表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/67

盾の権能 その5

 綿でできた、白い壁。

 俺は壁に沿って、ひたすら這って進んだ。


 ……綿の権能を持つ少女を、振り返ることもなく。


 「珍能像の、裏の扉を開けて。」

 その意味深な言葉を反芻(はんすう)して進むうちに、壁越しに伝わる熱狂は最高潮になっていた。

 

 これほど長く、白い壁。

 本当に、誰も気付いていないのか?


 やがて、俺は綿の壁の端まで来た。

 正面に捉えた珍能像までは、あと10メートル程だ。


 扉なんか見当たらない。意味のないことを言うようにも思えないが……まあいい。

 

 再び演説の声が響く。

 

「さあ、兄弟姉妹たち。

 悪魔に懺悔の時を与えましょう。」


 ニュースでも度々見るが、これがカルト宗教ってヤツか。

 

 ……娘は無事なのか!?

 

 (はや)る気持ち。

 ようやく壁の端、珍能像の傍まで辿り着いた。


 身を乗り出して、集会の様子を伺う。

 目にしたのは、ドーナツのように穴の開いた人だかりだ。


 そして、スポットライトに当てられた穴で立ち(すく)む……萌々奈(ももな)

 

 熱狂する群衆には、例の銃を持った人も、ちらほら見えた。


 ……その時だ。


 群衆の中心にいた1人の女が、前方の萌々奈に、例の銃を向けた。

 萌々奈の表情は、光が反射してよく見えない。

 

 それからの、1秒にも経たない一瞬。

 周りの群衆は、水を打ったように静まり返った。


 この沈黙が、どれほど(おぞ)ましかったか。


 銃を持つ者は全て……俺の娘に、銃口を向けていた。

 


 俺はもう、隠れるのをやめていた。

 目に、頭に。

 ……血管が、音を立ててブチ切れそうだ!


 演説の男は、声を張り上げる。

 

 「神から授かったその銃で!(はら)うのです!」


 張り詰める無音が、凄みが、体の痺れとして伝わる。


 俺は……父親として、何ができる?

 動け!


 俺はすぐ傍の()()()()()()()、立ち上がった。


 その時、奇妙な声が聴こえた。

 「誰だ、お前は……?」

 

 その声は静かに、それでいてはっきりとそう言った。


 周りには、聞こえていないのか?

 だが、声のことなど、どうでもよかった。

 

 俺は、あの子の父親だ!


 「貴様ら!!うちの娘に!なんてものを向けてるんだっ!!!!」


 腹の底から声を出した。

 狂おしい沈黙の中に、俺自身の声が響く。


 光に捕らわれたあの子と、ようやく、目が合う。

 ……そんな気がした。


 本当に、心細かっただろう。

 約束の10分より少し早い。

 だが、遅くなってすまなかった。


 再び、奇妙な声が響く。


 「願いは……」


 ……願い? 

 決まってるだろ!


 そして、スポットライトは、次に俺を捉えた。


 そうだ、撃つなら俺にしろ。

 娘に、これ以上手は出させない!


 珍能像と萌々奈との間に立っていたその男は、拡声器を口元から離していた。

 こちらを向いて、()()()()()()()をしている。


 男はすぐに、誰かと話しているような素振りを見せた。

 電話……? とは違うようだな。


 そして男の傍らには……あの少女がいた。


 一体いつの間に?

 まさか群衆の中を突っ切ってこれたのか!?


 いや違う。今対処するべきは、拡声器の男だ。

 俺はソレに()()()()()()、薄暗闇のその男を睨みつけていた。


 そうして静寂に響いたのは、萌々奈の声だった。


 「パパ!!何やってるの!?()()から手を離して!」


 ()()……?

 ああ、()()()のことか。

 そういえば、萌々奈はコレに触れて権能を手に入れたんだっけ。



 ……正直、俺は信じていなかった。

 萌々奈からではなく、奈緒美(なおみ)からの又聞きだったから、というのもあるだろうが。


 望めば手に入る超能力?

 娘は騙されているんじゃないか、最初は思っていた。


 だが萌々奈は、実際にIH調理器としての役割を果たしてきたし、

 俺も街があの綿に覆われるのを見ていた。

 今更、疑う余地もない。


 ならば。

 娘を救う為の力を、 権能を!

 この神とやらを、信じる以外にない!



「本物だというなら!!俺の願いを!叶えよ!!()()()よ!!」


 珍能像に触れたまま、俺は叫んでいた。


 まだ続いている深い沈黙の中で、視線が突き刺さり、身動きが取れない。

 萌々奈には、無数の銃口が向けられたままだ。


 やらかした……のか?


 人々の中からブーイングが起こり、すぐに拡がっていった。


 その時、演説の男は俺を見据えたまま、拡声器で傍らの少女を小突く。

 少女は拡声器を受け取ると、ポケットから小さい紙を取り出して読み上げた。


 「えーと、ご神木の、恵みは。

 選ばれしものに、えーと、さいされる。

 だから、その、触っちゃダメ。」


 棒読みの演説をよそに、俺は珍能像に触れた手に、意識を集中していた。

 

 ……気の所為じゃない。

 何かが、(みなぎ)る!!


 萌々奈は俺に何か言っていた。群衆のどよめきに掻き消されてしまったが。

 きっと、俺を心配してくれているのだろう。


 パパなら大丈夫だ。いま直ぐ助けに行くからな。


 ……()()()で!

 

 両目を閉じると、ブーイングの大波が押し寄せる。

 そんな中に1つ、禍々しい声が静かに、それでいて力強く響いた。


 「邪神が道を阻む者よ。

 よいだろう。」


 「……珍能像。俺に、権能をくれるのか?」


 「()()()

 されど、宿命(さだめ)

 

 『像』の権能とは、重力の如き力。

 神はかつて、地を這う鳥に翼を、空を与えた。


 ……かくあるべきとは、思わぬか。」


 静かな一声で、目を開けた。


 「像」の権能者が少女から拡声器をぶん取って言った。


 「()()()()のお父様。

 一旦、ご神体から手を離しましょうか。」


 手を離す。

 その()()には、奇妙な紋章があった。


 巣に止まる鳥。広げた翼は、巣を守る傘。


 俺はその紋章を見て、与えられた力が「盾」であることを理解した。 


 「護れ」。

 ……そういうことか。


 俺は声を張り上げる。

 「娘を連れ帰りに来た!あと友達もだ!」

 群衆のブーイングが大きくなる。


 男は群衆をなだめて言う。


 「皆様、神の御前ですよ。お静かに。


 しかし日下さん。

 『連れ帰る』。

 ……そうは言っても、娘さんは悪魔に憑りつかれている。


 だから、神の救いを求めてここに来たのですよ。

 良いことではないですか。」


 虫唾(むしず)が走る。

 何が、「神の救い」だ。


 「この像の力は信じる。

 だが、これが『救い』?

 馬鹿げてる!!」

 

 「いえ。馬鹿げてなどおりません。

 神の意思というのは、人には()(はか)れません。」


 こいつは嘘をついている。

 拡声器越しにも、そんな気がした。


 「……だから、あなたにそう見える、それだけです。」

 男は苛立っているようだ。


 「ふざけんな!誰が見てもこの街はマトモじゃない……」

 俺がそう吐き捨てると、被せ気味に男が言う。


 「子を持つ父親なら、わかるでしょう!

 せめて現実から目を塞いでやるのも、立派な救いであると!」


 ……嘘じゃない。

 だからこそ、こいつとは分かり合えないと思った。


 「だからって、こんな現実を?」


 「夢ですよ!……救われれば、ね。」


 「俺は!ウチの娘は!そんな救いは要らない!」


 「……そうですか。」

 俺に背中を向け、男は手を挙げて言い放った。

 

 「娘さんだけでも、救って差しあげましょう!」


 再び高まる、静かな熱気。

 無数の銃口が、萌々奈を再び捉える!


 ……まずい!

 充満する悦の権能が、肌に纏わりつく。


 俺の権能は、盾。

 だがどうやって使う?どうあの子を守る?


 その時だった。俺の周囲には、3つの大きな盾が浮かび上がる。


 考えるより先に、群衆に飛び込んだ。

 だが、あの男が立ちはだかる。


 「……お父様は、救いの証人になるのです。」


 この男が放つ重圧。

 中央が、あまりにも遠く感じた。


 「萌々奈ーーーッ!!」

 ……頼む!守ってくれ!


 いつの間にか、盾は俺の周囲を離れていた。


 そして。



 「……祓いなさい!!」

 声が響く。



 無数のバチバチ弾ける音が、辺り一帯から鳴り始めた。

 

 中心を取り囲むのは、狂気の群衆と、玩具の銃口。


 一瞬。

 圧倒的な集中砲火を、見ていることしかできなかった。



 再び、男は拡声器を持つ。

 「さあ、娘さんもこれで安心です。

 お父様にも、理解してもらえればよいのですが……」

 

 足元には、無数のBB弾。

 再び中央に向かって進み出る。

 「萌々奈!……うわっ!」

 俺は進んだが、足に綿が絡みついて転んでしまった。


 「私も、いるんだけど。」

 綿の権能者。助けたり転ばせたり、何を考えているのかわからない奴だ。


 「エーデルワイス。

 『熱』といえど、もはや()()()()

 お前の出る幕など……」

 声を掛けたのは像の権能者だった。


 「建炫(ジャンシュアン)さん。まだ、みたいだよ。」


 「まだ、というと?」


 前方には、(うずくま)る萌々奈の姿があった。

 周囲には無数の弾が堕ちているが……


 萌々奈の周りには、1粒たりとも弾は落ちていなかった。


 「パパ……!」

 その目からは、涙。

 

 萌々奈の周りには、俺を取り囲んでいたあの盾が半球のように浮かんでいた。


 そうか、俺は……守ったのか?

 

 綿の少女が眉を顰める。

 「なんか、熱い……?」


 像の男が目を細める。

 「夜とはいえ真夏だ、当たり前だろ。」

 「じゃなくて。ほら。」


 少しの間をおいて、男は表情を強張らせた。

 「ただの暑さじゃない。

 日下 萌々奈。

 俺は権能を無効化した。

 それなのに。

 ……使()()()のか。」


 そして、その男と目が合った。

あらすじ :

狂気の珍能像集会に、隠れつつ接近した日下 勇次。

怒り、愛情、希望に身を任せ、勇次は珍能像に権能を望む。

その願いをよそに、萌々奈を(サイケシューター)の弾幕が襲う。

娘を守った、盾の権能。勇次は父として、新たな権能者として、像の権能者、呉建炫と対峙する。


補足 :

呉建炫が唖然とした表情で、誰かと話しているシーンは、「悦の権能編」のことです。

「その男に権能を授けるように、邪視はそう言った」と、三春 風花が嘘の伝言を彼に伝える場面でした。

……更新空きすぎて覚えてないですよね、すみません。


Tips :

空気に「悦」の権能が充満しているヤバい状況なのですが、なんとか頑張って正気を保っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ