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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
43/48

43.最終話

「そう、登場人物。」


タクトはみんなで飲みに行ったカフェバーでマシロにこぼした愚痴を、あまり覚えていない。

愚痴だったかどうかさえ覚えていたくなかった。


「私に似てるから、推してるって令嬢のこと、とか?」


意識してはいないと思うが、組んだ手に顎を乗せ、上目遣いで見てくるという卑怯な方法を取っているリーダーにほんの少しだが怒りを感じた。

自分勝手な怒りだとは思いつつ、どうしてVRの中で心臓が跳ね上がるように感じるのかと、このプログラムのコア部分を提供したシキにさえ怒りが向いた。


「ええっと?

推しの話、してましたか。」

心の中で「冷静に、冷静に」と唱えつつ、言われてみれば、推しのことを語ってしまったような気がしてきた。

さらに、何か思い出しそうな気がしたが、思い出したくない。

以前にシキが言っていた、気づこうと思えば気づける記憶のことが脳裏によぎった。


「私の瞳と同じ色で、性格も自分のすべきことに一途でかわいいって言ってたような。」

更にマシロはタクトの表情を観察するようにしながら続けた。


「それに私の小指のピンキーリングのムーンストーン見て、」


「見て?」

マシロの自分を観察するような視線に、音を挙げそうだと思いつつ、何の「ね」をあげるのか考えるなと自分に言い聞かせた。


「私の瞳の色に似て、可愛いって言ってた。かも?」


「かも!?」

瞳の色のことを言われて、「かも」では無いことは瞬時に思い出していた。

それと同時に、小指のムーンストーンにキスしたことも思い出した。

それは、思い出してはいけない黒歴史だった。

自分が何をやったのか思い出したくないことを思い出したタクトは、もう「ね」をあげて玉砕すべきなのかとさえ思った。


トントントンとノックが聞こえて、助かったと思い振りむくと、ドアが開き、メイドがお茶のセットをワゴンに乗せて入ってきた。

カラカラカラと音を立ててワゴンを押すメイドとその後ろに二人の女性がついてきている。

メイドはワゴンをガーデンテーブルの横に据えた。


ワゴンの横にメイドが立つと、その横にヒロインたちが並んだ。


「ふたり?」


一人は、サラサラの髪を腰より長く伸ばして、白いドレスを着ているブランシュ姫。

一人は、銀の髪を後ろで括って、括れなかった横の髪が顎のラインで揺れている、目の前のリーダーと同じ髪型をしているブランシュ。

髪型が違うだけでまったく同じ容姿の二人が揃っていた。


唖然とするタクトをよそに、メイドは、ワゴンに置いてあった2つのティーカップをマシロとタクトの前に並べ、人差し指を頬にあてて、首をコテンと倒した。


「俺のとこのメイドと同じ顔で、同じ仕草、マニュアル動作?」

二人のブランシュに驚いていたタクトだが、メイドの動作のことの方が気になったようだ。

とりあえず、脳から消したい記憶がある場合、他のことを考えるしかない。


「そう、メイドはどのルームでも同じで、行動パターンも同じ。

できるだけ、本体のゲームの邪魔にならないようにって、VRチームが考案していたから。」

タクトの方が背が高く、座高も高いので仕方がないのだが、マシロはどうしても上目遣いになってしまうようだ。


メイドが、ワゴンの上のポットを持ち、後ろのブランシュたちに一つずつ渡し、自身も一つのポットを持った。

「お茶を三種類用意いたしました。

私たちが持っているティーポットの、どのお茶を飲みたいか選んでいただけますか?」


タクトがマシロを見ると、顎の下で組んでいた手を外して、片手の掌を上にして差し出して「お先にどうぞ」という仕草をした。


「えっと、これはゲームですか?」

個人のルームの中では、お茶を選ぶことがゲームだったが、今はそう言った説明がなかったので、念のために聞いてみた。


メイドは首をフルフルと振り、答えた。

「いえ、違います。

選んでいただけますか?」


「えっと、じゃぁ、ブランシュ、姫。」

タクトが使命をすると、銀色の髪を揺らしながら、ブランシュ姫が前に出てきて、タクトとマシロのティーカップにお茶を注いでくれた。


「ありがとう。」

マシロはティーカップの取っ手を持ち、口元に近づけて先に香りを嗅いだ。

タクトも同じようにティーカップを口元に近づけて、そのまま飲んでみるとストレートのダージリンティーだった。


「何となく、ハーブティーかと思ったんですが、そう言えばリアルの俺はハーブティーは苦手でした。」

タクトはティーカップをティーソーサーにカチャンと音を立てて戻した。


「ゲームではハーブティーが飲めたんだ。

それだけ、ゲームにのめりこめたってことで、良い結果ではあるのかな?」


「そうですね。

主人公を主人公として活躍させる役とは言え、主人公の隠された生い立ちの主要人物を作るのは、中々面白かったですね。」

タクトは、話題が変わったこともあるが、紅茶を飲んで少し落ち着いて話せるようになった。


「そうか、じゃぁ、テスト結果の報告を楽しみにしてる。」

マシロもティーカップを元に戻したが、ティーポットを持ったまま、テーブルの横に立つブランシュ姫の方を見上げた。


「タクトが言ってた登場人物の令嬢って、この姫のことだったんだ。」


いきなり話が戻されて、混乱したタクトは何を言っていいのか、何を言ってはまずいのか、と頭をフル回転させた。

「いえ。

いえ、その。」

椅子を引きテーブルに手をついて中腰で立ち上がったが、それ以上の言葉が出なかった。

違うとはいえず、そうと認めるのもできず。


「めずらしい。

何をそんなに焦ってるの?」

驚いたタクトを見て、マシロはタクトより驚いた表情をしていた。


「そう言えば、この間トウリと話していて、指摘されたんだけど。」

マシロが驚いた顔から、真面目な顔に切り替えて話題を変えてきた。

タクトは座るきっかけがつかめず、中腰の体制のまま聞いていた。


「グループ通話のとき、わざと主語をつけなかったのかって。

タクトの返事というか、言葉が棒読みだったと。」


「トウリは、何を言ってるんでしょうね。」

タクトは無理に笑顔を作りながら、シキが話したトウリのヒントのことを思い出した。


「そう言えば、シキ伝いに俺も聞きました。

リーダーのお母さんの引っ越しが決まったって。」

ここではっきり聞いて、おめでとうございます。と言えば、それで終わると覚悟を決めた。


「ふーん?

でも、物件がまだ空かないから引っ越しは半年先かな。

引っ越した後に、籍を入れるって言ってたから、私も籍をどうするのかそれまでに決めないといけない。

このままか、母の相手の籍に入るのかって。」


ガタンッ

マシロの目の前で中腰の姿勢だったタクトが、椅子に座り損ねてテーブルの下でしりもちをついていた。


「どうしたの?

大丈夫?」

マシロは自分も椅子を立ち、しりもちをついたタクトの横にかがみこんだ。

その反対側で、メイドがニマニマと二人を見ている。


「大丈夫です。」

タクトは顔を腕でこすりながら答えた。


「トウリにこうも言ったの。

タクトのゲームのヒロインが、例の小説の私に似てるって令嬢だったら考えるよ。って。

タクトがブランシュ姫の方を選んだから、まぁ、いいかなって。」


「何が出すか?」

出した声が震えているような気がしたが気にする余裕はなかった。


マシロは立ち上がり、ティールームのドアを見た。

「残念だけど、次のテスターが待ってるみたいだから、今日はここまで。」


ドアを見ると、他メンバーの名前と許可申請の文字が表示されていた。

誰かが、2つ目のゲームをクリアしたようだ。

タクトが目の前に差し出されたマシロの手を取ると、マシロはその手を引き上げてタクトを立たせた。

「タクト、明日、オフィスの近くでお昼ご飯一緒に食べよう。」


そのままドアの前にタクトを案内すると、手を振った。


「はい。」

タクトはやっとの思いで返事をしてドアに近づくと来た時と同じようにドアは勝手に開いて、中に入ると閉じた。

そこはブランシュたちのいない、自分のティールームで、先ほどの部屋にいたメイドと同じ顔のメイドが笑顔を作り待っていた。


「おかえりなさいませ。」


ミニゲーム終了後、タクトは一心不乱にたくさんのチェック項目を入力して行った。


「俺の、完全な誤解?

だよな?」


------


次の日、昼食を食べるためにマシロと一緒にオフィスを出ると、アオバが絡まれていた。


「お疲れ様です。」

アオバの後ろに纏わりついているのは、例の引き抜き目当てでウロウロしているシステム会社の人間だった。


「頼むよ。

アオバ君。」


「アオバ、まだ絡まれてるの?」

タクトが聞くとアオバは首を振った。


「俺の後ろ誰かいますかね?」

それはとても自然な返事だった。


「えっ?背後霊?」

マシロが口に手を当てて、怖がっている表情をしている。


「そう言えば、以前絡まれてウザかった人相手に、ゲーセンで俺に格ゲーで勝ったら教えるって言って、対戦で相手をボロボロにしたんですけど。

それが背後霊化でもしたのかもしれませんね。」

大きくため息をつくアオバ、その後ろをウロウロと動き回るシステム会社の人間。


「俺に格ゲーを教えろってうるさくつきまとう背後霊に。

プログラマー紹介しろっていうよりマシなんで、俺の後ろには誰もいないということで理解しといてください。

タクトさん、シキさんには余計なこと言わないでくださいね。」


それだけ言うと、アオバは背後霊を置いてオフィスに入っていった。


タクトとマシロも、背後霊がアオバの後ろ姿に見入っているうちに、オフィスを急いで離れた。


アオバのおかげで、少し緊張から解放されたタクトは、隣で歩くマシロを見た。

「お昼、何食べたいですか?」


マシロも女性にしては背が高い方だが、タクトから見ると自分の肩より少し上に頭のつむじが見える。

自分の頭のてっぺんを見ているタクトに気づいてマシロは自分の頭に左手を乗せた。

「これ、ムーンストーンのリング。

本当に覚えてない?

これは私のおじいちゃんがおばあちゃんに渡したリングだと話したと思うけど。」


頭の上に手を乗せながら、また、上目遣いでタクトを見るマシロに白旗をあげる。


「思い出しました。」

頭の上の手を取って、ピンキーリングをはめた小指ごと掌に乗せて、背中を丸めてムーンストーンにキスをした。


マシロが嬉しそうに言葉を口に出した。

「私に手を出したんだから、責任取って。」


タクトは背中を丸めたまま顔を上げて、マシロを見上げて答えた。

「はい。喜んで。」


そんな、ばかばかしいやりとりが心底嬉しかった。


オフィスから少し離れてはいるが、おしゃれなカフェは並んでいるが、道の真ん中には違いない。

こんな道の真ん中でムードもないが、言わずにいれなくて言葉に出す。


「マシロさん、俺、あなたが好きです。」


今まで気がつかないふりをしていた分だけ、波が押し寄せるような気持が止まらなくなった。

「もしよければ、半年後、俺の部屋に引っ越してきませんか?」


「タクトの部屋に?」


「はい。

web環境も、セキュリティも万全です。

仕事に差し支え出させません。」


マシロは思いっきり笑っていた。


タクトはマシロの笑顔を見て、「討伐される暴君になるゲーム」を早めにクリアできたことを心から良かったと思えた。

今後、リリース後のプレイヤーたちのヒロイン、ヒーローたちの笑顔が多いことを願うばかりだ。


------


ゲーム体験版のダウンロードの経過は、順調な方だと報告が上がっていた。


プレイ人数は、1人。

プレイシステムは、ブレインリンクシステム

対応言語は日本語。


「討伐される暴君になるゲーム」


リリース時期は、近日公開予定


終わり

本編最終話、今後、暴君ルートの主人公の話を少し入れて、完結予定。

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