38.値の振り分け
「ホソウクランの領地と王都までの道の整備の完了。
ここでことを起こしてもうすぐ10カ月くらいか。
優柔不断ルートほどじゃないけど、セーブ回数も増えたな。」
報告書を手に持ったままキーワードを唱えた。
「視点変更」
実は、レアリアとクラウドを見失わないように定期的に「視点変更」で二人の行方を追っていた。
そのため、公には明かされなかった二人の居場所が隣国であると知っている。
レアリアとクラウドは隣国でブランシュに再開した。
そして今、そのブランシュのお腹は大きくなってきている。
「もうすぐ、ブランが生まれてくるな。」
狭い部屋の中でユリ椅子に揺られて転寝をしていたブランシュの目が開いた。
「タクト、さま?」
「どうしたのブランシュ?」
同じ部屋にいたレアリアが声をかけた。
「なんでもない。
タクト様の声が聞こえたような気がしたのだけど、そんなはずないわよね。」
ユリ椅子に座ったまま、何かを探すように回りを見渡し、最後に小さな窓の外に目をやった。
視点変更中のタクト殿下はブランシュの表情を見て思わず報告書と一緒に机の上に突っ伏した。
悲しそうな表情をするブランシュを元気づけようとレアリアは陽気な声を出した。
「もうすぐ、クラウドも来ると思うわ。
ふふ、今月が産み月のあなたに力の付くものを食べてもらうって、張り切ってたわ。」
「いつもありがとう。」
レアリアは自分のお腹に手を当ててさすりながらブランシュに聞いた。
「ところで、名前はどうするの?
うちは、男の子だったらスカイ、女の子だったらリアにしようって言ってるわ。
まだ、生まれるまで1カ月は先だけど。」
ブランシュもお腹に手を当てて、フッと微笑んだ。
「ブラン、ブランにするわ。」
「ブラン?男の子の名前ね。
女の子だったら?」
「男の子だから、きっと。」
ブランシュがレアリアを見ていたずらそうに笑うと、レアリアも合わせて笑った。
二人が笑い合う中、クラウドが訪ねてきた。
「クローズ」
執務机に突っ伏していた顔を上げると、目の前にミズマリの顔があった。
「殿下、ご気分がすぐれませんか?」
「いや、大丈夫だ、それより、ミマリのお茶が飲みたい。
ミマリはどうした?」
ミズマリは笑顔を作っているが、何処か困ったような雰囲気を出している。
「城外に使いに行っております。」
「またか、お前たち、最近の行動は変だぞ。
金髪のまぶしさで、私がそう何度も惑わされると思うな。
まさかとは思うが、私を裏切る気ではないだろうな。」
ミズマリは目を伏せて首を振る。
「決して私たちは殿下を裏切ることはありません。」
そこに、城内に残った青い光のクランである近衛騎士が急ぎの書簡を持ってきた。
隣国のローズウエスト国の王が、戦争の準備をしているという内容だった。
「とうとう、ここまできたか。
開戦だな。」
慌てたミズマリが口を開いた。
「殿下、なりません。
もうしばらくお待ちください。
必ず我々がブランシュ様を見つけてまいります。」
「なんだと?」
いつも平静な従者が、悲哀に満ちた表情を隠そうともせず、金髪をふり見出した。
「殿下、隣国の王女と言っても偽物は偽物です。」
従者の行動に驚き、目を見開いたのが自分でもわかった。
「同情心が強いとこういう行動に出るのか。
偽物というか、両方本物ではあるけど、この場合は、身代り的な位置となるのは当然か。」
「その通りです。
身代わりを手に入れられましても、本物のブランシュ様には到底かないません。」
食い下がるミズマリに、ルートクリアのための最後の選択肢を見出して、思わず苦笑いしてしまった。
「ブランシュが見つかるはずがないだろう。
絶対に見つからないのは分かっている。
そんなに探したいなら、お前たち二人で探してこい。
見つけるまで、帰ってくるなよ?」
就寝時間の前に帰ってきたミマリと一緒にミズマリも、その日のうちに城外へ見送った。
その際に、もし見つかったら渡せと言って、不思議そうな顔をする二人に王家の剣を渡した。
「セーブ」
ピコンッと、少し離れた上空に文字が浮かび上がった。
<セーブポイント2-15を作成しました。説明を付け加えますか?>
「説明を付け加える。
略奪戦争前」
<セーブポイント2-15、略奪戦争前を作成しました。ゲームを続けますか?>
「やめる、ログアウト」
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感覚が戻るとカウチに座り直しながらヘッドセットを外しテーブルの上においた。
その手で、PCのディスプレイで何やら構えている虎をクリックしようとすると、避けられた。
虎はくるっと一回転しながら横に飛び、振り返りざまに、親指を立てて、二カッと牙をみせて笑った。
「なんだ?
こんなことも学習するのか?
よけいなAI機能つけてるな。」
「へっ
絶対世話焼いてやるって言ってるだろ。」
「ふーん、じゃあ白と黒のバラの花ことばを出してみてくれ。」
頬杖をつきながら半分投げやりに言うと、虎は待ってましたとばかりに、透明度の高いウィンドウを表示してそこにテキストを並べた。
「1つの花の1つの色にこんなにたくさんの言葉が付くのか。
しかも、本当に、こんな花言葉があるのか。
NPCへの知識ベースの情報タグの種類も量はかなりのものみたいだな。
設定された性格と、プレイヤーから与えられる値によって、知識ベースから次の言葉を選び出してストーリーを繋げている感じだな。」
「そうだろう、そうだろう。
俺たちはすごいんだ。
ただ、性格によって検索範囲が制限されるから、無知な部分も出てくるがな。」
虎が顎に手をやり目を閉じて、何回も頷いている。
「NPCと言って、それが自分のことだと受け入れたことに驚いたよ。
これからシキに確認したいことがあるから、今日はもう終わってくれ。」
「ふっ、仕方ないな。
唯一聞いたことが白と黒なんて、まるで俺の柄じゃないか。
おまえは俺に夢中ってことだな、じゃぁ、またな。」
「へっ?」
虎はいつものように後ろを向くと四つ足でしっぽを振りながら走っていった。
その後には終了メッセージが残された。
「夢中って、なにがだよ。」
終了ボタンを押して、表示されたプログレスバーが消えるのを待った。
10分ほど待ったが、シキからのメッセージが来ない。
通話アプリのアイコンを見てみると、シキのアイコンに通話中のマークがついていた。
「以前にも同じようなことがあったよな。
またグループ通話とか、ないよな。
ないよな?」
じっとアイコンを見ていると、通話中のマークが消えた。
自分の手を見ると、ぎゅっと握りしめていたようで汗をかいていた。
「何をやってるんだ、俺は。」
カウチから立ち上がろうとしたとき、ピコンッとシキからのメッセージが入ったが、とりあえず、洗面台に行き手を洗った。
その後、通話OKの返信をすると、いつものようにすぐシキからの通話が入った。
「タクト、お疲れさま、どうだった?」
「パソコンの前で待機しているお前にはもう驚かないけど、労いの言葉が出たのは意外だったよ。」
グループ通話じゃないことに残念なようなホッとしたような複雑な気持ちで答えた。
「そうか?」
気を取り直してゲーム内で気になったことを聞くことにした。
「とりあえず、いくつか確認があるんだけど?」
「確認?
めずらしいな。」
「クランサーチは、ヒロインが城内にいることが条件だって聞いたと思うけど、いないときも使えた。
これは仕様変更、バグ?
バグだとしても、便利だからそのまま正規仕様にしてほしいんだけど?」
「クランサーチ。
それ、トウリや他メンバーも同じこと言っていて、条件的にはヒロインの場所をプレイヤーが認識していること、に変更されている。」
「なるほど、わかった。
トウリは、暴君ルート、クリアしてるんだっけ。」
「そう、ポイントは、プレイヤー以外のNPCの感情のコントロールだな。
疑心とか増悪、落胆、怨恨、屈辱、嫌悪とかのネガティブ値をあげるようにしたって言ってたから。
マックスの5にすると、逆に臣下に殺されてのゲームオーバーになるから、4程度を目安にしたらしいよ。」
「何でそんな値がわかるんだ?
プレイヤーからは確認不可だろ?」
「何となくだって、感情のネガティブ値を貯めるようにしてるから、表情とか行動とか話し方とか?
後なんて言ってたかな、リアルとそう変わらないとか、なんとか?
とりあえず、俺にはまねできないようなとこまで見てたって感じで、それで、サクサク必要な配置ができたらしい。
ただ、女王陛下の場合、暴君ルートで、自分で生んだことになる赤ん坊が連れ去られるのを見てみぬ振りしないといけないから、そこだけ気分が悪いと言ってたな。」
「ジェンダーでパターンが異なる部分があるのか。
意識してなかったな。」
「パートナーの性別と、従者の性別と主人公が生まれる過程が違うだけで、後はほとんど一緒だ。」
「そうか、それなら、俺が手間取ったのは、ネガティブでも同情や悲哀の値が高くなってたからか。」
「そちらの値が高くなったのか。
タクトらしいと言えばらしいか。
その値が高いと、ルート確定まで時間はかかるな。
長引くってことは+4くらい行ってそうだな。
マックスの5になると、必要な場所への配置を拒否されるから、ゲームオーバーだったな。」
「あぶなかったのか。
一応、従者の配置まで済んで、次は闘争のダイジェストに入れれば暴君ルートの確定になるとこまで進んだ。
トウリは冷静に事を運んだんだな。」
「そう、冷静にというか、冷酷?、を、意識したらしい。
トウリといえば、そうだ、思い出したから伝えとく。
リーダーのお母さんたちの引っ越しが決まったってタクトに教えておいた方がいいと言ってた。」
シキが少しめんどくさそうに話しを変えた。
「そうなんだ?
でも、なんでいきなりそんなことを言う?」
リーダーという言葉に、心臓が跳ねそうになりながら必死で冷静さを装った。
「トウリが、ヒントを少しとかなんとか。
正確には覚えてないかな。
あまり興味が無かったから。」
シキはタクトの声の変化に気づくどころか、本当にめんどくさそうな声で答えた。
「ヒント、トウリが?
おまえのその性格まで見越して伝えているんだろうけど、難解なヒントだな。
リーダーのお母さんのが決まったってことは、リーダーたちの引っ越しはまだか。」
「リーダーたち?
リーダーとお母さんは別々だろ?」
シキが何を言ってるんだと言いたげな声を出した。
「んっ?
もちろん別々なのはわかっている。
新婚でもリーダー的には自分の親なら一緒に住みたいんじゃないかな?」
話がかみ合わないが、ヒントの意味はこれかも知れないと思いながら、淡い期待だと否定した。
「どうだろう。
相手に気を使ってのことだと思うから、俺にはよくわからない。
それより、伝えたから、ゲームのことに話を戻していいか?」
シキらしいと思いつつ、返事をした。
「わかった。」




