41.暴君ルートのクリア(後)
騒ぎが更に大きくなる会場に見向きもせず、ブランは父親に向けた剣先をじっと見ていた。
「俺がお腹にいる時に、父さんの声が聞こえたと、母さんが言ってました。
もうすぐ、ブランが生まれると。
それは、俺もそうなのかもと、思っていて。」
顎を挙げて剣先を見ていた視線を上に向け、目の前に座っている父親を見下ろした。
「父さんは、俺の名前を呼んだ?」
「そうか、確かにそんなこともあったな。
ブランシュがユリ椅子で転寝をしていたときだったかな。」
どこかで期待しながらも、予想していなかった答えを世間話をするように話す父親に、ブランが戸惑っているのがわかる。
戸惑いながらもブランは、歯をグッとかみしめ直すと、再度口を開き続けた。
「俺にも、誰かわからないけど、かすかに変な言葉が聞こえたことがあった。
例えば、クラウドに剣を教えてもらっているとき、値がチート、とか。」
見下ろしていた父親の目が若干弧を描くのがわかった。
「8歳か9歳で、ほとんどクラウドを越えているようだったから、剣技の上限がチートだと思ったんだ。
クラウドの息子もかなりの腕前のようだったけど、お前にはかなわなかったよな。」
剣を突きつけられながらも、目元が緩んでいる父親を信じられない面もちで見ていたブランが小さくつぶやく。
「知っていたのか。
そうか、見ていたのか。」
後ろでは、スカイと近衛騎士が階段上で剣を打ち合い、階段を上がろうとする兵士たちをユージンやフレンド、クラウドが防いでいた。
そんな背景のなか、ブランは、尚も話を続けた。
「この城に忍び込むために案内されたとき、厨房の横の倉庫を通った。
倉庫に入る前に、その横に、グレーの薔薇のアーチと、グミの木があったのを見た。
それで、俺は、ミマリとミズマリから聞いた、父さんと母さんの話を思い出した。
父さんと母さんの出会いと、グレーの花を見ずに母さんが逃げ去ったこと。」
ブランの声は震えたが、振り払うように頭を数回振って気を取り直した。
「母さんが、逃げてごめんなさいって、言ってた。
自分に勇気がなかったから、こんなことになったんだって泣いてた。
情けない母さんでごめんって俺にも誤ってた。
一応、父さんには伝えておく。」
凛とした声で告げたブランの声を聞いて、剣先を喉元に突きつけられたままではあるが陛下は眉を下げた。
「そうか。
戻ったら、気にしなくていいと、ブランシュのせいじゃないと伝えておいてくれ。
謝る必要も悪びれる必要もない。
ブランもブランシュを責めないでやってくれ。」
「俺に、父さんと母さんを責める資格があるとは思わない。
レアリアさんに貴族の作法を教えてもらったから、母さんが逃げたいと思う気持ちはわかる。
ただ、父さんが国の人たちにやったことに対する責任は取らないといけないとは思っている。
だから、今日、ここにきて、父さんに剣を向けているんだ。」
ブランはその気持ちを表すかのように強い視線を父親に投げつけた。
「だけど、その前にはっきりさせたいことがあるんだ。」
「はっきりさせたいこと?」
「さっきも言ったけど、俺には、小さい頃から、俺以外には聞こえない声が聞こえてくることがあった。
もう少しでゲームクリアだ、とか?」
剣を握る手に力が入ったのか、父親の喉元に剣先がかすった。
身体的な暴力に対する痛覚の値は常に0の固定値が仕様のため、自分自身は痛くもかゆくもない。
だが、剣先が掠った喉元を見たブランは、まるで自分がそうされたように痛そうな顔をしていた。
陛下は剣先から離れるように背もたれに体を預けて、口元に手をやった。
「俺の声が?
聞こえていた?
そうか、そうだな、そんな気づいた反応だったような気がする。
本来はNPCならスルーする言葉だったのに。」
ブランは痛そうな顔をより悲痛な表情に変えていた。
「心当たりがあるのか。
何のことか考えたけど、もしかして、ここはゲームの世界?
だとすると、父さん、あなたは一体何者だ?」
ブランの真剣さに、正直に答えてみた。
「ここはゲームの世界、と言うのは当たっている。
そして、俺は、プレイヤーだ。」
ブランは、悲痛な表情のまま問い続けた。
「では、ここはゲームの世界で、俺たちはゲームの駒なのか?」
通常はNPCがスルーするはずの言葉を、主人公だからか聞き取っている。
ブランシュそっくりな顔が歪むのを見るに忍びないと思いながらも続けた。
「駒かと聞かれると、そうとは言えないかな。
設定された性格ではあるけど、その行動はそれぞれのNPCがサーチできる情報から選択したものになる。
行動のもとになるサーチ情報の範囲は個々の環境によるから、その判断もそれぞれのものだ。
だから、この世界が何であれ、電気が通っている間は、お前の意志で動いているよ。
誰の駒でもなく。」
キャラクターと駒は違うよな、と思いつつ続けて答えた。
「大丈夫、おまえは誰にもコントロールされていない。」
「コントロールされていない?
あなたにも?」
コントロールが何かは分かっているようだ。
検索範囲はどの程度なのか、NPCとこんな会話をしてゲームオーバーにならないことを祈りつつ、先を続けた。
「そう、コントロールされているのは、お前の父親だけだ。
プレイヤーである俺がお前の父親をコントロールして、、、」
突然、ブランが泣きそうな顔をした。
「俺の父親をコントロール?
じゃ、あの花はなんだ?グミの木は?
おまえは、母さんを愛してなかったのか?
だから、分かっていながら、声をかけながらも俺のことも放置していたのか?」
主人公のメンタルを傷つけてしまい、プレイヤーの話は余計なことだったと気づく。
「正直、そういう次元ではなく、何というか泣かせたくない存在なんだ。
幸せになってほしい存在なんだ。
二人とも。
とても、愛おしい存在として、見ていたよ。」
推し的に。
ブランの表情が泣きそうな顔から、怒りを持った表情に変わっていった。
「愛おしいから、あんな戦争を起こしたのか?
それだけじゃない、貴族の勝手な振る舞いに、この国の多くの人たちがどれだけ苦しんだか。
暴力的な圧政で、権力を振りかざして。」
「そうだな。
暴力的にストーリーを進めたことは認める。
戦争も国民への圧政も。」
ブランの後ろから、近衛騎士を倒して階段下に転がしたスカイが走り寄ってきた。
「ブラン!
何してるんだ、後はそいつだけだ!下を見ろ!」
会場では、三侯爵をはじめとして貴族全員が捕縛され、甲冑の兵士たちが倒れていた。
城を追われながらも、暴君討伐のために立ち上がり、ブランを指示してくれた仲間たちが、現君主の殿下時代を知りながらもブランへの協力を決意してくれた元陛下の従者たちも、皆がブランを見ていた。
ブランは自分が持つ王家の剣の重みを感じるとともに、剣を大きく振りあげた。
「父さん!
いや、皆を苦しめる圧政を強いてきた暴君であるおまえを!
許すことはできない!」
そして、目の前の暴君に、剣は振り下ろされた。
剣が目の前まで来て顔にあたると思った瞬間に、強制的に視点が舞踏会場の天井に移り、全体を見渡していた。
「許すことはできないんだ!」
壇上ではブランが、振り下ろした剣を後ろに引き、さらに勢いをつけて胸に突き立てている。
悲痛な顔をしているが、この主人公は容赦がない。
君主は剣が胸に刺さったまま、前のめりになり椅子から倒れ落ちた。
足元に倒れた父親を呆然と見ているブラン。
そこに駆け寄るスカイ。
「ブラン様!」
クラウドも階段を駆け上っていくのが見える。
「ブラン様!陛下!」
その後ろから金髪碧眼の双子の従者も必死な形相で駆け上がってきた。
舞踏会場は白い点滅のクランたちの圧勝で、祝賀パーティに招待された圧政に加担していた貴族たちが全員捉えられているのも見えた。
「スカイ、クラウド。
父さんを、父さんを倒した。」
泣きそうになりながらも、必死で涙をこらえているのがわかる。
そんなブランを、スカイが抱きしめ、クラウドがさらに二人を覆い、双子の従者は足元の陛下に跪いている。
そんな壇上を、ユージン、フレンド、ジミール、ガイが痛ましそうに見ているが、他の白い点滅のクランたちは喜びに沸いている。
景色が遠のくように小さくなって行き、360度シアターのように回り中に映像が飛び散り出した。
「エンディングがスタートしたのか。」
・暴君であった父の葬儀のシーン
・母にそっくりな元隣国の第二王女である王妃が後見となり、この国の王子になるシーン
・甘い汁を吸っていた貴族たちを排して、ブランが政治に着手するシーン
・ミマリ、ミズマリが暴君の墓に跪くシーン
・クラウド、近衛騎士、今回反乱を起こした白い点滅のクランたちがブランに忠誠を誓うシーン
・祖父からあらためて、この国の王位を与えられるシーン
最終的に、ブランはこの国の君主となり、スカイを片腕に、多くの臣下に忠誠を誓われ、グレーのバラを国花とし、暴君に荒された国を平和に導いていった。
エンディング曲が流れ、制作会社、制作に関わった代表者たちの名前がスクロールされた。
<<ゲームをクリアしました。>>
いくつかのシーンが停止した状態で、白い文字が点滅した。
<<2つのストーリーをクリアしたので、ミニゲーム ティールームがシェアできるようになりました。>>
<<ゲーム終了後、VR用の機器に付け替えてゲームをロードするとミニゲームでシェアできる部屋が選択できます。>>
<<ゲームを終了します。>>
体の感覚が戻ると、いつものようにヘッドセットを外してローテーブルに置く。
「シェア?」
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暴君ルートの主人公の話は、最終話の後に。




