表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
7/48

7.世界はVR、脳はリアル

「うそ?」

タクトは愕然としていた。


「あの、ホントごめんなさい。

騙すつもりじゃなかったの。」


カフェで待ち合わせた元カノが、タクトの向かいの席に座り、両手を顔の前に合わせて頭を下げた。

ごめんなさいのポーズだ。


「あ、あのね。

実は、相談してた人がいて。

その人が、私にアドバイスしてくれて。

彼の本気度を確かめたかったら、そう言ってみるといいって。

だから。」


「だから、そのアドバイス通りに、子どもがいるって言ったってこと?」


「うん。

大抵の奴はそれで引くから、引かなければ本物だって!」

ごめんなさいのポーズの手を胸の前で握りこぶしに変えて彼女は叫んだ。


いつもはそれほど込んでいないカフェだが、こんな日に限って人が多く、ちらちらとこちらの様子を伺っているのがわかった。

そう言えば、誰か言ってたな。

「他人の恋愛話に敏感な人は多いって。」


事の発端は、昨日の夜、元カノからスマホに届いたメッセージだ。


昨夜、レアリアとクラウドのイベントを見たあと、1週間ほどゲームの中で過ごした。

ゲーム進行中は夜ベッドで横になると、すぐに夜が明ける。

ゲーム内では、イベントが発生する場合だけ夜中に強制的に起こされるが、それ以外は就寝後から目覚めまでの就寝時間は一瞬で終わる。


陛下の容態が悪化する一方で、通常業務や婚姻の支度で忙しなく活動するが、そのすき間を縫って、「視点変更」し、イベントが発生していないかを確認した。

ゲーム開始前に設定したアラームが鳴ったところで、セーブポイントを作らずログアウトを実行した。


「ログアウト」

<セーブポイント3を作成しました。>


自動的にセーブポイントが作られることが確認できた。


その後、感覚が戻り、スマホを確認するとメッセージが届いていた。

その中の1件が元カノからのものだった。


(話がしたいから、会えないかな?)


時間は夜中の1時だが、メッセージはその2時間前に届いていたようだ。

そのメッセージのすぐ上に1カ月前にタクトから返信したメッセージが表示されている。

元カノからお別れのメッセージが送られたあとの返信だった。


(わかった)


平仮名4文字の返信、タクト自身でも思ったが、かなり素っ気ないメッセージだ。


「えっ?会うのか?

と言っても今月忙しいしな。」

別れて1カ月、博情かもしれないが、特に何かの感情が動くことはなかった。

だが、今頃連絡してきているので、何かあるのかもしれないし、無下に断れない。

スマホにメッセージを打ち込んで送信した。


ピコン

(俺の会社の近くで、少しくらいなら)


ピコン

すぐに既読が付きメッセージが返ってきた。

(ありがとー!明日のお昼頃、どう?時間は何時でもいいよ。)


会社の近くのカフェの名前と時間を入力して、送信した。


そして現在、昼休み時間を利用して会ったのだが、彼女に嘘をついていたことを打ち明けられたわけだ。


座ったテーブルの上には、それぞれがオーダーして持ってきたコーヒーが置かれている。

それに手もつけずに彼女は、申し訳なさげに話し続けた。


「あんな、私に子どもがいる話なんて、本気にするとは思わなかったの。

だから、考えさせてほしいからしばらく会わないでおこうって言われてショックで。

そしたら、そのアドバイスをくれた彼が、別れるメッセージ送ったら? って言うもんだから。」


彼女は、拳にした両手を開いてテーブルの上に乗せ、目を伏せている。

タクトは、彼女はこんな人だったかなと、冷静に考えていた。

半年付き合っていたが、もう少し、自分の考えを持ったしっかりした人だと感じていたからだ。

だから、子どもがいると聞いたときも、すぐに信じてしまった。


「えっと、それで、そのアドバイスをくれた彼?

に、言われるままにメッセージを送った?

ということでいいのかな?」


「うん。

本当に別れることに納得すると思わなくて。

タクト、いつも冷静で優しいから、何か訳があるのかって聞いてくれると思ったのに。」


上目使いで恨みがましそうに、そんなことをいう彼女に対して何を言っていいのか分からなかった。

それよりも、ガラス越しに歩道に面している場所に席を取ったことにまずさを感じ始めていた。


「うん。

ごめん。

今の話を聞いて俺も混乱しているから、とりあえず、考えさせて?

今、ちょうど忙しい時期で、仕事に戻らないといけなくて。

昼休憩終るし。」

そう言って、まだ飲んでいないチルドカップに入ったコーヒーを持って席を立つと、彼女もいっしょに席を立った。


「そこまで一緒に行っていいでしょ?」

にっこりと笑って当然のようについてくる。


「うーん?」

カフェを出ると、歩道を前から歩いてきているシキと目が合った。

その距離はまだ10mはありそうだが、目がったと同時にシキがピタッと足を止めていた。

タクトの後ろにいる彼女にも気がついたようだ。


仕事場に近いと言っても、歩くと10分はかかるし、オフィス街なので似たようなカフェがあちこちにある。

なのに何故ここにいるのか。

先ほどのカフェのタクトの座っている位置からカフェに近づいてくるシキが見えたのだ。

このままだと、ガラス越しに横を通ると思い、見つからないうちにカフェを出て彼女と離れたかったのだが。


「あれ、タクトの職場の人?

ゲーム作ってる人?」

並んで歩き始めた彼女が、タクトと目が合った途端に止まっただけのシキを目ざとく見つけて、聞いてきた。


「友人だよ。

俺、曲も書いてるからそっち系の。」

職場の内部で誰が何をしているのかは口外するべきではないことなのでごまかした。


「タクトの友人!

紹介してくれる?」

彼女はそう言うと、タクトの腕に手を伸ばした。


「ごめん。

あいつ人見知りで。

そういうの苦手な奴なんだ。

それに、俺に考える時間くれない?」

彼女の態度がおかしいとは思ったが、今はすぐに離れて欲しかったため、腕を組もうとのばされた彼女の手を止めた。


「どうして?

友だち紹介するのもダメなの?

私のこと嫌いになっちゃった?」

紹介するのを断ったためか、腕を組もうとする手を止めたためか、わからないが、明らかにムッとした様子だ。

店内での話の後で、何故、和やかに友人を紹介する流れになると思うのか、とも思うが。


「また、今夜にでも連絡するから。

ね?

駅まで送るよ。

こんなとこまで来てもらって、あまり話しできなくてごめん。」

できるだけ優しくそう言うと、タクトは職場とは反対の方にある地下鉄の駅に向かって歩き出した。


「わかった。」

彼女は渋々といった感じで数歩小走りに走るとタクトの横に並んだ。


駅の改札で彼女は、必ず連絡してほしい、待ってるからと念入りに何度も告げて帰っていった。


「俺、見る目無いよな。」

彼女を送った後、手に持ったコーヒーを飲み、小さく呟いた。

彼女には「昼休憩終る。」と言ったが、実は昼休憩が終るにはまだ余裕がある。

駅に背を向けてゆっくりと歩いていた。


「うちのプログラマーに興味があって、俺に近づいたって感じだったのかな?

最近はそういう話聞かなかったんだけど。

まあ、リーダーにまた話しとくか。」


先ほどいたカフェを通り過ぎ、オフィス街の一画にあるビルに入り、さらにセキュリティ用のゲートを抜け、エレベーターで7階まで行った。

ミーティングルームに直行すると、シキとトウリ、チームメンバー数人が先にいて円卓を囲み何やら話している。


「例えば、夢だと、速く走りたいのに足が動かなかったり、電話番号とか入れる時、何回押しても番号を間違うとか、大声を出したいのに声が出ないとか?

ゲームだとそういったできることができなくなることはないよな。」


「大事な用事があるとわかっていたのに、その時間に到底間に合いそうにない場所に居たりとか?

そういう時に、これは夢だなと自覚することもあるけど、起きたときにあまり覚えてないよね。

ゲームはかなりクリアに覚えているから、いい感じ。」

そう話しているのはトウリだった。


「トウリも今回のテスターに入ってるんだっけ?」


「あ、タクト。

うん。

今のところ、私とあと5人くらいかな。

そのうち、他プロジェクトが終ったら、そっちのメンバーにも入ってもらう予定。

セーブポイントはサーバーで管理していて共有できるので分担作業してもらうつもり。」


円卓を囲むメンバーを見るがリーダーは不在のようだった。

「リーダーは?」


「メンバーが入力したチェック項目を確認してたから、それが終ったら来るんじゃないかな?」

そう答えたシキがタクトに近づいてきて小声で言った。


「さっき、誰かと一緒にいただろ。

反対側の歩道に他メンバーもいて、見られてたみたいだ。」


タクトは一瞬フリーズしたが、大きく深呼吸したあと、念のために聞いてみた。

「そこに、リーダーもいた?」

「うん。彼女もいた。」


「何でよりによって、みんなでそんなとこ通ってたんだ?」


「タクトが出てきたカフェ、今日から限定メニュー出してたんだ。」


「どうりでいつもより人が多かった訳だ。」

タクトは自分で墓穴を掘っていたことを知った。

落ち込むタクトの後ろから不意に声が聞こえた。


「遅れてごめん。」


「リーダー。

大丈夫です。

タクトも今来たとこですから。」

トウリが笑顔で答える。


円卓でタクトの横に座ったリーダーが、プロジェクターのスイッチを入れ画面を表示する。

落ち着いた声でリーダーが声をかける。

「さあ、始めようか。」


ミーティングが始まると、各メンバーが書いたチェック項目の内容について意見交換がなされた。

ほとんどのメンバーは、ゲームの世界で現在の自分の推しである人物とそれにまつわる人物が登場しているようだ。

仮想現実の世界だが、体験したことを脳がリアル感覚で覚えているので、各メンバーともにテストに熱中している。


プログラムは共通で一定のアルゴリズムで判断し、ストーリーに適した内容となるよう、問いかけてはいるが、それに答えを返すのは各自の認知的なものになる。

そこに、想定外のものがあれば、バグが発生する。

現時点で致命的なバグは報告されず、コアな部分を担当しているシキは安堵の表情をしている。

ストーリーの細かな部分を担当しているメンバーも、それぞれ課題はあるが、さほど難しい修正はないということで話は終わった。


タクト的には、前段階の元カノとのやり取りを見られたことに、自分の墓穴に、かなり落ち込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ