48.主人公は英雄に5エンディング
ブランが暴君を倒したことはすぐに各地に広がった。
また、暴政に協力、または助長していた多くの貴族たちも拘束されたことが伝わり、各地に混乱を招いた。
そのような中でも、前々陛下と王妃の名のもとで前陛下の葬儀を国葬として行い、王家自体の存続は示した。
また、前陛下を討伐した本人が、その息子であり、現王妃を後見とした王子として存在することを公開することは、民衆心理の混乱を落ちつけることに繋がった。
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「よぉ、ブラン。
書類仕事は終わったか?」
王子の執務室の扉をいきなり開けたのは、スカイだった。
扉の前には護衛の兵もいたのだが、笑顔で威圧して手を出せなくしたようだ。
そんなスカイに見向きもせず、磨かれたようにツヤのある黒い執務机の上にある書類と格闘しているブランがいた。
同じ部屋で資料や書類を仕分けているミマリも特に気にする様子もなく作業を続けている。
「なんだ、まだ終わってないのか?」
スカイは自分の腰にある剣とは別に、もう1つ鞘に収めた剣を持って肩に乗せている。
「当分、無理。」
「おまえの父さんの葬式も終わったし、お前の王子としての任命式も終わったし、ちょっとは暇になるんじゃなかったのか?」
「うるさい、スカイ。
暇なら手伝え。」
「俺?
いや、俺に書類仕事なんか無理に決まってるだろ。」
そんなスカイの両肩を後ろから力強く掴んで前に押して、執務室の中央まで入らせた誰かがいた。
ミマリがスカイの後ろに立つ自分と同じ顔をした弟に声をかけた。
「ミズマリも戻ってきたのか、ちょうどよかった。
私はブラン様に書類の説明をしているから、スカイにはお前から説明を頼む。」
「はい、兄さん。
そのつもりでクラウドにも、スカイには当面兵士の稽古には不参加となる旨の許可をもらってきました。」
スカイが驚いて、自分の肩を押すミズマリの顔を振り返った。
「えっ!
ミズマリが弟だったのか?」
とぼけたことを言った隙に逃げ出そうとしたスカイだったが、両肩の手は緩むことなく、ミズマリの40近くなっても衰えない美貌で作った笑顔に黙殺された。
「スカイ、無駄だ。
ミマリもミズマリも、俺の父さんを相手に仕えてきた人たちだ。
まったく隙が無い。
レアリアさんの授業みたいに簡単に出し抜けないよ。」
ブランはすでに諦めた口調で言っている。
「おまえもか、何回失敗したんだよ。
って、お前の父さんに仕えていて隙がなくなったって?」
ミマリが遠くを見るように、だが資料の仕分けの手は止まることなく語り出した。
「ブラン様のおじいさまである前々陛下の体が弱いこともあり、あの方は幼いころから政治に関わっておられました。
幼いころはそれこそ創意工夫して逃げ出そうともされていました。
18歳になる頃には、私どもが休憩を案内しなければいけないくらいに業務をこなされるようになってしまいましたが。」
「創意工夫って、それを全部封じたってことか?」
スカイが、持っていた剣を床に落として身震いしている。
ミズマリはスカイの肩を押して執務机の近くの補助テーブルに座らせると、その前に書類を置いた。
「あの方は、私たちが城を立った日以降も、正と不正の書類とをきれいに分けて管理されていたようです。
ですので、不正の書類は、今拘束中の貴族の不正の証拠として提出でき、処罰理由にすることが可能です。
これがその書類ですので、貴族の不正内容を、別紙にまとめていただけますか?」
「えーーーー!」
スカイの叫び声が執務室の外まで響いた。
「ちなみにミズマリは何をするのか聞いても?」
スカイが恐る恐る、ミズマリの笑顔の圧に耐えながら聞いてみた。
「私の方では、不正書類の証拠の品の関連づけと横領金額の試算、と、現在拘束している貴族に対しても拘束費用は発生していますので、予算の見積もりなどですね。
処罰が決まりましたら、罰金程度で済む貴族の罰金額の試算であるとか、その他の帳簿関連の計算を行いますが。」
ミズマリは早口でそこまで言うと一旦切って、笑顔の圧を強くしてスカイに逆に訪ねた。
「仕事内容の交換をしますか?」
「イエ、イイデス。」
「その書類ができましたらブラン様に確認いただく前にミマリに渡してください。
間違ったところがあれば、差し戻しになりますので気をつけてくださいね。」
「ハイ」
そこに、前々陛下の片眼鏡の執事が開けたままの扉を丁寧にノックしたのを見て、ブランが明るい声で言った。
「セバスチャン、入っていいよ。」
スカイがブランの明るい声に違和感を感じてセバスチャンを見ると、小さな籐の籠を持っていた。
老齢ではあるが黒い執事服をピシッと着こなしているセバスチャンは優雅に歩き、ミマリに持っていた籐の籠を預けた。
「皇后様からの差し入れでございます。」
「いつも有難うございます。
皇后様は息災でしょうか?」
「はい。
本日も離れの宮の庭園で花の世話などをされているご様子でした。
お渡ししたお菓子も、庭園のバラから作ったジャムを使用しているとお伺いしております。
前々陛下もお気に召したようでございました。」
ロマンスグレーの髪の前髪をフワッとさせたまま7・3で分けているセバスチャンが、片眼鏡をそっと抑えて、上品で柔らかな微笑みを浮かべている。
二人の会話をブランが楽しそうに聞いている。
「餌付けされている?」
スカイは思っていることが言葉に出てしまう。
セバスチャン、ミマリ、ミズマリがスカイに良い笑顔を向けた。
「ひゃっ!」
いくら剣の腕があっても、三人の圧には来るものがあったようで、若干顔色が悪くなっている。
「何、変な声だしてんだよ、スカイ。
文句言うなら、ブランシュ様のお菓子あげないからな。」
「なんだ、そんなに何度ももらってるのか?
ブランシュ様って、皇后様?
お前の母さんに顔がそっくりなだけじゃなくて、名前も同じなのか?」
スカイは、知っている名前が出て驚いて聞き返した。
「うん、そう。
俺も王子の任命式の件で初めてお会いしたときに混乱して驚いたけど、今はそうでもないかな。」
「ふーん?」
「やっぱり違う人だから、雰囲気や性格が違うしね。
母さんの方が泣き虫で、かわいらしいよ。
ブランシュ様は、凛としっかりしていて、やわらかい雰囲気の美人な人だった。」
「ブラン様、手が止まっております。
皇后さまからお菓子もいただきましたし、お茶にしましょう。
休憩後、確認いただく書類をこちらに置いていますね。」
ミマリは執務机の書類を仕分けた箱の1つをさした。
受け取った籐の籠を執務室の端のワゴンに置くと、扉の外の兵にお茶用のお湯の用意を言いつけた。
セバスチャンは一例をして執務室から退出した。
お湯を待つ間にミマリが今夜のスケジュールをブランに伝えた。
「夜は、晩餐を兼ねて、ユージンから近衛騎士部隊の報告、ジミールから城内兵士部隊の報告などを受けます。
今回の件で騎士や兵士の部隊も大きく再編成されておりますので、朝食以外の当面の食事は報告会を兼ねます。」
「わかった。
父さんは、ミマリやミズマリがいたとはいえ、これを一人でやってたのか。」
ブランは羽ペンをおいて、大きく背伸びをした。
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夜に報告会を兼ねた晩餐を終えたブランは王子の私室にいた。
スカイは、王子の私室の隣の本来なら従者が使用する部屋にいる。
自分のことは自分ですると、ブランが従者が付くのを嫌がったために使わない部屋をスカイが陣取った形だ。
ミマリとミズマリは夜になると王家の墓地に足を運んでいた。
「陛下、ブラン様は王族の婚姻後の王位継承の伝統を廃止されるようにしております。」
「いずれは王家の血統による継承も無くされるつもりのようです。」
二人は名前も彫られていない大理石の前に跪き、交互に語りかけている。
「陛下からは、縁を切ると書面をいただきましたが、我々は一度もそれが陛下の本心だと思ったことはありませんでした。」
ミマリは胸のポケットから古びた手紙を取り出して開いた。
「あの日、壇上から私たちを見る瞳を見て、陛下は何もお変わりになられていないということを確信しました。」
ミズマリも胸のポケットから古びた手紙を取り出した。
ブランたちには話さなかったが、二人が受け取った陛下からの最後の手紙にはブランたちのことを頼むと書かれていた。
「陛下のおそばを離れたことを悔やむこともありましたが、今はただご子息のブラン様にお仕えしていこうと思っております。」
「ここでブラン様にお仕えいたしますが、私たちが陛下のおそばを離れることは二度とございません。」
ほとんど毎日のように、前陛下の墓に足を運びその日の報告をする二人の姿があったが、討伐された前陛下の墓には墓守さえもめったに近寄らないため、人目を気にせず足を運ぶことができた。
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不正を行っていた貴族たちの、特に悪質な不正を行っていた貴族の処罰が終わる頃、ブランは王族の婚姻後の王位継承の伝統の廃止に成功した。
婚姻による条件を無くすことは、前陛下の戦争の発端のことを考えれば当然と受け止められ、一時的に王権を預かった王妃のもとで開かれた会議で、参加した諸貴族の同意を得て満場一致で可決された。
会議には、反乱に関係した騎士、兵士、貴族だけではなく、重税に苦しみながら領地を治めていた反乱とは無関係の貴族なども参加していた。
前王の子どもということで警戒していた貴族もいたが、王家と一部の貴族だけでの政治ではない政治を目指すブランの姿勢に、ほとんどの貴族が精力的に協力してくれるようになった。
「不正を行っていた貴族のほとんどが処罰されたから、自分だけの利益追求をする貴族がいなくなったというのもあるよな!」
王子の私室で、これから行われる王位継承式のために着飾っているブランにスカイが声をかけた。
ブランはスカイをジト目でみている。
「ブラン様、まだ、動かないでください。
ピンが刺さります。」
ミマリが、ブランのクラバットを黒い宝石のついたピンで止めながら注意した。
「本当は堅苦しいのが嫌だから、さっさと王家主体の政治を撤廃させて、お前も自由になりたいだけなんだよな?」
調子に乗ったスカイがさらに続けた。
クラバットを留め終わったミマリは、黒をベースとしたシンプルだが銀の刺繍糸で繊細な模様がかたどられた上質なジャケットをブランに羽織らせた。
「すかい、うるさい、俺の代だけそんな難しいことができるとは思ってないよ。
それより、自分は軽装でいいからって、ジャケットも羽織らないのはどうかと思う。
クラウドでさえ、近衛に負けないくらい勲章をたくさんつけたジャケットを着るのに。
お前は今でも自由すぎだ。」
ブランは、できるだけミマリの邪魔にならないようにじっとしながら、他人事だと思って軽口をたたくスカイに文句を言った。
「大丈夫です。
ブラン様。
ブラン様の次に、スカイにはちゃんとした装いをさせますので。」
ミマリが薄っすら怖い笑みを浮かべたのを見たスカイがその場から逃げようとすると、ミズマリに肩を抑えられた。
「い、いつのまに、俺の後ろを取るなんて、さすがミズマリ、、、さん。」
「最近のお決まりのパターンですね。」
前々陛下から預かってきた、王家の紋章の入ったバッチを乗せたトレーを両手に持って、片眼鏡の老齢のセバスチャンが愉快そうに笑った。
ミマリが、ジャケットのボタンを留め終わると、トレーに乗せてあるバッジを取り、ジャケットに上から順番に留めていく。
「セバスチャン、ブランシュ様と元婚約者の人はいつ隣国に戻るのですか?」
ミズマリがスカイを抑えながら、セバスチャンに聞いた。
「はい。
本日の王位継承式と、祝賀パーティーには出席されますので、明日立たれる予定でございます。」
「そうか。
レアリアさんと母さんはもう少し後で王都に来るから、入れ違いになるな。」
「ブラン様、終わりましたよ。
重いでしょうが、甲冑よりは軽いはずですので大丈夫でしょう。
さぁ、次はスカイです。
クラウドの息子として、ブラン様の片腕として恥ずかしくない装いをしましょう。」
「えっ、いや、はい。」
逆らっても無駄だということを、最近嫌と言うほど知ったスカイは、逃げ損ねた自分を恨むことにして、諦めた。
「仕方ない、ミマリの言うとおり、俺はブランの片腕だからな。
一緒について行ってやるよ。」
執務室に、ブランとその場にいた者たちの笑い声が響いた。
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王位継承の儀式は、王都の大聖堂で行われた。
正面の壁の白いグラデーションになっているステンドグラスから降り注ぐ白い光の中、前々陛下と大神官による王位継承の宣言がなされた。
それとともに諸貴族や近衛騎士、城の兵士や、反乱に参加した仲間たちを始め、国の人々から賛辞の声が上がった。
大聖堂の正面の大きな扉、そして窓という窓すべてが大きく開け放たれており、周りに集まっていた多くの人々も、白い光の中にいる新たな王を見て祝福していた。
その中には、運命に翻弄された王子が、この国の運命を変えた英雄と賞賛する声もあった。
ブランは、自分の手で倒した前陛下のことを思い出し、力強く言葉にした。
「翻弄などされていない。
俺は誰にもコントロールされていない。
俺は俺の意志で、王位につく。」
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この国の君主となったブランは、十数年で暴君に荒された国を立て直し、ローズウエスト国との和平を取り戻し、仲間たちと共に平和な国に導いていった。
ブランは、グレーの美しい蔓バラを城の庭園で接ぎ木により増やし、城壁を覆わせた。
種が存在せず、この国にしかないバラは、いつのまにか国の花として浸透していった。
おわり




