42.ティールームシェア
いつも陽気に話しかけてくる、PC画面のホワイトタイガーだが今日は腕と胡坐をくんで(足は組めていないが)画面の中央にデンッと座っているだけだった。
ヘッドセットを外しテーブルの上におくと、カウチから立ち上がりパソコンラックの方に向かった。
キーボード台に置いていた、シキが書きなぐったものを元としている仕様書のバインダーを手に取ると、またカウチに戻って座り直す。
まだ何も言ってこない虎を放置したまま、バインダーを広げてパラパラとページを行ったり来たりしながらめくっていく。
「何度見てもややこしいな。」
資料に薄く振ってある格子とアドレスをもとにページを移りながら進んでいくこと30分ほど。
「あった、白と青のクラン判定、4対6以上のとき、戻り値1、暴君成立時にこの値が継続。
戻り値0のとき、後判定がすべて1以上でなければ、ゲームオーバー。」
仕様書にはほとんど日本語は書かれていないが、数字とアルファベット、記号を見ながら自分にわかるように翻訳していく。
「ストーリー最終判断、討伐会場の座標範囲に、主人公他8人がいること、クラン割合が6対4であること、で討伐成功、か。
暴君成立時3対7だったから、1が返されて、討伐時は白対青の割合が逆転して率がいい感じになったようだな。
討伐時は、座標範囲にいる主要メンバーキャラの人数と、クランの割合のどちらかの条件が1つでもかけていたら、主人公が捕まり、ゲームオーバー、か。」
パターンの分かれ目に気がつきそこをページをめくって追っていく。
「ん、主人公の侵入経路、思い出のアイテム、ある場合1、ない場合2?
1のとき、全員が侵入成功、2のとき、従者2人が侵入失敗。
そして、条件未達成?
こんな条件があったのか、ここでダメなら、かなりセーブポイント遡らないといけなかったのか。」
安堵の息を吐き、バインダーを閉じてテーブルの上においた。
「思い出のアイテム、俺の場合、キーは、グミの木と、灰色の薔薇か。」
主人公が言っていた、ミマリとミズマリから聞いた話、という言葉を思い出した。
「俺も頑張ったけど、主人公もよく頑張ってくれたってことだな。
けど、最後の方、電気が通っている間、か随分分かりにくい言い方をしてしまったな。
もう少し、かっこいい言い方ができたらよかったのに。」
首をひねって少し考えて呟く。
「この世界が構築されている間、とか?」
それも何だが違うような気がして、更に首をひねっていると虎の声が聞こえた。
「よう。お疲れさん!
ゲームクリア、おめでとう!
どうだ気分は、もうそろそろ、落ち着いたか?
ティールームシェアのことを確認したいなら、俺に聞いてくれ!」
虎が今まで黙っていたのは、ゲームクリア後のプレイヤーの心情を慮ってのことらしいということが分かった。
「うん?
じゃぁ、教えてくれ。
ティールームはVRチームが作ってるとシキが言ってたと思うけど、バージョンアップしたのか?」
虎は髭をピクピクさせながら二本足で立ちあがると、教師の持つ伸ばすことができる差し棒をもった。
棒の先が赤く光っている。
「4つのルートのうち、1つをクリアすると、「クリアしたゲームの登場人物がランダムで現れて、一緒にお茶をする」ことができる。
2つクリアすると、他プレイヤーを招待したり、部屋を訪問したりすることができる。
このときもランダムでお互いの登場人物が一人ついてくる。
主人公であっても、見た目や性別が違い、性格も若干違ってくるから比較し合うのも楽しいだろう。
そして、3つクリアすると、複数人で利用することのできるルームが解放される。
4つのルートをすべてクリアすると、どの部屋でも登場人物はランダムではなく、選択できるようになる。
と、まぁ、こんな感じだな。」
虎が差し棒を横にスーッと流すと、虎の後ろに複数のネームボード付きの扉が表示された。
「ほら、ここに鍵マークがあるだろう?」
虎が赤く光った差し棒を扉に向けると、赤くて透明な輪っかがドアノブにかかった。
「確かに、ドアノブの前に施錠された鍵が表示されているな。」
「この施錠された部屋には入れない。
表示される扉もシェア登録されているアカウントの物だけだ。
シェア登録は、ホームページに登録アカウントでログイン後の専用メニューから出来ることになっている。」
「なるほど、ネームボードを見ると、現在のテストメンバーのアカウント名ばかりだな。
あれ?マシロ?」
「一般公開前だから、今表示しているのはログイン中のテスターアカウントだけだ。
気兼ねなく使ってくれ。
ちなみに、誰かの部屋に行っていて留守だったり、既に誰かが入っている場合は施錠されている。」
「気兼ねなくって。」
「それと、2つのルートをクリアしたテスターは、リーダーであるマシロの部屋を必ず訪れて報告すること。
これは伝言だ。
さぁ、今ならマシロの部屋は開いてるぜ。
すぐ行くならシステムをVRに用に付け替えてくれ。」
画面に表示していた扉が消え、虎が右手を差し出すと差し棒が消えVR用の機器が出現した。
「つけ方は分かってる、説明はいいよ。」
「よし。
じゃ、俺は一旦消えるからな。
データのアップロードが終ったら、また俺を呼べよ!」
右手の上のVR用機器をポンッと煙を出して手品のように消した虎は、ウィンクをして二足歩行で画面の中央に去って行った。
画面にアップロードのプログレスバーが表示される。
「自分から消えることもできるのか。」
再びカウチからパソコンラックの方に行き、今度はVR用の機器を手に取り戻ってきた。
ゲーム機本体の部品を、厚みのあるVR用のゴーグルに付け替える。
「青ランプが点灯した、OKだな。」
パソコン画面にはイメージキャラクターの選択肢が出てきた。
「ここで虎を選ばなかったら、次は怒るか、泣くか。
いじけて同情ひこうとする気もするな。」
思わず笑いを溢しながら、ホワイトタイガーを再び選ぶと、すぐにシステムを頭に被せた。
「本体にVR用の機器が装着されているので、自動的にミニゲームが選択されます。」
出てきた虎はいつもの不遜な態度ではなく、起立してすましている。
と、思ったが、虎はフッと笑みを浮かべて画面にアップになった。
「スコープが装着されてないぜ!
うっかりしたな?
スコープのおろし方を説明してやろう。」
スコープをすぐに装着して、手でヘッドセットのまわりを触りゆるみがないかを確認した。
「虎がどんな顔をするか見たかっただけだから、説明はいい。
キャラがVR説明をすまし顔でするのが基本なのかと思ったが、そうでもないのか。」
「すべて正常に装着されていることを確認しました。
いつでもゲームを始められます。」
「ゲームスタート」
キャラ選択後の喜ぶ虎を想像していた期待が外れたため残念に思いつつ、ゲームをスタートさせた。
周りの景色が一変し、白い四角い部屋の中央に丸いガーデンテーブルが置いてある。
前回と同じ部屋の様相の中で、今回もタクト自身の姿でガーデンチェアに座っていた。
2つ目のルートをクリア前と同様に、座っている正面のドアが開きメイドがお茶のセットを持ってきた。
メイドは、ワゴンをテーブルの側まで持ってくると、人差し指を頬にあてて、首をコテンと倒した。
「お茶を選ぶゲームをなさいますか?
お客様をお招きしますか?
それとも、他の方の部屋に行かれますか?」
「なるほど、ここで選択肢が出てくるのか。
他のメンバーの部屋に行くにはどうしたらいい?」
メイドは頬にあてていた手を開いて、前に差し出してきた。
するとその上に、手品でよく使用するくらいの大きさで幾つものカードが円を作るように並んだ。
「ご訪問になりたい扉が施錠されていなければ、扉を指で押してください。
許可が出れば、そのカードが正面のドアに変わります。」
円状に並んだカードから、「マシロ」の部屋を探す。
シキから聞いたトウリの伝言を思い出しながら、見つけた「マシロ」の部屋の扉を指で押した。
他のカードが消え、押した扉が正面の扉まで移動すると正面扉と同じ大きさになり、扉が入れ替わった。
メイドがタクトの後ろに移動して、椅子の背もたれを引く。
それに合わせて立ち上がると、メイドがエプロンの前で手を合わせて頭を下げた。
「では、行ってらっしゃいませ。」
扉の前まで数歩あるいて前で止まり、ドアノブに手をかけようとすると扉が勝手に開いた。
扉が開いた先は、同じ間取りのティールームがあり、1つの扉で鏡像のように繋がってる状態になっていた。
急に扉が開いたため心構えが中途半端な状態で、正面のティーテーブルにこちらを向いて座っているマシロと目が合った。
中に一歩入ると後ろ手に扉が閉まった。
思わず立ち止まってしまったタクトに向かってマシロが手を振った。
「いらっしゃい。
入って、座って?」
「はい。」
部屋の中を見回しながら椅子に向かったが、やはり自分の部屋と同じ間取りで同じ家具の配置だった。
椅子に座ると、マシロがにっこりと笑った。
「ルート2つ目のクリア、おめでとう。
ここに来たのはタクトで二人目よ。」
マシロは、自分の隣にいたメイドにお茶を持ってくるように頼んだ。
「俺でふたり目なら、一人目はトウリですね?
クリアしたって聞いたんで。」
メイドが出て行く様子をタクトが目で追うと、メイドがドアノブに手をかけなくても閉じた扉が開いて、メイドが出て行くとまた閉じられた。
メイドはドアノブに全く触れていないので、ドアノブはダミーで、近づくと開く仕様になっているようだ。
「そう。
ちなみに、私のアカウントは、4ルートクリア状態にしている。
だからこの部屋では、登場人物のキャラはダンラムではなく、好きなキャラを呼べるよ。
もちろん、お客様であるタクトも。」
マシロはどや顔で言っているが、タクト的には冷や汗ものだった。
「へぇ、そうなんですね。」
ここでヒロインを呼ばれると困ると思い、情けない笑顔になっている自覚はあるが、それを止めることができなかった。
「テスターたちは2つずつのルートを担当してもらっていて、基本誰も任意にキャラを選べないでしょう?
だから、ここで呼べるようにしてるの。」
「へぇ、そうなんですね。」
「と言っても、最初のキャラはルート確定前の、ヒロイン、ヒーローにしてるんだけどね。」
積んだ、と思ったタクトはそれでも何か言い訳をと必死で考えている。
借りた小説にリーダーに似た登場人物がいるとしか言っていないはず、だけど、他にもいろいろ言ったような気がする。
「ところで、リーダー、以前みんなでカフェバーに行った時に、俺が借りた小説の話をしたこと覚えていますか?」
「うん、元カノから借りた?」
マシロの顔の笑顔が増したような気がした。
「あっ、いえ、そうなんですが、その部分は関係なくて、登場人物のことで。」
元カノから借りた部分がすっかりタクトの頭からは抜け落ちていた。
「登場人物?」




