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討伐される暴君作成ゲーム  作者: かさのした
34/48

34.逃走の前

「恐らく、少量を少しずつ摂取すると一旦は爽快に元気になるのでしょう。

そうして、爽快感の中毒となり摂取をやめられなくして、長い間に蓄積されると毒になる成分でも含まれているのでしょう。

先ほどの言いましたが、ミマリとミズマリが調査中です。」


ソファの後ろから背もたれに片手を置いて、陛下から顔を離し倒れているドウシクランに目を向けた。


「そこに倒れているものが、陛下と元宰相であるサイクランとの繋ぎをしていたのでしょう?」


先ほど観音扉の前で近衛騎士と手紙の話をしたとき、後ろにいるドウシクランに一瞬目をやっていたのだ。

そうして振り返ったときに、ドウシクランは動揺してよろけていた。


「もともと、ドウシクランは元宰相の下についていた兵士でしたし。

容易に想像がつきます。」


陛下は口ごもって、何かを言おうとして、止めた。


観音扉の近くでは、ドウシクランを抱えたジミールとガイがそのまま扉の外に運んでいる。

「ドウシクランが元宰相の繋ぎを?

なんてことだ。」


「陛下にこのような毒をお渡しするなど、きっと、サイクラン殿に騙されていたんだな、可哀想に。」


お人好しの二人は、同じ兵士仲間であるドウシクランを悪く思うことができないようだ。


近衛騎士の二人が開けた扉を、ガイとジミールはそのまま出て行き、それと同時に扉を閉めて、近衛騎士は二人とも廊下の警護に戻った。


陛下の寝室には、タクト殿下、陛下、主治医、執事、メイド、そしてコックランが残った。

「陛下、こんな危ないものを摂取されていたのですよ。

私に相談なくこのようなことをするからです。

どのくらい摂取されていたのか分かりませんが、薬が抜けるまで療養が必要でしょう。

主治医、そうだな?」


主治医は慌てて、両手を胸の前で握って、お祈りのような恰好をした。

「もちろんでございます。

タクト殿下。

陛下、一度診察をして、解毒を始めましょう。」


診察を進める主治医に執事も頷いている。


それを見ながら、ソファの後ろから前に回り込むと、メイドが慌てて陛下の前から立ち上がって、壁際によった。

タクト殿下はソファの中央に座っている陛下の隣に腰を下ろしながら、なめらかな口調で話し始めた。


「ところで、陛下、婚約の件ですが、そろそろ許していただけませんか?

この国のルールでは陛下が生きているうちに結婚までしなければいけませんし。

孫を抱きたいでしょう?」


「うっ」

陛下は孫という言葉に、迷いが生じたようだった。

もう一押しと思い、念のために連れてきたコックランを見た。

「そこに立っている、コックランという青年は、現在の厨房の責任者であるクックラン料理長の息子です。」


陛下は振り向きもせず、ソファにもたれて目を閉じた。

「何が言いたいんだ?」


「クックラン料理長も平民ですが、ご存じでしたか?

ただ、腕のいい料理長に調味料を渡すように命じただけで、相手が貴族だとか平民とかは考えていらっしゃらなかったのでは?」


陛下の眼は閉じたままだったが、眉がピクッと動いた。

陛下が、今の厨房の料理長が作る料理を大変気に入っいるはの把握済みだ。


「もし、許可をいただけないなら、城の平民を全員首にしますよ?

そうしたら、美味しい料理もいただけなくなりますね?」


コックランは平民を全員首にという言葉に顔面蒼白になり、お盆を胸に硬直している。

陛下は、目を見開いて自分に似た赤茶色髪にグレーの瞳をした息子の顔を見た。


その目の中に本気の光を見たと思った陛下は、背中に汗が流れるのを感じた。

自分の息子はこんな性格だったのかと。

「なんて言いうやつだ。

自身の結婚のために、何の咎もないものを首にするなど!

おまえのような奴を暴君と言うんだ。」


暴君という言葉に、内心ガッツポーズをしているが、あくまでも冷静さを装いたたみかけた。

「有難うございます。

では、許可をいただけるのですね?

ついでに婚姻の許可もお願いします。」


目を見開いた陛下だったが、すぐに諦めたようだった。

「抜け目ないやつだな。

わかった。

許可しよう。」


王城の地図にあった目の前の白い点滅が青い光に変わった。

「これで、暴君ルートに入れるはずだ。

では、失礼いたします。

クラン集めも良好だな。」


ソファから立ち上がり、扉に向かうとコックランが、タクト殿下にすがるような瞳を向けて立っていた。

一緒に来るように告げて進むと、歩調を合わせるかのように扉が両内側に開き、両脇には外に出た近衛騎士が頭を下げている。

開いた扉を越えて廊下に出ると、その後をコックランがお盆を抱きしめて猫背のままついてきた。


「暴君ルートは、後、逃走フラグが必要で、その後闘争のダイジェストか。」


扉を閉めた近衛騎士がスープ皿を持っていたのを受け取ると、コックランが抱えるお盆に手を添えて、胸に垂直に持たせ、その上に乗せた。


「コックランは、それを厨房にいるミマリに渡しておけ。

こぼしたり、ましてや舐めたりするなと言っておくように。

あの瓶の調味料をほとんど入れさせたからな。」


コックランは血の気をなくした顔で首を何度も動かして頷き、緊張した足取りでそろそろと戻っていった。


タクト殿下はその足で、厨房を挟んで反対側にあるメイド部屋に向かった。

夕方になる頃の、皆が忙しい時間帯にメイド部屋を訪ねたのはブランシュに会うためだ。


ノックをして名を告げると、木のドアがそっと開きその隙間からブランシュが驚いた顔をのぞかせてた。

「タクト様、こんなメイド部屋まで来られるなんて、呼んでいただければ私から参りましたのに。

それに他のメイドも驚きます。

ただでさえ、平民の私にこんな良い部屋をいただいておりますのに。」


少し開いた扉に手を添えてゆっくりと押しながら中に進み入ると、ブランシュはドアをよけて部屋の中にさがった。

部屋に入りドアを閉めると、8畳ほどの広さの部屋は全体をすぐに見渡せた。

メイド部屋の中でも貴族のメイド用の一人部屋で、平民のメイドの部屋に比べると倍くらいの広さがある。

レアリアの隣の部屋にするというタクト殿下の意向でブランシュに特別に与えられたからだ。


壁際に木製のベッドと服が数着入る洋服ダンスが並んで置いてあり、その反対側の壁際には鏡台が、奥の壁には木板を押し上げて棒で固定して使う窓とその下に一人用のテーブルが据えてある。

石壁には心ばかりの壁紙も貼られて、床にはそれなりの絨毯も敷かれていた。


「王子妃の部屋とはくらべものにもならないのだけど。

他のメイドのことなら大丈夫だ。

夕方時の忙しい時間帯だから、メイド部屋はほとんど誰もいないようだったし。

隣のレアリアも戻っていないから、たぶん、クラウドと一緒だろう?」


ブランシュは笑いながら、一脚しかない椅子をタクト殿下に勧めて、自分はベッドの上に座った。


「ところで、どうされたのですか?」

銀の髪を揺らしながら、コテンと首を傾げて微笑むブランシュはとにかくかわいかった。


進められた椅子だったが、座らずにブランシュの横に座った。

ブランシュを見つめながらその手を取ると、自分の胸に近づけた。

「実は、陛下からやっと婚約と婚姻の許可をもらえたんだ。

だから、その報告に。」


ブランシュは驚きのあまり、目を見開いて口をハクハクと動かしてた後、大きく息を吸い込んで吐いた。

「ま、まさか、そんな、平民の私との?

許可?」


「そう、だから、今度君の瞳の色の花を持ってくるから、受け取ってくれる?」

じっと瞳を見つめると、その瞳が滲んできて涙がこぼれ落ちた。


「わたし、そんな、恐れ多いです。」

俯いて涙を流すブランシュを思わず抱きしめてしまい、硬く目を閉じた。


目をあけると、暗闇の中ブランシュのベッドの上で二人横になっていた。

奥の壁の木板の隙間から月明かりが差し込んでいる。

トントンと木の戸を叩く音がした。

「殿下、こちらにいらっしゃいますか?」

ミマリの声が聞こえた。


「なんだ?」

隣で眠るブランシュを起こさないようにベッドから出て、ドアの方に近づき返事をすると、ミマリが安堵の声を出した。


「夕方からどこにもいらっしゃらないので、お探ししました。

調味料の検査結果も出ております。

夜も更けておりますが、このままここでお過ごしになられるようでしたら、念のためにドアの前に警備の兵を配置いたします。」


「夜も更けたか、そうか、そう言うことか。

いや、報告結果を聞く。」


ベッドで眠るブランシュを振り返って、その寝顔に安堵しながらも、この先の展開を思って大きくため息を吐いた。


「暴君ルートの大体のストーリーを知っていると、こういうシーンは物悲しいな。」

うち開きのドアをゆっくりと開けて、外に出ると後ろ手に閉める。

ミマリとその後ろにミズマリも来ていた。


「執務室に行く。

報告を聞いてから、元宰相の領地をどうするか判断する。」

メイド部屋の棟を急いで後にして、3人は執務室に向かった。


「セーブ」

ピコンッと、少し離れた上空に文字が浮かび上がった。


<セーブポイント2-7を作成しました。説明を付け加えますか?>


「説明を付け加える。

婚姻の許可」


<セーブポイント2-7、婚姻の許可を作成しました。ゲームを続けますか?>


「ログアウト」


感覚が戻るとカウチに座り直しながらヘッドセットを外しテーブルの上におく。

その手で、画面のディスプレイに表示して今にも喋りそうな虎をクリックすると、虎はくるっと後ろを向いて画面の中央奥に向かって二足歩行のまま走り出した。

「ちくしょーーーーーー!

次会ったら、絶対世話焼いてやるからな!

覚えてろーーーーー!」

小さくなっていき、虎が消えると続いて表示された終了メッセージのボタンを押す。

プログレスバーが瞬時に消えた。


キーボードに手を置くとシキに外食に出るとメッセージを送り、両手をあげて大きく伸びをした。


「さてと、何処に行こうかな。」


マンションのエントランスを出て、歩道沿いにしばらく歩くとコンビニがある。

そのコンビニを通り過ぎてさらに行くと、最寄り駅がありその駅を越えると駅前の商店街があった。

商店街のアーケードの入り口を少し入ったところには、花屋がある。

店の前には、色とりどりの季節の花が種類別に、直径50cmくらいの緑のバケツに並べられていた。

その後ろには、鉢植えや苗などもあり、そこから店の奥には温度をコントロールできるショーケースに、ブーケや花かご、各種の高そうなバラ、蘭などが並んでいた。

横に広い店舗なのでどんな花があるのかがよくわかる。


更に商店街を先に進むと、時計・宝石店があった。

そのショーウィンドウには、指輪やペンダントトップ、ブローチなどの装飾品が並べてあったのだが、その中のムーンストーンの指輪を見たときに、あることに気がついた。


「そういえば、くすり指に指輪をしているのを見たことないな。」

以前みんなで飲みにいったとき、元カノの話が広がる原因となったあの時、小指にムーンストーンの指輪をしているのを見た。

「おじいちゃんが、おばあちゃんにプロポーズしたときに渡したとか言っていたような気が。

何で今頃、そんなこと思い出すんだ。」


誰の指か誰の言葉かとは口にできず、自分にあきれた。


「仕方ないよな。」


商店街の奥のいつも行く和食・家庭料理を中心としたカフェテリア方式のレストランに向かった。

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