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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
37/48

37.灰色の薔薇のアーチ

婚約の断りの返信が届いてからも、定期的に婚約を促す書信を送り続けて9カ月以上が過ぎた。

ただし、最初は穏やかな内容だったのが、今では、渡さないのであれば戦争を仕掛けるという脅しになっている。


書信を送った後に「視点変更」で、隣国の第二王女の様子を見てみた。

地図上の場所がわかれば、その場所を見ることができるので便利だ。


優しく穏やかな性格の第二王女は自分さえこの婚約を受け入れれば問題がなくなると健気に振る舞い、大好きな騎士の結婚の申し込みを断っている。

婚約破棄は、ローズウエスト国の王である父親が許さず、婚約者である騎士はもちろん受け入れない。

長女でローズウエスト国の跡継ぎである第一王女は、国のこと第二王女の立場を考えて、また姉として複雑なようで、どちらに転んでも従うという体を取っている。


「我ながら、ひどい奴だと思うよ。」

執務机に向かって、ミマリの入れてくれたお茶をゆっくり飲みながら呟いた。


「書信を送り続けている間に戦争の準備を整えたし、この9カ月の期間に我ながらよくやったと思う。

しかもルート条件は残すところあと一つ、の、はずだ。」


陛下と毒を摂取した高位貴族をサイクラン領地に送り出し、その際には、近衛騎士であるユージンとフレンドを陛下の護衛として一緒に行かせた。

二人にはサイクランの屋敷の私兵の管理も任せている。


レアリアを追放すると同時に、やはりというかクラウドは護衛兵士という名誉を捨て、レアリアと一緒に城を去った。

「自分は仕方がないがクラウドまで辞める必要はない」と止めるレアリアを必死に説得する姿を、もちろん「視点変更」で見ていた。

レアリアとクラウドが何処に行ったのかゲーム内では公には明かされない。

彼らにはこのルートでも重要な役割があるためだ。


隣国と婚約の書信をやりとりする間に、ホソウクラン男爵からの報告書をもとに領地と城までの道の整備に取り掛かった。

これは優柔不断ルートで一度行っているのと同じ手順だ。

その時よりも期間をかけているが、人海戦術という手段は同じで10カ月かからず終わらせた。


他領地の税金が上がり、そこで暮らすことに音を上げた領民たちが、逃げ場を求めて仕事のあるホソウクランの領地に来るのは必然で、傭兵集めや領地整備、道路整備は順調に進んだ。

おかげでホソウクランの懐はかなり潤ったようだ。


「ミマリ、ジミールとガイの役職を城外の守兵から城内の護衛兵士に上げたが、二人の反応はどうだった?」

空になったティーカップを執務机のティーソーサーに戻すと、ミマリが手際よく追加のお茶を注いだ。


「はい。

喜んでおりました。

近々、こちらの執務室の護衛当番がまわるかと思います。」


「そうか。

喜んでいたのならよかった。」

白い湯気が揺らぎ立つティーカップを見つめた。


そして、必然と言えば、ドウシクランのような白い点滅のクランたちの行動だ。


ガイとジミールは、あの時、陛下の寝室で無理矢理に毒を飲まされた同志であるドウシクランを決して見捨てはしなかった。

ゲームオーバーの際は王子の暗殺にも協力するドウシクランだが、NPCたちにはそれは全く関係のないことだ。

だからあの寝室では、ただ、この国の王子の横暴ぶりを感じただけだろう。


その日兵舎に戻ったジミールとガイは、意識を何とか取り戻したドウシクランにこう勧めていた。

「ドウシクラン、こうなった以上、お前は王都にいない方がいい。

サイクラン様に騙されていたとはいえ、王や高位貴族に害する結果になってしまったからな。

俺たちが協力するから逃げるんだ。」


同じようなことが白い点滅のクランに対して、あちこちで起こった。

王子の足を踏んだとか、機嫌を損ねたとか、服を汚したなど、くだらない理由で処罰を与えられた兵士が次々と城を去って行ったのだ。

城に残るのは、王子に甘い汁を与えられた、または脅されている者たちばかりだ。


2杯目のお茶を飲み終えて、ティーカップをミマリに渡して王城の地図を確認すると、白い点滅が厨房の横の倉庫付近に2つあった。


厨房の横の倉庫は厨房より大きめに作られていて、厨房より8m四方石壁から飛び出して造られている。

商人から届いたものを倉庫に出し入れするとき以外は使われないため、その付近は普段は人目に付きにくい。

以前、クラウドがレアリアにプロポーズするために待ち伏せしたのもそれが理由だろう。


しかも倉庫には、厨房につながる扉、直接城内の廊下につながる扉、そして運ばれてきた荷物を出し入れするための外側の扉の3つの出入り口がある。

普段は城内側の扉しか使われないため、普段誰にも使われない外側の扉からなら誰にも知られずに城内に入ることができる。


「最近、毎日のように2つの点が同じ場所に集まってる。

この時期に、そこで怪しい動きをするNPCはいないはずだから、気に留めていなかったな。

念のために確認しておくか。」

ミマリに厨房に行くことを伝えると、すぐに茶器を片付けていた。

上着をミマリに渡そうとするミズマリに、別棟の1階にある厨房に行くだけだからいらないと伝え、そのまま二人を連れて執務室を出た。


石畳の廊下から厨房を覗くと、クックラン料理長がすぐに気づき、近づいてきた。

「タクト殿下、何か問題でもございましたか?」


「いや、問題はない。

ちょっと、通らせてもらうぞ。」

料理長を押しのけて厨房の中に入ると、そこで働いているメイドや料理人が手を止めて一斉に頭を下げた。

コックランは、陛下の専属料理人に大抜擢して、サイクランの屋敷に行かせているのでここにはいない。


料理長が専用の大きな調理台の横を通り、小さな台とその上に簡易的な竈が幾つか並んでいる場所を横切り、窓際の大きな竈が並んでいる場所の前を通り、外に通じる扉の前に立った。


ミマリが進み出てドアを開けると、目の前は荷馬車を2、3台止めることができる空地となっており、その左側にはクラウドがレアリアにそれを前にしてプロポーズを行っていた倉庫が見えた。


その倉庫の角付近に、何かが複数揺らいでいるのが見えた。


「なんだあれは。

グレーの、薔薇、の、アーチ?」


倉庫の壁に沿って歩き、壁中央の大きな木の扉の前を通り過ぎ、倉庫の角に近づくと、やはり、グレーのバラのアーチが並んでいた。

そして、そこには、ソージクランとホーキクランがいた。

厨房の倉庫横の白い点滅2つは彼らだったのだ。


「何をしているんだ?

その花は兵士に捨てろと言ったはずだ。」


タクト殿下に気がつくと、二人は慌てて深々と頭を下げた。

頭を下げたままのソージクランが恐々と口を開いた。


「申し訳ございません。

兵士の方が捨てたのを、わたくし共が拾いまして、それでここで。

何故なら、捨てるには惜しいほど、この花はとても珍しいものなのです。」


「珍しい?」


ソージクランはゆっくりと頭を上げて、バラのアーチを横目で見ながら説明をした。

「はい。

この花は、実はホーキクランが品種改良したものなのでございます。

屋敷の元の主であるサイクラン様は珍しいものが好きで、様々な植物の品種を改良させておられました。

先だっての毒薬もその過程に作っておられたもので、この花も品種改良されたもののひとつなのです。」


ホーキクランが頭を上げて、慌てて付け加えた。

「こ、この花には、もちろん毒成分はございません!

毒成分を持つ植物の栽培にも関わってはおりません。

ただ、今までにない色のバラを作れと言われまして。

この色はたまたま出来上がったもので、二度と作れる色ではございません。

ですので、私どもが働いていた、お屋敷の庭園にしか無いのでございます!

・・・それを根こそぎ持ってこられておりますので、庭園にもさほど残っておらず、枯れたら終わる品種でございます。」


枯れたら終るという最後の言葉にはかなりの悲哀が込められている。


「サイクランの領地から戻るときにバラの世話の監督をしていたのは、お前だったか。」


ホーキクランは再び深々と頭を下げた。

「申し訳ございません。

二度と作れないかと思ってしまい、出来心でございました。

お許しください・・・」

か細い声でホーキクランは許しを請うた。


ソージクランも深々と頭を下げた。

「ワタクシもそれに同情してしまいまして、申し訳ございません。」


頭を下げる二人のつむじを眺めるタクト殿下の後ろに控えていたミマリとミズマリが順番に口を開いた。


「白いバラには、純粋で神聖的な意味が、黒いバラは情熱と執着的な意味がありますが、この珍しい、グレーには二つの色の意味を併せもつ意味があるのかもしれません。」


「白いバラには「私はあなたにふさわしい」という意味もあり、黒いバラには「貴方はあくまで私のもの」という意味もあります。

要するに、白を黒が受け入れているということだと思われます。」


後ろの二人が、王子である自分とブランシュのことを言っているのだろうと気づいた。

恐らく、隣国の第二王女にブランシュを重ねて事を荒立てている、自分たちの主人に何かを訴えたいのだろう。


バラのアーチに目をやった。

「これまでの行動で二人は同情、忠誠、庇護の値の方が、失望、猜疑の値を上回っているという感じか。

だけど、同情心の値が一番高いと感じるのは気のせいか?

その場合の行動はどうなるんだ?

最後のルート条件達成は難しそうな気が。」


「はい。

殿下、二人には同情の余地があるかと思います。」

ミマリが同情という言葉に反応したようだ。


ミマリとミズマリを振り返ると、二人とも同じ顔でもの悲しそうな表情をしていた。

「哀れみ、か。

わかった、お前たちのその愁いある顔に免じて、ソージクランとホーキクランにはこのまま薔薇の世話を許そう。」


ソージクランとホーキクランは驚きの表情で顔を上げると、声を震わせて礼を言った。

「「誠にありがとうございます。」」


頭を下げた二人を素通りして、二人には目もくれず、バラのアーチの方に向かった。

「そうだ、ついでに、グミの木もこの付近に植えて、白くて小さな花がたくさん咲くように、世話しておけ。」


バラのアーチの向こうに去る背中に、ソージクランとホーキクランは大きな声で返事を返した。


「「はい!

仰せのままに!」」


バラのアーチをくぐりながらタクト殿下がこぼした言葉は、ミマリとミズマリに何かを決意させた。

「白を黒が受け入れている、か、黒を白に受け入れて欲しいと願うのは無駄なことか。」


その日を境に、いつも二人一緒にタクト殿下の後ろについていたミマリとミズマリは交代でつくようになった。

代わりにジミールとガイのどちらかがつくようになった。


護衛に付いた初日にジミールにクラウドのことを聞かれた。

「私などがクラウド様の行われていた殿下の護衛をさせていただけるとは大変光栄にございます。」


執務室の扉の前で甲冑姿のジミールが深々と頭を下げた。

「いや、あいつは勝手に辞めて出て行っただけだ。

尊敬できる行動ではないな。」


「クラウド様が?

城内護衛どころか城外護衛担当の我々でさえ、あの方の真摯さ、強さには畏敬の念を持っております。

そんな無責任なことをされるなど到底信じられません!」


ジミールは、両手を頭に乗せ、そのままバク転でもするつもりだろうかというくらい、体を大きくのけ反らせている。

「数カ月前に、処罰として城を追放した女と一緒に出て行ったんだ。

今頃は職も見つからずに、野垂れ死んでいるんじゃないか?」


冷静に冷たい目でジミールを見ると、それまで興奮していたジミールが正気に戻ったようで、背筋を伸ばして姿勢を正した。

甲冑姿のため、その表情は分からないが、複雑な気持ちであることは確かだろう。


「失礼いたしました。

護衛の任務に就かせていただきます。」


執務机を前に座り、積まれていたホソウクランの領地と王都までの道の整備の完了報告書を手にとった。

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