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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
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5.ゲーム主人公を確定

タクトは、黒のカウチソファにゆったりともたれ、「ゲームスタート」と声に出した。

初回と同じように、白く蛍光色のような文字が目の前に現れ、全体的に読める位置になるまで遠のいていく。

黒い空間にオープニングロールの白い文字が浮かび上がりスクロールされる。

引き込まれるような感覚が終わると、そこに立っている自分を自覚する。


初回と同様に、システムから文字と曲が認識できるか確認が入るので、それに応じる。

動作確認まで終了すると、次のメッセージが表示された。


<<ポイントがあります。ポイントを選択しますか?>>

<<はじめから>>

<<セーブポイント1婚姻の選択前>>

<<セーブポイント2西の森の選択前>>


「セーブポイント2西の森の選択前 を選択する。」


<<セーブポイント2西の森の選択前 をロードします。>>

<<よろしいですか?>>


「ロード」

そう言うと、足元から光が広がり、森を背に立っていた。

前回セーブしたポイントである西の森の前の光景が広がった。

夕陽が西の森の遥か向こうに沈みかけているので、辺りが朱色に染まっている。


短髪の従者が、片手で目の前に影を作り、眩しそうに夕陽を見ていた。

もう一人の従者は、王子の愛馬のソードに自分の手の中の水を舐めさせている。

夕陽がソードの鬣や白い体を朱色に染めている。

その横にいる従者の括った髪も夕陽に照らされて、金色に赤が混じった光がキラキラと輝いている。


従者二人からは、夕陽を背にしたタクトの顔は逆行になるので見えていないだろう。

タクトからは従者二人の様子が見え、金髪碧眼の青年二人が夕陽に照らされている姿は息をのむほどの美しさだった。


「なんだ?

俺に二次創作でもさせたいのか?

美少女を美青年にした、悪役令息小説のBL版ハーレム?

いや、そんな画才も文才も無いんだけど。」


眩しそうに夕陽を見ていた従者が、金髪の髪をキラキラと光らせて、声をかけてきた。

「殿下、夕陽が沈みきる前に、城に戻りましょう。」


最短ルートを通るためには、ここでは森に入らず、城にも帰らない選択をする必要がある。

タクトは少し考えて、左手をグーの形に握って、顎の下につけ、数回頷きながら答えた。


「いや、もう少しここにいる。

やっぱり、このまま城下街に行って、平民の店で食事をしようか。」


城から南の方に城下町があり、西の森からは遠いが馬があるので行けない距離ではない。


従者二人が困ったように顔を見合わせている。

小声で、でも聞こえる程度の声が聞こえた。

「また、殿下のわがままが。」


このような予定と違う行動は、プレイヤーがわがまま認定されるようだ。

”また”と、いうことは、以前からわがままを言っていたいう設定に変わったということだ。


「殿下、城でも食事が用意されておりますし、本日は毒見係も伴っておりません。」

馬に水をやり終えた従者が、麻袋を腰の鞄に直しながら、そう言って近づいてきた。


「毒見係なんているのか、さすが王族設定だな。」

頷きながら、言葉にすると、近づいてきた従者の顔が半笑いの怒り顔になった。

その顔を見たタクトから声がこぼれた。

「さすが、美少女からの美青年。

怒った顔もきれいだな。

夕陽がだいぶ沈んで、顔に落とされた影がちょっと暗くて怖いけど。」


一歩手前まで近づいてきた従者が、タクトの前で片膝をついた。


「殿下、そのような我儘は控えていただき、城にお戻りください。

気分転換のつもりでお勧めしましたが、日が暮れての我々だけの移動は危険です。」


「さりげなく、夜の治安の悪さをアピールしてきたな。」

システムが、わがまま殿下と夜の治安の悪い街方向に流れ出したようだ。


片膝をついた従者の腰の鞄から、青い光が漏れて点滅しているのが見えた。

従者が腰の鞄から青い細長い水晶のような石を取り出すと、すぐに、水晶から逆円錐状の光が形づくられ、そこに文字が浮かんだ。


「わかっ」(た。)

と、返事をしようとするが、光の中の文字を見た従者に遮られた。


「殿下、王城から通信石に連絡が入りました。

大変です!

陛下が倒れられました。

すぐにお戻りください!」


ちょうど、夕陽が沈みきったところだった。

強制的に帰城しなければいけないイベントが発生した。


赤靄の影に、手に持った水晶からの光が当たったシュールで美形な顔が驚愕の表情をしている。

タクト的には、ツボる光景だ。


口元を抑えて再び早口で漏らす。

「だから、二次創作は無理だって。」


慌てた従者二人に急かされて馬に乗り、来た時と同じように、前後を従者の走る馬に挟まれて強制的に城に移動する。

西門の跳ね橋を渡ると、後方ですぐに橋が上げられていた。


「視点変更」

城を真上から見るイメージに視点を変更すると、城の出入り口がすべて封鎖されているのがわかった。


馬から降りたタクトは、従者に挟まれて元いた執務室の隣にある私室に移動していた。

視点を戻すと、メイドが王子の服を従者に渡して出ていくところだった。

従者が王子に声をかけてきた。

「お着替えをお手伝いいたします。」

ここで、自分で着替えると言って着替えることもできるが、そのまま手を左右に広げた。


陛下の部屋に行く前に、ここでは必ず着替えなければいけない。

拒めば、強制的にストーリーを進めるために、従者とは別のキャラが出てくる。

女性だったら、メイドが入ってきて、着替えることに同意するまで延々と泣きながら説得してくる。

男性だったら、力づくで着替えさせるための人海戦術となる。

見てみたいが、今回はやめて素直に着替えに応じた。


「公式では、全キャラクターを公開するって言ってたな。

その大半がプレイヤーのイメージ投影だから、設定だけの説明でイメージは無し。

ちょっとした選択肢で出てこないキャラが多いから、ゲーム内で全キャラクターの顔を見るのに苦労しそうだ。」


従者が黙々とタクトが着ている白いシャツのボタンをはずし、丁寧に袖を抜いていった。

代わりに、襟元、袖に奇麗な刺繍の入ったシャツを丁寧に袖から通して、着せられる。

ズボンもボタンを外し下げられたので、足を軽く上げて抜く。

黒いズボンにもシャツ同様、裾の部分と腰回り、ポケット部分に奇麗な刺繍が入っている。


「上手いな。

まったく肌に触れずによく着替えさせられるもんだな。」

着せてもらっておいてなんだが、感心してしまった。


「有難うございます。

殿下。

お褒めいただき、身に余る光栄です。」

短髪の金髪で碧眼美男子の微笑みが刺さる。


「俺は我儘な王子だったか?」

微笑む従者に今のタクト殿下の性格がどう認定されているのか確認してみる。


「いいえ。

とんでもない。

多少気まぐれなところはございますが、優しい方でございます。」

従者は、首を左右に小さく振り、優しく返事を返してきた。


「そうか。

とりあえず、今の誉め言葉でわがまま認定回避したのか。

思わず出た言葉だったけど。

それより、、優柔不断な性格に認定してもらうにはどうしたらいいかな。」


グレーのクラバットに、ブローチ、上品質でグレーのシックな上着を着せられる。

前ボタンをすべて留め終わると同時に、私室のドアが叩かれ、その向こうで叫ぶ声がした。


「殿下、お急ぎください!

陛下が意識を取り戻されました。」


従者がタクトの顔をみて、力強く頷き、ドアを開けると二人の兵士が立っていた。

兵士は銀色の甲冑姿で、腰に剣を下げている。

前左右に従者と兵士、後ろ左右に兵士と従者と挟まれて、陛下の寝室まで強制移動するようだ。


進行方向から逸れようとすると前後左右の誰かに遮られる。

止まろうとすると「殿下、お急ぎください。」と諫められる。


キーワードを唱える。

「王城の地図」

目の先に王城の地図が表示され、自分の位置が点滅しながら、移動している。


目的地の陛下の執務室を思考すると、陛下の部屋の位置で赤い光が点滅した。

「執務室から居住区まで、思ったより近いな。」

前回のセーブ前に行った陛下の執務室より、もう少し奥まったところに回廊があり居住区に繋がっていた。


目的地に付くと、地図は薄くなり消えていった。


「殿下をお連れしました。」

案内してくれた兵士が、凝った木彫りで装飾された大きな観音扉の両脇にいる二人の近衛騎士に声をかけた。


近衛騎士だとわかるのは、甲冑姿の兵士と全く違う装いをしていたからだ。


太ももが隠れるくらいの長さの赤いジャケット、その襟元と袖の返しは黒で二本の白い線が入っている。

首から肩に黒い肩章があり、その先に10cmほどの長さの組み紐がいくつも下がった飾りがついてる。

腰のベルトも黒で、上着の前は金ボタンで止められている。

ズボンも赤で、裾の返しが黒い。

足の外側左右に肩章と同じ黒い布が縫い付けられている。


タクトは思わず呟いた。

「例の小説のヒロインの攻略対象の近衛が来てた制服じゃないか。」


扉が開かれると部屋の中央にある大きなベッドが目に入った。

そこで、ぜーぜーと息を吐いている陛下が横たわっている。

その周りに、医者、宰相、執事、メイドなど数人が立っている。


開いた扉の前で立ちつくしていると、近衛騎士が低い声で話しかけてきた。

「殿下、中へお進みください。

陛下がお待ちです。

どうぞ、ベッドのすぐ傍へ。」


わざと立ちつくしていた訳ではなく、陛下の周りにいるキャラに見入っていたのだ。

不意に近衛騎士に顔の近くで囁かれ、ぞくっとしたが、すぐに気持ちを立て直し、咳ばらいを1つして中に入った。


近衛騎士は、やはり、悪役令息物の小説のヒロインの攻略対象の1人にそっくりだった。

ちなみに、もう一人はその攻略対象の悪友の顔をしていた。


「王子の俺より顔が良いキャラが多いな。

キャラの顔作ってるのが、俺だから仕方ないか。

小説のイメージを引きずりすぎている。

テンション上がるんだか、下がるんだか。」

ぼやきながら陛下の枕元まで行くと、主治医らしき白衣を着た人物が悲しそうに目を伏せて立っていた。


「医者はやっぱり白衣に白髭か。

執事はセバスチャンだろう。

自分のボキャブラリーの貧困さを気付かせてくれるゲームだな。

メイドはツインテールで、やっぱり例の小説のツンデレキャラの顔だ。」


白衣に白髭の主治医らしき人物が陛下にそっと声をかけた。

「陛下、タクト殿下が御出でです。」

目をつむっていた陛下が、重そうに瞼をあげて、視線をタクトに向けた。


「来たか。

婚姻の件だが、おまえの返事を待つと言ったが、待てなくなった。

1か月後のお前の成人誕生日に婚約式を行う。

私が生きているうちに、、、」


陛下はそう告げて、また目を瞑った。


「とりあえず、これで、最短ルートの分岐点である隣国の王女との婚姻確定まできたな。」

タクトは横になっている陛下の顔を眺めて、最短ルートの分岐点にきたことを確信した。


NPCには、そんなタクトの様子が悲しんでいるように見えているらしい。

ツインテールのメイドがそっと涙ぐんでいる。

医師の後ろにいた宰相が、タクトに声をかけてきた。

「殿下、陛下はきっと大丈夫です。

元気をお出しください。」


「わかっている。

婚姻式の1年後に主人公がこの国の王子として生まれるルートが確定した。」


「殿下、何て気丈な。」

宰相と同じくらいの年だろう、黒い執事服をピシッと着こなし、ロマンスグレーの髪をきれいになでつけ、肩眼鏡をした執事も涙ぐんでいる。

主治医、従者、兵士、メイド等々、周りのNPCたちには、タクトが強がっているように感じられているらしい。


後ろに控えている従者が、唇をかんで悲しみを堪えている。


会話は全くかみ合わないが、このルート確定の場面では何を言っても、返されるセリフが決まっている。

プログラム通りなので問題は無い。

ここで、ムードに合わせてなりきるか、かみ合わないまま終わらせるかは、プレイヤーの自由だ。


「殿下、もう遅い時間ですのでお休みください。

陛下には主治医もついております。」


陛下の寝室で一通りの会話が終了すると、後ろで控えていた従者が声をかけてきた。


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