嘆させてやるからな……!」
「——何を朝から鏡の前で一人でニヤニヤしてるのよ、このバカ息子は」
パシッ!
「あでっ!?」
後頭部に容赦なく叩き込まれたのは、使い古された竹のハタキだった。
「痛いよママ! 今まさに伝説の第一章が始まるっていう大事な決意の瞬間だったのに!」
涙目で後頭部を押さえながら振り返った李白の前に立っていたのは、腕組みをして呆れ顔で立つ一人の女性——母の李漣花だった。
「何が『伝説の第一章』よ。十五にもなって、いまだに毎朝寝相が悪くて布団蹴飛ばしてるガキのくせに」
「それはそれ! これからは関係ないの! 俺は長安にに行くんだなら!」
「はいはい、大きなこと言う前にお弁当。ちゃんと中に干し肉と、お前が大好きな甘く煮付けた豆も入れておいたからね」
漣花は素っ気ない仕草で、竹の皮に包まれた重たい荷物を李白の手に押し付けた。
「……ありがと、ママ」
「……怪我はしないで。お酒もダメだからね。まだ十五なんだから、瓢箪の中身は私が仕込んだ甘い果実酒だけにしておきなさい。本物の酒を飲むのは、ちゃんと都で一人前になってからにしなさいよ」
「分かってますって! 雰囲気だよ雰囲気!」
李白は腰の瓢箪をパンパンと叩いて見せた。
「じゃあ……行ってくるね、ママ!」
「……フン、気をつけて行きなさい」
漣花は素っ気なく背中を向けて掃除を再開した。李白は家の戸を勢いよく開けて飛び出した。
◆
街の外れ、高く聳え立つ砂丘の頂。
風が吹き抜けるその一番高い場所へ駆け上がると、見下ろす麓には幼馴染や稽古相手だった街の若者たちが大勢集まっていた。
「おい! 李白! 本当に行っちゃうのかい!?」
「長安なんてここから何千里あると思ってんだ! 十五のガキが一人で行ってどうにかなる距離じゃないぞ!」
砂丘の下からの必死な説得。だが、李白は振り返りもせず、背中越しにひらひらと手を振ってみせた。
「心配すんなって、みんな! この黄砂の空は、俺という存在を収めるにはあまりに狭すぎるんだよ!」
李白は腰に下げた瓢箪の栓をチッとならして弾き開け、一口だけ果実酒を喉に流し込んだ。
「……くぅーッ! 命が五臓六腑に染み渡るぜ……!」
「ちょっと待ちなさい、李白ーっ!」
その時、息を切らしてこちらへ走ってくる人影が見えた。
家で素っ気なく見送ったはずの母・漣花が、着物の裾を少し持ち上げて砂丘の麓まで走って追いかけてきたのだ。
李白が驚いて振り向くと、漣花は膝に手をついて息を整えながら、叫ぶように声を張り上げた。
「手紙……! 時々は手紙寄越しなさいよーっ!」
砂丘の上で、李白は一瞬呆気にとられたように目を丸くした。
それからすぐに照れくさそうに鼻の下を指で掻くと、ニッといつもの生意気な笑みを浮かべて大きく手を振り返した。
「分かってるってばー! 達筆な詩と一緒に送るからさー!」
李白は背中の鉄剣の柄へと手を伸ばす。
チィン!
すり減った鉄剣を数インチ抜き放つと、青白く澄み切った『霊気』が爆風となって吹き荒れた。
「行ってきます!」
少年が足裏の霊脈に霊気を送り込んだ瞬間、その身体がふっと残像を残して砂丘から消失した。
ドオンッ!
砂煙が爆発し、一本の青い雷撃となって東へと駆け抜けていく。
駆けつけた漣花と幼馴染たちが見上げる青空の向こうへ、青い光は一直線に消えていった。
こんにちはー、チョニーです
まずはこの作品を見てくれてありがとうございます
色々言う前に、僕はこれで将来ご飯食べたいです笑笑
ていうこの一連の作業ぼくこれ4回目です、やり方分からなくて何回このサイトに全部消されたことか笑笑
僕のせいですね
この作品は衝動で書きたくなりました
長安までは書きますが、みんなが好きなら最後まで書きます
ビジョンは頭に叩き込んでます
ではまた2話でー




