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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
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4.ログアウト時にAUTOSAVEされます

夢から覚める感覚というのだろうか、ゲームからログアウトして思ったのは、今日は何曜日で、今、何時だろうというようなことだった。

だが、そう思ったときには、現実の自分の体の感覚、カウチに横になっている自分の感覚に戻っていた。

最初に気になったのはそこだったが、すぐに玄関チャイムのことを思い出した。


「寝起きの悪さとログアウト時の感覚は関係ないな。

頭がすぐに働いている。

睡眠に入っているわけではないからそんなものか?」


アイマスクをヘッドセットの上に戻しながら瞼を開くとすぐに視界が戻り、暗い場所から明るい場所にいきなり出てきたときのような視界の調整は入らなかった。

両手でキャリングケース部分を持ってヘッドセットを外しテーブルの上においてスマホを見る。


ピンポーン

もう一度、エントランスの玄関チャイムが鳴った。


テーブルの上に置いていたスマホを取り、応答すると宅配業者から荷物を届けに来たことを告げられたので、部屋の前まで持ってきてもらうように伝え、オートロックを解除した。


マンションのオートロックのインターホンがスマホと連動しているので便利だ。


スマホをテーブルに戻してカウチからゆっくり立ちあがり、両腕を上にして大きく伸びをしていると、玄関チャイムが鳴った。

「早いな、もう昇ってきたのか。」


玄関に行きドアアイを除くと、先ほどの宅配業者がドアより一歩下がった位置で待っているのが見えた。

急いで2つある鍵を解錠しドアを開けると、宅配業者がにこやかな顔でA4より大きめのクッション封筒を差し出してきた。

「お荷物です。

このままで、受け取りは、大丈夫です。」

元気の良い声だ。


「ありがとう。

ご苦労様。」

そう言ってクッション封筒を受け取るとドアを閉め、2つの鍵をかけ直した。


封筒を破りながらリビングに戻り、パソコンの画面に目をやった。

「ゲーム内では半日くらい経っていたけど、実際には、1時間ちょっとか。

3時間設定しておいたアラームは、停止してるな。」

パソコンの画面にゲーム終了のメッセージとプレイ時間が表示されていた。

プレイヤーがログアウトし、機器を外すとアラームは止まる仕組みになっている。


先ほど破った封筒をゴミ箱に入れ、カウチソファに座ると取り出した本の表紙を眺めた。

封筒はA4だったが中身は一般的なサイズのノベルだ。


「最近読んだ小説の2巻。

期待していなかった悪役令息物の1巻が割と面白かったんだよな。

続きが気になって頼んでたやつ、今日届く日だったか。

このシリーズイラストも奇麗なんだよな。」


さらに本を保護していた透明のビニールをペリペリと剥がしとった。

表紙をめくるとカラーページがあり、そこには先ほどまでゲーム内で一緒だった金髪碧眼の従者と同じ顔の二人の少女の絵が描かれていた。


「そうそう、この双子の美人姉妹、悪役令息につく従者二人。

俺の直近の従者のイメージはこの二人だから、ここからゲームの従者のイメージを返したんだな。

従者はプレイヤーと同性という設定だったから、男になっただけか。

部屋の雰囲気といい、キャラの顔と言い、影響されすぎだな。」

苦笑しながらカラーページをめくり、表紙、目次とページをめくろうとして、手を止めた。


両手でパタンと本を閉じると頭を項垂れて、大きくため息をついた。


「って、振られた相手に勧められた本だよ。

これ。

思い出したじゃないか。」

ゲームの中ではまったく思い出さなかったが、この本を勧めてくれたのは元カノだ。

一瞬でテンションが下がってしまった。


「せっかく、気分が乗ってきたとこだったのに、台無しだな。」

本をローテーブルの端の方に置きながら、大きく息を吐いた。


「まぁ、内容は面白かったし、気に入ったから、勧められた相手なんて関係ないよな。」

そう言いながら、同じテーブルに置いていたノートパソコンを引き寄せる。

画面にはまだ、先ほど確認したゲーム終了のメッセージとプレイ時間が表示されていたので、終了ボタンを押した。


会社のサーバーにデータが保存されるため、プログラム実行、終了の時間がシステムに通知される。

データ送信中のプログレスバーが表示され、すぐに消える。

そのまま、パソコン画面を見ていると、ピコンッとシステム音が鳴りテキストのメッセージが届いた。


「さっそく、シキからのメッセージか。

そう言えば、あいつ、俺のゲームログアウト通知の受信設定してたな。

とりあえず、デフォルトのプレイヤーネーム、ディスっとくか。」


カタカタカタカタと、キーを打ち、シキのメッセージにリターン。


「すぐにゲームを続けるか、それともちょっと休むか。」

そう言いながら、ソファから立ち上がるとキッチンの方に行き、冷蔵庫からペットボトルを取り出した。

キャップをひねると、炭酸水特有のプシュッという音がした。

炭酸水を飲みながら、先ほどまで座っていた黒いカウチソファを通り過ぎ、キッチンとは反対側の壁沿いに置いているパソコンラックの方に向かった。

パソコンラックの台には、デスクトップPCが設置してあり、ディスプレイの前のキーボードの横あたりにトウリから渡されたバインダーを置いている。

バインダーを手に取ると、先ほどまで座っていた黒いカウチソファに戻った。


「さっきみたいに急に終了したいときは、ログアウトとセーブが同時にできると助かるな。」

ペットボトルをローテーブルのノートパソコンから少し離れた場所に置き、バインダーを開いて手書きの印刷資料をめくる。


「おっと、キーワードの項目にログアウトの動作が書いてあった。」


・キーワード「ログアウト」プログラム終了とプレイヤーのログアウトを実行

・セーブ実行から5分以上たってログアウトされた場合、オートセーブとプレイヤーのログアウトが同時実行される。


「ポイント説明の入力がスキップされるのは、オートセーブの制限か。

オートセーブの場合は、セーブポイントだけが連番で追加され、次のセーブポイント選択時に、説明の編集が可能と。

じゃ、次はセーブせずにログアウトして、ポイント選択時に説明を入力してみるか。」


・オートセーブ時に保存先への接続ができない場合、ポイントは作成されず、プレイヤーのログアウトだけが実行される。

「セーブポイントを任意につくるタイプのゲームはこれが怖いな。」


バインダーをテーブルの上に戻し、ノートパソコンに向き直り、テキストエディタを開く。


「とりあえず、時系列でメモにまとめて、ローカルに保存しとくか。

15時から16時12分

プレイ時間、1時間12分」

カタカタカタカタとキーボードを小気味良くたたき始めると、パソコン画面に通話要求の受話器のアイコンが表示された。


「シキ?」

受話器アイコンをクリックし、通話に応答する。


「タクト、初回のプレイ時間が思ったより短かったけど、どうだった?」

ノートパソコンのスピーカーから探るようなシキの声が聞こえてきた。


「今から、メモ書きでまとめようとしているとこだ。

毎回、連絡してくるのが早すぎるって。

忘れないうちにまとめたいから、切るぞ。」

タクトはそう言って、受話器の停止アイコンを押そうとしたが、手を止めた。


「そうだ、NPCのキャラ。

姿形だけでも好感のあるキャラに囲まれるのはテンションが上がるからいいけど、悪役的なキャラは嫌いな奴のイメージが取得されてつくり出されるんだろ?

だとしたら、嫌いな奴を必要以上に嫌いにならなか?

創作物のキャラクターだったら、マシだけど、リアルな人間関係だったら困るだろ。

これ。」


喋りながらもエディタには、ゲーム内容をまとめるべく文字を打ち込んでいる。


スピーカーから、先ほどの重い声とは違った普段のシキのトーンの声が返ってきた。

「大丈夫だと思う。

嫌いな知人の顔だったとしても、会話をしているうちに別人だとわかるから。

最初は、嫌いな人物を投影するから、嫌いだと思う比率は現実と同じかな。」


「どういう意味?」


「例えば、普段の会話で、この人にこう言ったら、厳しい厭味が返ってくるだろうな、とか、予想するだろ?

そうすると、本当に予想通りになることで、更に、相手のことを嫌ったり、予想に反することで、見直したりとか。

NPCはそういったプレイヤーが、”この人ならこう言う”という期待を返さない。

あくまでもゲームのストーリーを進めるだけの行動をするから、相手のイメージをプラスにもマイナスにもすることができない。

ストーリーを進める過程でNPCのそういった行動が、プレイヤーに顔が似てるだけの別人という認識にさせるということ。」


「なるほど。

実際、別人だしな。

というか、別物か。

けど、無意識的に、嫌ってるやつとか出てきたら、嫌ってたって自覚はするかも?」


スピーカーから少しトーンの落ちた真面目なシキの声が返ってきた。

「それはない。

プレイヤーの認識していない、無意識を受け取ることは無理だから。

あくまでも記憶の表層、というか、認知している情報しか得られない。

今の技術では。」


「そうなのか?」


シキの返事の声のトーンがさらに落ちてきた。

「そう。

それに、無意識を拾い出すなんて、プログラムの仕事でもないと思うし。」


そう言って続けるシキの声は、だんだん低く重くなっている。

「もし、俺が無意識まで拾い出されたなら、ゲームどころじゃなくなる。

絶対無理。

技術が追いついても絶対やりたくない。

怖すぎる。

そんなことされたら、自分がどれだけダメなやつなのかと、のたうち回るしかなくなる。」


タクトはそんなシキに苦笑する。

「相変わらずのネガティブさだな。

どんだけすごいことしてるのか、相変わらず自覚しないな。

とりあえず、晩飯食ってから続き始めたいから、今のうちにまとめたい。

切るぞ。」


「わかった。

次のテストが終わったら、、、」


タクトはうっかり、シキの返事が言い終わらないうちに、停止ボタンを押していた。


「あ、しまった。

まあいいか。

次のテストが終ったら、また連絡するっていうんだろ?」

パソコンには通話終了のアイコンが表示している。


「無意識なんて拾い出されたら、ゲームにならないか。

まぁ、そうだよな。」


タクトは、再びキーボードをたたき始めた。

エディタに内容をまとめ終わると、ブラウザからログインしクラウドにある専用のチェックシートを起動させた。


まとめた内容を再度確認しながら、ふと、自分でも思わぬつぶやきが出た。

「そう言えば、息子っていくつだったんだろう。

それも教えてもらってなかったな。

彼女俺より少し下だったから、どれだけ大きくても小学校低学年くらいか?」


タクトはハッとして、思い切り頭を左右に振った。

「気が散ってるな。

なんでそんなこと考えてるんだ?」


顔を引き締めパソコン画面に表示した専用チェックシートを睨む。

「チェック項目は1万以上、先は長いな。」


OK、NG、要改良、テスター感想、テスター体調、等々

まとめたエディタを見ながら、判定、コメントなども要領よく入れていく。


カタカタカタカタとキーボードをたたくことに集中し、最初の100項目のチェックを入力し終えるころには2時間が過ぎていた。


「よし、とりあえず、終わり!」


両手を上に伸ばし、背筋を伸ばしながらソファに倒れ込んだ。

「これもゲームの中でできたら、時間的に10分前後で終わるのにな。」


「晩飯食ってから、次は、いつから始めるか。

遅い時間だと本当に寝てしまいそうだな。

これ、睡眠に入ったらどうなるんだったかな?」


横になったままバインダーに手を伸ばして取り、胸の位置に乗せ、パラパラと資料をめくる。

資料のアドレスをたどって、ページをめくったり戻したりして探す。


「ここか、探すだけで一苦労だ。」

・ゲーム中に有効な情報が取得されない時間が3分以上継続した場合、強制ログアウト


「意識があるうちは有効な情報が返されるが、睡眠に入ると返されなくなるのか。

強制ログアウトのときにオートセーブもかかると。」

・ゲーム開始前に設定したアラームが鳴り、任意的に止められない場合、3分後に強制ログアウト

「アラームは最大6時間設定で、それ以上はかけられない。

アラームをかけなければゲームもスタートできない。

最大6時間ごとの強制離脱は、健康面への配慮かな?」


バインダーをテーブルの上に戻して窓を見ると、日が暮れかけている。

「晩飯、何食べようかな。

テイクアウト、より、気分転換に外に出るか。」


部屋の鍵とスマホを持って玄関に向かう。

「とりあえず、定食屋に行ってから決めよう。

ゲーム内の食事で、晩飯に食べた定食なんか出てきたら笑うな。

というか、自分のイメージの貧困さにがっかりだ。」

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